ツリーハウスに、絵本の世界のような世界観、はたまた人を招きたくなる空間。かつて夢見た暮らしをかなえた仕事人たちの家は、浪漫に溢れている。その家づくりのスケール感はもはや、大人の壮大な遊びなのだ。今回紹介するのは、ダイニングイノベーション インベストメント ファウンダー 西山知義氏の渓谷の別邸「GLAMP YUGAWARA(グランプ・ユガワラ)」。【特集 浪漫のある家】
西山知義が思考を深めるための唯一無二の空間
「誰にもまねできない、自分ならではの場所。日本中探してもこんな場所はないと思える、そういう空間をつくりたかったんです」
聞こえてくるのは、山から湧きでた豊かな水が流れる渓流のせせらぎと、森から聞こえる鳥の声、そして目を楽しませてくれるのは、森の深い緑と風が揺らす葉から垣間見える光の煌めき。そんな自然の音と空気に包まれながら語るのは、飲食業界のカリスマ、ダイニングイノベーション インベストメント ファウンダーの西山知義氏だ。
神奈川県・湯河原の街からほど近い山の中、飲料用水の水源になるほど透明度の高い新崎川の川辺に、西山氏の渓谷の別邸「GLAMP YUGAWARA(グランプ・ユガワラ)」はある。
これまでも佐島、京都、ハワイなどに別邸をつくってきた西山氏。どの物件も自分でテーマを考え、世界中旅した経験と数々の人気店舗を手がけた実績をもとに、家具から流す音楽にいたるまでをプロデュース。信頼するデザイナーとともに自分だけの1軒をつくってきた。
「どこをつくる時も“らしさ”を大事にしているんです。例えば京都らしさなら、和と歴史。だから祇園の路地奥にある町家を別邸に。京都に高級マンションを購入しても、それはホテルで過ごすのと同じで京都らしさを感じにくい」
もちろん、この渓谷の別邸も同様。運よく巡り合ったこの場所の“らしさ”といえば、透き通った水の渓流と溢れる緑という山の素晴らしさ。その“らしさ”を存分に活かすため、まずメイン棟だけを建てて実際に過ごしながら、何をつくりどんな楽しみ方ができるのかアイデアを練っていったという。
「来るたびに渓流沿いを歩き、自然の変化を肌で感じながら、ここなら絶景のサウナができる、ここにツリーハウスがあったらきっと楽しいと、イメージを膨らませていきました」
そしてできあがったのが、西山氏の浪漫がすべて詰まったこの渓谷の別邸だ。
「あくまで主役はこの渓流。この景色とここでできる体験を、最大限に活かす建物にしたいと思いました」
オーストラリアやタンザニアなど、実際に自ら訪れたホテルを含め世界中の情報を集めてつくり上げた大人の遊び場のテーマは、“グランピング”。渓流にスムーズにアクセスできる広いデッキを設け、家とアウトドアがシームレスにつながるようなつくりに。みんなが集まるリビングルームもまるでテントの中にいるような内装にし、実は鉄骨構造なのだが、景観と一体になるようすべて木材で覆っている。テント風のベッドルームやツリーハウスも設け、まさに西山氏の遊び心がたっぷり詰まった場所なのだ。
自然の恵みで心身ともにリセットする、3種のサウナと渓流の水風呂
さらなるこだわりが敷地内の3ヵ所のサウナ。なかでも訪れた人にぜひ楽しんでほしいというのが、ととのえ親方こと、松尾大氏が監修したバレルサウナ。
「ドアを開けた瞬間から楽しめるウエスタン・レッド・シダーの香りと、薪で暖める柔らかな熱がたまらない。そしてなんといってもこの景色。一面がガラス張りなので絶景を独り占めできるんです」
広い水風呂も自然の水源を活かして、この地の自然の恵みをとことん楽しみ尽くす。
「サウナに入り、水風呂につかり、時には川へ入ったり。とにかく解放感が違う。ここはぼーっとしているだけで心身が整い、心底癒やされる場所なんです」
建物のデザインも過ごし方も、お金をかけたわかりやすい豪華さではなく、自然にマッチしたつくりにしたという西山氏。
「とにかく居心地がいい空間にしたかったんです。だから、ここに来た方にずっと居たいと言われるのは嬉しいですね」
キャンプ場のアウトドアキッチンのような、敢えてラフなつくりにしたキッチンでは、土地の名物の干物や地元の肉屋で調達したソーセージを焼いたり、自ら特製の餃子やカレーうどんも振る舞う。この別邸が醸しだす心地よさは、来る者の気持ちを自然と解放し、何物にも代えがたい時間をともに過ごすことができる。
「自分の別荘のなかで最も癒やされるここは、今一番お気に入りの場所。スケジュールを見ては、少しの時間でも行ける時を探しているぐらいです(笑)」
今も来るたびに、やりたいことが次々と浮かぶという。
「今度は雨でも楽しめる卓球ルームをつくろうとか、大人の壮大な遊びの延長(笑)。次々と夢が膨らむ場所なんです」
世界のラグジュアリー空間を知り尽くした男がつくった渓谷の別邸。そこはいくつになっても忘れない好奇心と夢を詰めこんだ、唯一無二の秘密基地だ。
気持ちを開放し、新たな好奇心を生み出す基地たち
1.ツリーハウス
子供のころに誰もがワクワクした小説『トム・ソーヤの冒険』にでてくるようなツリーハウス。くすの大木のかなり高い位置につくられているので眺めも抜群。ツリーハウスの専門ビルダーが手がけ、釘を1 本も使わないなど木に負担をかけないつくり。四方を窓に囲まれたシンプルな部屋のベッドに横たわれば、森の中に寝ていることを実感する。ここでしか体験できない特別なベッドルームだ。
2.テントルーム
小屋の中にテントを設えている珍しいテントルーム。アウトドア感と快適性を両立させるため、このスタイルに。これももちろん、海外の宿や別荘からヒントを得た西山氏のアイデアだ。バスルームは、カーテンを開ければアウトドアバスにもなる。中はネイティブ・アメリカン風のインテリアに。敷地のなかでもすべてを見渡せる高い場所にあるので、テラスで風を感じながら過ごすのも気持ちいい。
3.キャンピングトレーラー
アメリカで探し続け、やっとみつけたという希少な1970年代のキャンピングトレーラー、エアストリーム。この年代の艶あるアルミのデザインは、マニア垂涎の1台だそう。見つけた当時はかなり痛んでいたが、内外装ともすべて改装し、快適な居住空間に。トイレ・シャワー、簡易キッチンのほか、Wi-Fiも完備。テラスにはハンモックも。バスタブはあえて外に置き、夜空の下で解放感を楽しむ。
DATA
所在地:神奈川県足柄下郡
敷地面積:約2,975平米
延床面積:約205平米
設計者:ろじ 成戸顕治
構造:木造
Tomoyoshi Nishiyama
1966年東京都生まれ。’96年に『牛角』1号店を開業し、7年間で1000店舗に。2012年「日本の食文化を世界に」をテーマに『ダイニングイノベーション』を設立。「焼肉ライク」などをグローバルに展開。