PERSON

2023.03.11

【前澤友作】秘蔵アートコレクションが並ぶ邸宅に潜入

「アート」とひと口に言ってもその幅は広く、過去、現在、未来と続く、非常に奥深い世界だ。各界で活躍する仕事人たちはアートとともに生きることでいったい何を感じ、何を得ているのか。今回は、スタートトゥデイ代表取締役社長・前澤友作氏の想いに迫る。【特集 アート2023】

前澤友作氏とアート

壁に直づけのシャルロット・ペリアンの棚の名は「雲の図書館」。前澤氏が好きな美術品、器、オブジェなどが整然と並べられている。

所有する苦しみ、痛み、重さを味わう人生を歩みたい

「宇宙なう」。2021年12月9日、前澤友作氏は国際宇宙ステーション(ISS)からそうツイートした。募集した実験などをこなす一方、自らの計画のなかからひとつ実行した。美術作品を設置したのだ。コンピュータや実験機器や撮影機材に囲まれている殺風景なステーション内に絵を飾りたかった。

「サイズの制限もあるし、持っていけるものといけないものがあるので、フレームも含めて材質は何かとか、かなりの時間をかけて事前に申請をし、ロシアの連邦宇宙局、ロスコスモスに許可をもらいました。大きくないキャンバスに描かれた作品をアクリルで全面額装して。ちゃんとしたペインティング作品を宇宙に持っていくというのは初めてだったようです」

前澤氏が持ちこんだ作品は井田幸昌『画家のアトリエ』。アートの持つ力を信じての行動だ。

「僕も12日間いましたけど、正直とても生活はしづらい空間なんですね。そういうところに例えば花だったり、アートだったり、小物だったりがあるときっといいだろうと思って、今回僕はアートを持ちこみました。そうしたら『このアートって誰のなの?』『日本人なんだ、すごくきれいな赤だね』『これは何を意味してるの?』などなど宇宙飛行士の皆さんともコミュニケーションが生まれました。僕が帰ったあともずっと飾ったままになっていて、きっと気に入ってくださったってことですかね」

常設作品になったと言う。

「そうです。持ち帰るのは大変なんです。持っていった荷物の5分の1くらいしか持って帰れないですから。あとは置いて帰るとか、捨ててこないといけない。なので服もそうだし、ほとんどのものを置いてくる。行く時は貨物室みたいなのがついた状態で行くんですけど、帰りは大気圏突入する時の邪魔になるので。本当にカプセルひとつで帰ってくるんです。だからアートは飾ったままに」

確かに殺伐とした空間が一瞬でちょっと豊かになった感じが映像から見てとれた。

「僕からするとアートのない暮らしは考えられない。アートは生きていくために絶対必要ではないかもしれないけれど、そうではない価値があるじゃないですか。宇宙にもその想いを込めて持って行ったんです」

前澤友作が宇宙ステーションに飾ったアート

2021年に、日本の民間人として初めてISSに渡航・滞在した際、前澤氏がISS内に飾った井田幸昌『画家のアトリエ』。「実験機器などに囲まれた味気ない空間だったのですが、このアートをきっかけに宇宙飛行士の皆さんとの間にコミュニケーションが生まれて嬉しかったですね」

直感で好きだと思うこと。それがアートを選ぶ基準

アートの持ちこみには驚かされたが、好きなアート作品や洗練された家具などに囲まれて生活している前澤氏にとっては普通の発想だったのだろう。今も毎月のように作品を買っているという。

「人生好きなように生きてきて、コレクションも好きなものをその時、その時で買っています。コレクションの大義とかコンセプトというのは特になくて、いいなと思ったら、予算の許す限り買うというシンプルな行動」

前澤友作邸のアート/ハロルド・アンカートが描いた 巨大なマッチ棒

ベルギーの画家、彫刻家のハロルド・アンカートが描いた巨大なマッチ棒。この作家は作品を購入するなら「2点買って、1点は美術館に寄贈してほしいと言うので、1点をゲントの公立美術館に収めた」そう。見つけたのはSNSだったが、現在はガゴシアンギャラリーに所属。

前澤友作邸のアート/エヴァ・ジャスキヴィッツ 『Lace Leaves』

前澤友作氏の自宅リビングに飾られているのは、1984年にポーランドで生まれた画家、 エヴァ・ジャスキヴィッツの作品。その世界観は圧倒的な存在感を放ち、空間を彩り、見る者を魅了する。

エヴァ・ジャスキヴィッツの絵は一年ほど前に購入。ポーランド出身の画家のものだ。

「彼女の作品はまだこの1点しか持ってないんですけど、もう本当に惚れこんでいます。髪の毛1本1本の質感とかもいいですね。顔を髪や布、あるいはこの絵は花ですが、そうやって覆ってしまう。それは女性がオブジェ化されているというか、アイデンティティがなく、美しい置物みたいに扱われることの状況を皮肉った感じです。イメージ自体は17〜18世紀のフランドル派の肖像画のイメージを引いていると言われています。大変な人気の画家で、選ぶ余地がないくらい。買えたらありがたい」

美術館に通うアートファンもいるが、買わなきゃわからないことや、購入することで見えてくる世界はあるのだろうか。

「やっぱり、買うイコール、リスクもついてくる。自分も頑張らないと買えないじゃないですか。アートシェアとかレンタルとかあるのはわかります。ビジネスとしては面白いですよね。でも、所有する苦しみとか、痛みとか、重さっていうのを僕は味わう人生を歩みたいなと。例えば、住む場所にもいえることで。地域に根ざして、地域でリスクを背負って、地域の人たちと協働する。自分の寝床にする場所を所有して、しっかりとその重みを自分の人生のなかで感じながら、生きていきたいんです。時代とは逆行してるんですけどね」

前澤友作邸のアート/ドゥエイン・ハンソンのリアルなガードマン

ドゥエイン・ハンソンの作品である等身大のリアルなガードマンに玄関で迎えられ、ギョッとする。脇の小テーブルはアレクサンドル・ノルによるもので、アレクサンダー・カルダーの作品などが載る。壁にかかる河原温の日付絵画はこの家の主、前澤氏の誕生日の日付。

前澤友作邸のアート/クリストファー・ウール『Untitled』

自邸の階段の壁にかかる河原温の日付絵画は3日連続の作品が2組並ぶ。突き当たりの作品は、クリストファー・ウールの『Untitled』。こちらはニューヨークのサザビーズのオークションで落札したもの。階段を降りるとさらに多くの作品に迎えられる。

名作は引き継がれ、残る。歴史の一部に関われた

作品は今も買い続けているが、その一方で売ることもある。昨年、前澤氏がジャン=ミシェル・バスキア作品をオークションにかけたこともニュースになった。

「買った値段の倍まではいかなかったけれど、結構利益が出てしまいました。こうやって、アートマーケットっていうのは歴史を重ねて、大きくなってきたんだなっていうのを実感したというか。つまり、価値あるものに価値をつけていく人たちがいて、そうやって順繰りに回って、名作は残されて引き継がれる。時に寄贈されて美術館に残ったり、個人の間で引き継がれて大切にされていったりとか、そういう歴史の一部に関われたことをすごく嬉しく思いました」

潔く手放す時は手放す、というのもアートコレクターに必要な資質なのだろうか。

「作品が大きすぎて、日本で飾るには飾りきれないサイズだったので、ずっと倉庫の中でした。もったいないと思いながら、そのままにしていたので、今後多くの皆さんに見ていただけるような飾り方をしてくれたら嬉しいです。こんないいバスキアはもう二度と出てこないだろうと思って買ったんですが、それよりさらにいいなと思うものが出てきて、それも手に入れました。コレクションを流動的に回していくというのは、見る人にとっても、マーケットにとっても、もしかしたらアーティストにとっても悪いことではないんじゃないかと思います」

もちろん、コレクターにとってもそうだ。入手のチャンスが巡ってくる。またオークション会社にしても、作品は仕舞いこまれるよりも頻繁にオークションにかけられることで利する。

前澤友作邸のアート/ブルース・ナウマン『EAT WAR』

ブルース・ナウマン『EAT WAR』は2つの単語が交互に点滅する。ジャン・プルーヴェのキャビネットやスツール、ジャン・ロワイエのテーブルなどできれいにまとめられている小部屋。傍らのワインセラーにはDRCの銘柄の数々やシャトー・ペトリュスなどが並ぶ。

アートも、古美術も、家具も、美術館構想は温めています

美術館をつくるという構想と抱負を以前話していたが今は、どうなっているのだろうか。

「その想いはずっと続いているんです。やるならどういうのがいいかというコンセプトメイクの段階からまだ出ていないのが現状ですね。設計も始まってなくて、これからなんです。よくあるようなものはやりたくないというのはありますね。プライベートミュージアムとしてどういうものがいいのかって、絶賛考え中です。アート作品だけでなく、デザインものとか、家具とかもそうですし、日本の古美術も飾りたいですね。クルマも面白いかもしれない。まだ検討中のことが多いです。やるなら千葉でとは決めていますが」

今、欲しい作品は? という質問に平安時代の仏像を挙げている。すでに仏像はいくつか持っていて飾っていたりもする。

「最近は日本の古美術、それも仏像が欲しいと思っているんです。仏像と向き合っていると、なんて言いますか、仏像は見透かすような目でこちらを見てくるわけです。そもそも仏像は人々の信仰の対象であり、救いを与える側としてつくられています。普通のコレクションとして所有したいという僕の立場からすると、そうやって自分を見透かすような目で対面してくる仏像に接することで、何かこう、自分を問い直せるのではないかと。単に救いを求めてのことではなくて。仏像のお顔も全部違いますよね。いろいろなお顔の仏像を欲しくなるんですよね。姿形もそれぞれ違って、時代によっても異なりますけど、鎌倉の強い表情のものよりも、平安の仏像の優しいお顔が好きです」

美術品の収集は限りなき旅、人生そのものなのである。

前澤友作邸のアート/織部透文四方手鉢

昨今は古美術・骨董の器にも深い関心を持ち、学び、収集するように。特に織部のグリーンからインスピレーションを受け、愛車などにもスペシャルカラーとして使っている。『織部透文四方手鉢』(桃山時代)。

前澤友作邸のアート/弥生式土器

『弥生式土器』(22.5×15.5㎝、口径15.5)。

前澤友作邸のアート/井戸茶碗

『井戸茶碗』(銘、白雲、李朝時代、16世紀、7.2×15㎝)。

前澤友作邸のアート/阿玉台式土器

『阿玉台式土器』(縄文中期、46㎝)。

前澤友作のハートを震わせた自邸所蔵の作家

PAINTING
エヴァ・ジャスキヴィッツ、ハロルド・アンカート、クリストファー・ウール、河原温、井田幸昌

SCULPTURE
アレクサンダー・カルダー、ヴァレンティン・キャロン、ドゥエイン・ハンソン、ジェフ・クーンズ

INTERIOR
ジャン・プルーヴェ、ジャン・ロワイエ、ディエゴ・ジャコメッティ、シャルロット・ペリアンetc.

 
【Collector’s File】
アート作品を買う頻度
毎月コンスタントに買っています
今最もお気に入りの作品
エヴァ・ジャスキヴィッツのペインティング作品『Lace Leaves』
最も影響を受けたアーティスト
X JAPANのYOSHIKIさん
アート作品を買う場所
ギャラリーがメイン。たまにオークション
今欲しい作品
平安時代の仏像
自邸で寛ぐ前澤友作氏

奥の銀色のパネルは、デザイナーでもなく建築家でもなく、自身を構築家と言っていたジャン・プルーヴェの『Porthole pa nel』。船の舷窓を彷彿とさせる小さな丸窓がついている。

スタートトゥデイ代表取締役社長
前澤友作/Yusaku Maezawa
1975年千葉県生まれ。早稲田実業学校卒業後、バンド活動の一環で渡米。帰国後、スタートトゥデイを設立し、インターネットショッピングサイト「ZOZOTOWN」を開設。2012年11月に現代芸術振興財団を設立し、若手アーティストの支援に力を注ぐ。

▶︎▶︎画像だけをまとめて見る【前澤友作氏の貴重なアートコレクションを一挙公開!】

【特集 アート2023】

TEXT=鈴木芳雄

PHOTOGRAPH=廣瀬順二

HAIR&MAKE-UP=CHIHARU YADA

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