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2023.08.24

投手断念→ドラフト1位、未勝利&未セーブ→“正義執行”、激動の日ハム・田中正義の過去

2016年のドラフトでは5球団が1位入札で競合する“大器”でありながら、昨季までの6シーズンは未勝利&未セーブ。一軍通算登板も34試合しかなかった田中正義だが、2023年はセーブ成功を意味する「正義執行」がSNSでトレンドワード入りするなど、勢いが止まらない。日本ハムの絶対的守護神“ジャスティス”こと、田中正義がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは

大学時代の田中正義

FAの人的補償でやってきた日本ハムの“守護神”

それまで結果を残せなかった選手が移籍をきっかけにブレイクすることは少なくない。2022年オフに史上初となる現役ドラフトが行われたこともあって2023年は特にそういう選手が目立つ。

なかでも1、2を争う躍進を見せているのが近藤健介(ソフトバンク)のFAによる人的補償で移籍した田中正義(日本ハム)だ。

2022年までの6年間は故障もあって一軍で1勝もあげることができていなかったが、2023年はキャンプから好調を維持してクローザーに定着。

ここまでリーグ3位タイとなる18セーブをマークするなど、チームにとって欠かせない存在となっている(2023年8月10日終了時点)。

鮮烈な大学野球デビュー

そんな田中の存在をはっきりと認識したのは創価大学2年の時である。

春季リーグの開幕戦、創価大で当時評判になっていた寺嶋寛大(元ロッテ)をお目当てに足を運んだ時に、先発のマウンドを任されたのが田中だったのだ。

投げ始めるまでまったく注目していなかったが、試合前の投球練習の初球でいきなり146キロをマーク。その後も140キロ台後半を連発し、スタンドは徐々にざわつきが広がっていった。

そして試合が始まるとそのストレートは最速151キロまで到達。終盤に少し疲れからから制球を乱す場面もあったものの、9回を被安打4、11奪三振の快投で共栄大打線を完封して見せたのだ。

ちなみに田中はこれがリーグ戦初登板であり、寺嶋を視察に訪れていたスカウトたちも驚きを隠せない様子だった。

ここ数年は150キロを超える大学生投手は珍しくないが、2014年当時はまだまだ少なく、しかも実績のない2年生ということも驚きだった。当時のノートにも以下のようなメモが残っている。

「マウンド上で大きく見え、全身を使った伸びやかなフォームから140キロ台後半を連発。全体のバランスも良く、スムーズに腕が振れ、マウンドからホームベースまでが近く見える。(中略)終盤になっても勢いが落ちることなく、スタミナ面も申し分ない。投げているボールは今年のドラフト候補のなかでもトップクラス」

このシーズン、田中は7試合に登板して防御率0.43で最優秀防御率のタイトルも獲得。その後に行われた全日本大学野球選手権でも初戦で佛教大を無四球で完封すると、続く優勝候補の亜細亜大を相手にもリリーフで4回1/3を投げて1失点、8奪三振で勝利に導き、一躍大学球界を代表する投手の仲間入りを果たしたのだ。

ちなみにこの大会で田中は最速154キロをマークしているが、これは出場した全投手のなかでトップの数字だった。

投手を断念するも、新天地でクローザーに君臨

これほどの鮮烈な大学野球デビューはなかなかないが、もうひとつ個人的に驚かされたのが、高校時代の田中のプレーを見ていたことに後になって気づいたことだ。“存在をはっきりと認識したのは”という書き方をしているのはそのためである。

初めて田中のプレーを見たのは創価高校3年時に出場した夏の西東京大会、対立川戦だ。

当時、創価高校には現在田中とプロでもチームメイトとなった池田隆英(日本ハム)が評判となっており、田中は4番、センターとして出場。8点をリードした7回からマウンドに上がり、1回を投げて試合を締めている。

正直強く記憶には残っていなかったが、当時のノートには「センターから見せる返球の勢いは素晴らしい。フォームに悪い癖がなく、長いリーチを生かした腕の振りは出色。野手としても振る力はあるが、投手に専念したら大化けしそう」というメモが残っている。

後からノートを見返してメモに気づいた程度で、正直この時のピッチングは記憶には残っていないが、当時からポテンシャルの高さを示していたことは間違いない。

またさらに調べると、高校1年夏には早くも背番号1を背負っており、肩の故障から2年以降は外野に回っていたとのことだったのだ。

田中は大学3年時に大学日本代表として当時のプロの若手選抜チームとの交流戦で7人連続奪三振を奪い、その後は完全にドラフトの目玉としての地位を確立。その後は故障もあって最終的には5球団になったものの、大学4年の1月の段階では全12球団が1位指名もあるかと言われていたほどだった。

ただ、この頃にインタビューした時には自信に満ち溢れている感じも浮ついている感じもなく、むしろ少し影のようなものを感じたのを覚えている。

それは高校時代に肩を痛めて一度投手を断念したことからきているようで、本人も「今日が最後の投球になっても悔いがないようにと思って投げています」と話していた。

プロ入り後も故障に悩まされたこともあって、晴れやかな顔を見る機会はあまりなかったような印象だが、2023年はクローザーという大役を任されても伸び伸び投げているように見える。

新天地の環境でまさに生き返ったという表現がピッタリ当てはまるだろう。大学時代に見せていたスケールの大きさは圧倒的なものがあっただけに、2023年の活躍を新たなスタートして更なる飛躍を遂げてくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

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スターたちの夜明け前

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=日刊スポーツ/アフロ

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