飲食業界のトップエグゼクティブが手に入れたのは“都心の別荘”。そこにはモノのみならず、デザインも時間も経験も、西山知義氏のやりたいことがすべて詰まった特別な空間が広がっていた。【特集 最幸の贅沢】

好きなものだけに囲まれた、刺激と新たな視点を与えてくれる大人の秘密基地
都内某所の閑静な住宅街、そのなかでも居住者しか通らないような細い道沿いに現れたのは、トタン張りの建物。実はここが「牛角」の創業者であり、現在は世界各国で「焼肉ライク」や「七宝麻辣湯」などの飲食店を500店舗以上展開するダイニングイノベーショングループファウンダー西山知義氏が手がけた別荘だ。
何かの倉庫と見間違えそうな建物の、漆黒に塗られた扉を開けると、そこには想像だにしなかった空間が。2階分以上吹き抜けになった高い天井の下には、磨かれた名車メルセデス・ベンツ280SLが置かれ、広い壁にはグラフィティアーティスト、バリー・マッギーのカラフルな作品が飾られている。
そして反対側に設えられたカウンターバーには、天井まで続く棚一面に並べられたレコードが。そんな広々とした空間は、天井や壁には味のある古材が多用され、マットブラックに塗装された梁や窓枠がアクセントとなり、完成して2ヵ月とは思えない、まるで何年も前から存在し、時を重ねたような居心地のよさを醸しだしている。
これまでもハワイや沖縄、そして湯河原、佐島、京都など国内外に理想の別荘を建ててきた西山氏。この家を建てたきっかけは、ふとした疑問からだった。
「地方の別荘は日常を離れられるという意味では素晴らしいですが、現実的には行く機会はやっぱり限られる。ならば、すぐに行くことができる東京に、別荘があってもいいんじゃないかと思ったんです」
もっと気軽に行ける場所、しかし日常ではない空間が欲しい。それが“都心の別荘”だったのだ。そんな思いを実現するために、西山氏がまずこだわったのは、その場所だ。
これまでも、湯河原ならサウナやバーベキューを楽しんだあと、川遊びができる渓流沿いに、佐島はクルーザーが停泊できる海を目前に、京都なら桜が舞い落ちる歴史ある祇園・白川沿いにと、その土地ならではの別荘を建ててきた。
「川も海も僕の物ではないけれど、だからこそ、その土地の力を利用したい。東京でもそんな付加価値を感じられる場所を探しました」
そんななか出会ったのが、都内でも広大な緑を抱く公園に隣接するこの場所だった。その環境を活かすために、建物裏手には暖炉を備えたテラスを設置。もちろん屋外キッチンも完備し、友人たちを招いてのバーベキューも楽しんでいる。
さらにその魅力を享受できるのが、屋上に設えたサウナだ。
「室内に作ることもできましたが、それよりもここならではの緑溢れる景色を楽しみたいと思ったんです」
昼間は緑を、夜は星を眺めながらととのう。そんな贅沢な時間を都会でかなえられるというわけだ。
音楽、クルマ、ジム、サウナ、すべてが揃った空間
アクセスのよさから、会食後に仲間をここに誘うことも。
「ここなら、食後にふらっと寄ってもらうことができる。忙しい方たちもここからだったらすぐに帰れるので、気軽に来てもらえるんです」
今回作ったレコードバーのスペースも、そんな時間を過ごすためのもの。1950年代の希少なJBLのハーランのスピーカーを探しだし、さらにマニア垂涎のLINNのプレーヤーを設置。揃えたレコードはR&B、AOR、シティポップにジャズなど2000枚を超える。仲間が訪れた時は、西山氏自らがカウンターの中に立ち、レコードをかけてお酒まで作って、もてなしているそうだ。
「レコードバーならやっぱりウイスキー。私が手がけている『TOKYO Whisky Library』では約1400種類のウイスキーを取り揃えているので、国内外で手に入りづらいウイスキーもここに揃っています。でも朝、天窓からの日差しを感じながら、音楽を聴いてここで飲むコーヒーもいいんですよ」

サウナ、レコードバーなど、西山氏が好きなものを集めたこの空間だが、もちろんクルマも欠かせない。今回ガレージハウス的なデザインにしたのは、特別な1台を手に入れたことも理由のひとつ。それがメルセデス・ベンツ280SLだ。フランフラン創業者である髙島郁夫氏が立ち上げた、ヴィンテージカー販売会社、アボダ・ガレージにオーダーし、フルレストアしたうえに、エンジンなどのメカニカルパートを現代に即したレベルにアップデート。内外装も新たにするレストモッドによって、新品同様に仕上げられた1台だ。
「動かさなくなってダメにしてしまうから、クルマは地方の別荘には置いておけません。でもここなら、時間がある時にちょっとだけ近場を走らせることもできる。自分にとっても、そんな時間がとてもいい気分転換になっています」
またこだわったのが、トレーニングの場所としての充実度。2階にはジム機器を揃え、踏み台昇降の台を置いた溶岩浴の部屋も作り、屋上のサウナとあわせ、ボディメイクに最適な場所を作りあげた。
「暑い部屋で汗をかきながら踏み台昇降し、筋トレもできてサウナにも入れる。自分が長年続けているトレーニングを全部揃えたので、ここができてからはトレーニングの頻度も上がりましたね」

世界中で見つけたアイデアを形に
別荘のデザインはすべて自らアイデアを出すという西山氏。今回のガレージハウスというコンセプトだけでなく、古材やモルタルを使ったラスティックな雰囲気や、それこそ水回りのタイル1枚にいたるまで、求めるイメージに近いものを探し、なければオリジナルで作るほど、そのこだわりは細部にまで息づいている。
こだわりを形にするために、仕事やプライベートで世界中を旅した時に、店やホテルなどの空間やインテリアで自らの琴線に触れたものはすべて撮影して保存。別荘を作る時のみならず、新規店舗の立ち上げなど仕事でも、これらのアイデアストックで明確にイメージを伝え、共有することで思いどおりの空間を実現している。
今回も空間イメージの発端はロスにあった店舗だそうだ。
「モルタルの床に木の天井の店の中に古いクルマが置いてあって、すごくいい空間だったんです。最初から綺麗にできあがってる感じではなく、古いものに新しいものをだんだんと付け加えていった感じを目指しました」

この地で得た視点がビジネスの刺激に
そしてこの場所で過ごすようになって楽しみになったのが、近隣のお店との出会いだという。
「この近辺には非常にクリエイティヴなお店が多いんです。ちゃんぽんが絶対的に美味しい居酒屋や、ジントニック専門のバー、地元の人で溢れるピザ屋など、一生懸命工夫していい店を作っている。そういうお店がたくさんあるので、美味しいお店を開拓するのが楽しいんです」
面白いお店が豊富にあるから、フットワークも軽くなり、それこそ自転車ひとつで出かけることも。そんなこの地ならではの体験は、自分の仕事にとっても確実に刺激を与えてくれているという。
「会食で行くひとり3万円のお店のお料理も、もちろん素晴らしい。でも、それとはまったく違うよさや楽しさがある。この値段でこんなに美味しいものを出すんだと、すごく勉強になっています。来ているのもご家族や若いカップルだったり。まさに自分の仕事はそういう方たちが来るお店作り。ここを拠点に積極的に新しいお店に行くようになり、自分の仕事にも大きな刺激になっているんです」
“都心の別荘”という新たな視点もさることながら、一度訪れれば皆口を揃えて「こんな場所が欲しい!」と言う、まさに大人の遊び場を作った西山氏。
ジムもサウナもクルマもレコードも、細部までこだわった空間に自分の“好き”を揃えた秘密基地は、街を知る契機となり、仕事への新たな視点も与えてくれた。
「僕の今のライフスタイルがすべて詰めこまれた完璧な場所、それがここなんです」
ただいいものを手に入れるだけではなく、自分が徹底的にこだわりぬいた環境に囲まれて、自分だけの時間を過ごすこと。そして、さらにそれが自分の人生を高めてくれるものであること。それこそが真の贅沢であることを教えてくれるのが、この場所なのだ。
西山知義/Tomoyoshi Nishiyama
ダイニングイノベーショングループ ファウンダー。1966年東京都生まれ。1996年に「牛角」1号店を開業し、7年間で1000店舗に拡大。2013年「日本の食文化を世界に」をテーマにダイニングイノベーションを設立。現在は「VANSAN」「焼肉ライク」「やきとり家 すみれ」「七宝麻辣湯」など500店舗以上をグローバルに展開する。
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