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2023.12.28

オリックスFA加入・西川龍馬、吉田正尚よりも強烈なインパクトを残した高校時代

「打撃の天才」と呼ばれ、広島からオリックスへFAで移籍し、より期待がかかる西川龍馬がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは

ソロ本塁打を打ち、上がったボールを見つめる西川龍馬。
2017年11月19日、東京ドームで行われたアジアプロ野球チャンピオンシップ決勝の韓国対日本戦。7回にソロ本塁打を打った西川龍馬。

誰もが認める「打撃の天才」

プロ野球のストーブリーグも佳境を迎えており、フリー・エージェント(FA)権を行使した選手や、ポスティングシステムでメジャー・リーグ移籍を目指す選手の去就も徐々に固まる時期となってきた。

そんななか、国内FA権を行使して移籍した選手のなかで目玉の一人と言えるのが西川龍馬(広島→オリックス)である。

2015年に社会人野球の王子からドラフト5位で広島に入団。2年目には早くも一軍定着を果たすと、規定打席到達は3シーズンながら通算打率は.299を記録。2023年もセ・リーグ2位となる打率.305をマークし、チームの2位躍進に大きく貢献した。

その巧みなバットコントロールから打撃に関しては天才と言われることも多いバッターである。

先輩・吉田正尚よりも強烈なインパクトを残した高校時代

そんな西川は中学時代は大阪の大正リトルシニアでプレーしており、高校は福井の強豪である敦賀気比に進学していきなりレギュラーをつかんでいる。

しかし中学時代はそこまで騒がれていた選手ではなく、地元関西の強豪高校の監督からも目に留まらなかったという話を聞いたことがある。

実際にプレーを初めて見たのは1年秋に出場した北信越大会の対金沢戦だ。

相手チームのエースは当時から150キロ近いストレートを投げると評判になっていた釜田佳直(元・楽天)だったが、3番、ショートで出場した西川は2点タイムリーツーベースを含む3安打、2打点の活躍を見せたのだ。

正直、試合が始まった直後は釜田の投球ばかりに注目していたが、細身の1年生の巧みな打撃は強烈なインパクトを残した。当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「細身だが(当時のプロフィールは174cm、59kg)、攻守ともにセンスの良さは抜群。タイミングをとる動きが小さく、さらにゆったりしており、長くボールを見て手元まで呼び込むことができる。

釜田の速いストレートに対しても差し込まれることを恐れず、芯でとらえられるミート力は出色で、ミスショットが少ない。体を鋭く回転させて、力負けせずに強く引っ張ることができ、抜いた変化球に対しても体を残して対応する。

(中略)

守備は少し膝の使い方が硬く、重心が高いのも気になる。それでもスナップスローが上手く、動きの良さも申し分ない」

ちなみに西川の後の4番を任されていたのが当時2年だった吉田正尚(現・レッドソックス)であり、当然吉田のバッティングにも注目していたが、この試合では釜田の前に5打席ノーヒットに終わっている。そのこともあって、余計に西川のバッティングが強く印象に残ったのかもしれない。

新天地で高まる期待、“天才”の伸びしろ

最初に見た試合ではすこぶる好印象だった西川だが、その後は物足りなさを感じた時期もあったことは確かだ。

翌年は春の北信越大会の対北越戦、秋の明治神宮大会の対鳥取城北戦でのプレーを現地で見ており、いずれも1安打ずつを放ったが、体があまり大きくなっておらず、力強さが出てこないことに不安を覚えた。ちなみに2年秋の時点での体重は65㎏と1年時よりは増えていたものの、まだまだ細身だったことは確かである。

3年春には選抜高校野球にも出場しているが、チームは初戦で敗れ、西川自身も3打数ノーヒットに終わっている。卒業後は冒頭でも触れた通り社会人野球の王子に進むこととなった。

ようやくプロ入りの可能性を現実的に感じるようになったのが社会人3年目の2015年だ。

チームで3番に定着すると、都市対抗予選では5試合で打率.389、2本塁打の活躍を見せている。そしてこの年の試合で強く印象に残っているのが、都市対抗本選のセガサミー戦だ。試合は両チームの投手が好投し、7回まで0対0という緊迫の展開となったが、8回のワンアウト二塁の場面で打席に入った西川はレフト前に見事に弾き返す決勝タイムリーを放ち、チームを勝利に導いたのだ。

この試合に出場していたなかで、当時21歳の西川は最年少だったが、その集中力と打撃技術は誰よりも光っていた。

プロでの活躍は最初に述べた通りだが、その打撃技術を考えるとまだまだここから高みを目指せる可能性は高い。

本人もパ・リーグでのプレーを強く希望してオリックスを選んだと言われているが、3連覇中のチームでもさらに存在感を示して、打線を牽引する活躍を見せてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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TEXT=西尾典文

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