華やかなオークションの現場、その裏にはアートを愛する人の、細やかなこころ配りがあった。フィリップス・オークショニアズの代表・服部今日子さんの仕事に迫った。
コンテンポラリーに集中したからこそできること
200年の歴史を持つ英国発祥のオークションハウス、フィリップス。アンティーク家具など競合他社同様、多くのカテゴリーを扱ってきたが、2014年にエド・ドルマン氏がCEOに就任後、コンテンポラリーをキーワードにオークションを6カテゴリーに絞る改革を行った。以降成果を上げ、’16年には東京オフィスが完成。
服部今日子さんが代表に就任後、日本での売り上げは300%増を記録するなど、近年もっとも勢いがあるオークションハウスだ。
「私はこれまでアートとは違う業界にいたのですが、趣味のアートコレクションを通じてエドと出会い、東京オフィスを立ち上げることに決めました」
服部さんの重要な任務に「国内でコレクターを探しだし、出品を依頼」という仕事がある。
「コレクション文化というものは日本には根強く、日本のコレクターの方は世界的に見ても素晴らしい作品をお持ちなんです」
’17年にはインテリアデザイナー片山正通氏の所有品「片山コレクション」でニューヨーク初の日本人シングルオーナーオークションを実施。作品はほぼすべて落札された。
またその際制作したカタログは、人気アーティスト、KAWS(カウズ)の真贋(しんがん)を見分ける資料として美術関係者に語り継がれているという。
ニューヨーク、ロンドン、香港などで行われるオークションに年10回ほど飛び回り、自身が手がけた出品作の行末を見守る服部さん。実際にオークションの現場に参加できない顧客のために、電話での代理ビットやオンラインビットの手伝いも行う。
「スマホからビットできるようにしたのは、実はフィリップスが初。戦略的にシステム投資を行い、お客様が参加しやすいような環境を整えることもオークションの成功には大事なんです」
服部さんにとって「プライベートセール」も大事な任務。オークション以外で、「作品を売りたい・買いたい」という要望に応え、オーナー同士をつなぐ。
「世界のネットワークを駆使して、誰がどの作品を持っているのか徹底的にリサーチをします。いい作品がちゃんと欲しいと思っているコレクターの手元に届く時は、冥利につきますね」
’19年に、オフィス兼ギャラリーを美術館が立ち並ぶ六本木へ移転。外国人観光客向けのガイドブックにも「アートの街」として紹介されている六本木だからこそ、その地で日本のコンテンポラリーアートを知らしめるべきだと考えたのだ。ギャラリーでは若手作家を集めたイベントが日々開催されている。
「六本木に来られる海外の方に、日本の若手アーティストと触れ合っていただきたい。作家と話すことができるのはコンテンポラリーの魅力です。そして遠くない未来に、『六本木で会ったあの作家が有名に!』ということがあったら嬉しいですね」
フィリップス・オークショニアズ
住所:東京都港区六本木6-6-9 ピラミデビル4F
TEL:03-6273-4818
営業時間:10:00~17:00
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服部代表直伝!オークションで意識するべきポイント
1. 5ロット目までの作品に注目する
「世界的に注目されプライマリーマーケットで完売した作家の作品は、だいたい最初の5ロットまでに出品されます。特にコンテンポラリーは値段の上下が大きく、今熱いものを知りたければ5ロット目までを見てください」
2. 価格を気にせず好きなものを追い求めよ
「何十年もコレクションしている方はマーケットを意識せず、好きなものを集めています。欲しいものが明確なら高額でも、オークションに参加し、手に入れる意義がある。結果、コレクションとしても価値が上がるのです」
3. コレクター同士の交流を深める
「アート作品を買っていると、自分自身のこともよくわかります。またコレクションを通じて世界中で人間関係を築くことができ、そういう方同士で情報交換をするのもオークションのひとつの楽しみ方ですよ」
フィリップス・オークショニアズが選ぶ! オークションを彩った名作たち
アーティスト本人が手放さなかった、作家の原風景
2020年12月7 日のニューヨーク、コンテンポラリーイブニングセールの目玉出品作。ホックニー自身が気に入って手放さなかった作品だが、「ピカソの作品が欲しい」というホックニーと取引をしたギャラリーが、1982年に入手。「オークションに出品されるのは、それ以降初ですから、歴史的でした」
歴史的名作はオークションの歴史も変えた
2018年、ロンドンでのオークションで落札されたピカソの作品(1932年)。「こんなに美しくて、まるで映画のような作品を扱えることに興奮しました」。この回のイブニングセールは他にもマティスなどが出品され、総落札額は約136億円となり、フィリップス史上最高額となった。
一騎討ちで7倍の価格まで! オークションの醍醐味を知る
1979年アメリカ生まれのエミリー・メイ・スミスのシュールな作品は近年人気が高く、2019年のオークションでは予想落札価格の7倍もの値段がついた。「この価格の跳ね上がりはなかなかないことです。最後は2名の方で競り、ヒートアップしました。白熱したオークションでとても興奮しましたね」
目利き日本人コレクターが長年愛した逸品
かつて87億円の値がついたこともあるサイ・トゥオンブリー、その1969年の『Untitled』シリーズ。とある日本人オーナーが’80年代に購入したこの作品を、2019年にニューヨークのオークションに出品。オーナーが日本人であったことが世界を驚かせ、服部さんも「誇らしかった」と胸を張る。
Kyoko Hattori
フィリップス・オークショニアズ日本代表。静岡県生まれ。東京大学卒業後、マッキンゼー&カンパニーに勤務。その後不動産投資ファンドに従事し、2016年にフィリップス東京オフィスを立ち上げる。「オークション参加は、お電話1本くださればお手伝いしますので、初めてでも簡単です」