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2026.03.06

納車まで5年。「免許がないのに先にバイクを買ってしまった」建築家・谷尻誠、最幸のBMWカスタムバイク

若い頃にバイクに熱狂したという建築家・谷尻誠氏は、突然その熱が再燃。大人なりの楽しみ方を考え、このBMWのカスタムバイクへと辿り着いた。【特集 最幸の贅沢】

バイクと谷尻誠氏

ワクワクしながら待った時間こそが贅沢な、BMWのカスタムバイク

乾いた冬の空気をビリビリと震わせながら、一台のバイクが登場した。タンクのエンブレムと特徴的なエンジンからBMWのバイクであることはわかるが、遠目からは型式がわからないほどにカスタマイズされている。

このバイクのオーナーは、建築家・谷尻誠氏。若かりし頃に中型二輪免許を取得し、ヤマハ「SR400」やホンダ「GB250 クラブマン」などを乗り継いできた彼が、大人の趣味としてもう一度バイクと向き合うために選んだのは、BMW「R80RT」のカスタムバイクだった。

「無茶しないで、ゆったり走れるバイクを探していたんですが、SNSで『46works』(ヨンロク・
ワークス)のレースバイクを見たんです。これが公道仕様になったら自分の理想だなと思い、すぐにアポイントを取って八ヶ岳にあるアトリエに赴きました」

谷尻氏が好むのは、1960年代にイギリスで流行した“カフェレーサースタイル”。低くコンパクトなライディングポジションと流麗なシングルシートのシルエットが特徴となる。そして「46works」を主宰する中嶋志朗氏はこのジャンルの第一人者であり、カフェレーサースタイルを纏ったBMWのカスタムマシンで知られている。クラシックレースにも参戦し、アルミ板金での外装製作からチタン手曲げマフラーや削りだしのパーツ製作などもひとりで行うというカスタムバイク界のカリスマだ。

「オーダーした時点で2年待ちと言われましたが、それも納得。それぐらい志朗さんが製作するバイクには魅力がありました。カスタムする際には、ちょっと失礼かもしれないですけど、こういうのできないですか……って、自分で描いたスケッチを送ったりしましたね。本当はシートの長さとかも理想があったのですが、それは難しいと言われて(笑)。もちろん希望もありますが、僕も仕事柄、製作者側の気持ちはわかる。最終的には初めに惚れこんだ志朗さんのレースバイクのデザインやスタイルにたどりつきました」

手元にバイクが届いたのは結局、オーダーから5年後だった。

「5年は予想外でしたが、いずれ完成するからと思っていたので問題はありませんでした。このバイクはこれからの人生で長く楽しんでいくものだから、じっくり待つ価値があったので」

ベースとなるBMW「R80RT」は、’80年代に製作されたもので、左右に張りだす巨大なフラットツインエンジンが特徴。この名車が「46works」によって、ほぼ原型がないほど入念にカスタマイズされている。

「洗練とクラシカルが混ざっているのが好きなんです。むしろ昔のままのヴィンテージというのは、機能面でちょっと心配もある。それは自分が建築を作る場合にも通じています。どこか懐かしさがあるんだけれど、現代的な洗練さも取り入れるといったように。自分の理想を追求すると、最終的にはカスタムやオーダーという形になる。気に入った洋服ならリペアして長く着ますし、愛用しているカメラケースは、長いレンズに合わせて古着をつけ足してカスタム。こうすると自分だけのオリジナルになりますから」

自分の好きなものは自分で考えて手に入れる。そこに新たに「R80RT」が加わったのだ。

さまざまな感動体験が仕事のレベルを上げる

建築家としてだけでなく、さまざまな事業を手がける起業家として多忙な毎日を送る谷尻氏にとって、バイクに乗る時間はひとつの贅沢になっている。

「ちょっと時間が空いたら仲間に連絡して、なじみのカフェまで行ってコーヒーを飲んで喋って帰る。そのくらいです。まさに“カフェレーサー”ですよね。本気を出せばかなり速いバイクを、ゆっくり流すのが丁度いい」

ちなみにバイク仲間は教習所仲間。以前から顔見知りだった知人に、教習所で再会したことで意気投合したという。

「大人になると、同じ趣味の人じゃないと遊ばなくなりますよね。バイクだけでなく、フライフィッシングやスノーボード、バスケットボールとか。コミュニティは大小さまざまで、集まる人は年齢も仕事もバラバラですが、何かを楽しむ機会を無理やりつくっているのかも。でもそこから、新しい気づきを得ることも少なくないですから」

趣味がきっかけでプロジェクトが始まることも多いそうで、そのひとつが北海道で進行中だ。

「北海道に竹竿作りの名人がいるのですが、彼に竿を作ってもらうために現地で釣りの旅をしたんです。その道中の景色があまりに綺麗で、これはもう北海道に拠点を作るしかないと思って。僕は遊びを大切にしたいしワクワクしていたい。その感動体験をロジカルに解析できれば、きっと建築にフィードバックできるはず。だから自分が楽しんだり、感動したりできる状態になるべく多く身を置いていたいですね」

その考えは「R80RT」にもつながる。実はバイクを「46works」に発注した時点で、大型二輪免許はなく、家族にも相談していなかったとか。

「先にバイクを買っちゃえば、もう免許も取るしかないし、家族も認めざるを得ないでしょ。だから考え方は駄々っ子と一緒(笑)。無理だなって諦めるのではなく、どうすれば実現できるか、その方法を考えるんです」

常識にとらわれず、やらなければならない状況を作って走りだす。それこそが谷尻誠という人間をここまで動かしてきた。

「建築の仕事って、世の中にある既成概念に対してどれだけ新しい提案をできるか、思いこみをどうやって溶かしていくかが求められます。BMWのバイクもエンジンがかなり特徴的なので、カスタマイズするにも制約があるはずなんです。でも、できあがったバイクは感動的に素晴らしかった。カスタムバイクは唯一無二のものが手に入る嬉しさやワクワクがあるし、『46works』とのやり取りも含めて楽しい時間になりました」

ワクワクすることが、仕事のモチベーションになる。そんな気持ちにさせるものに囲まれること。それこそが贅沢なのかもしれない。

谷尻誠/Makoto Tanijiri
建築家・起業家。1974年広島県生まれ。建築家として一般住宅や商業施設などの設計を行うほか、「tecture」「DAICHI」「yado」「Mietell」など事業を多角展開する起業家としての一面を持つ。近著に『建築家で起業家の父が息子に綴る「人生の設計図」』がある。

【特集 最幸の贅沢】

この記事はGOETHE 2026年4月号「総力特集:人生を変えるモノ&コト 最幸の贅沢」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

TEXT=篠田哲生

PHOTOGRAPH=岡村昌宏(CROSSOVER)

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