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2023.09.24

日本の既婚男性4割が経験。“不倫”のメカニズムを脳科学的に考えてみた

日本ではメディアを騒がせることも多い不倫。不倫をしない人もいれば、繰り返す人もいる。では、不倫に走りやすい人とはどんな脳の状態なのか? 1万人以上に脳科学的ノウハウを講演してきた脳科学者・西剛志が考察する。連載「何気ない勝者の思考」とは

Unsplash/Ihnatsi Yfull ※写真はイメージ

近年の日本の不倫事情の衝撃

2023年、日本を驚かせたあるデータが発表されました。2020年に行われた日本全国6651名を対象にした調査で、既婚男性の46.7%、既婚女性の15.1%が婚外性交渉を行なった経験があったというのです(*1)。

男性の場合は風俗利用を除いても約40%、男性の5人に2人が不倫をしたことがある計算になります。

これまで世界的にも不倫率は男性で25%、女性でも20%前後というのが一般的でした(*2)。しかし、今回は個人が特定されないインターネット回答だったため、特に男性はかなりリアルな数字と言えるかもしれません。

実際に対面で質問するよりパソコン入力だと浮気の報告率が約6倍多くなる報告もあるため、信頼できる結果と言えるでしょう(*3)。

また若く結婚した人ほど不倫をするリスクが更に高まるそうです(*4)。

なぜ、不倫をしてしまうのか?

不倫は日常生活にたくさんの不都合をもたらします。多くの文化圏で不道徳な行為としてみなされ(*5)、多くの芸能人や著名人も情事が発覚すると、職を失ったり、家庭が崩壊したり、社会的な信用を失う、メンタルヘルスが壊れるなど、一瞬で人生が崩壊するリスクがあります(*6)。でも、なぜ、そんなリスクをかかえてまで、浮気をしてしまうのか? 実は脳科学では、この浮気をする人としない人の違いが調べられていて、現在までにいくつかの重要なことがわかってきました。

不倫をする人は脳がドーパミン中毒の可能性

不倫をすると、燃え上がる。よく聞く言葉ですが、実際に私達は熱愛しているとき、脳は20箇所以上の部位が同時に活性化して、その中でもドーパミン神経の中枢と言われる腹側被蓋野や腹側線条体を含む報酬系と呼ばれる場所が大きく活動します(*7)。

報酬系とは、目の前に美味しそうなケーキがあったら、発火する場所。思わず「食べたい!」という思いは、この報酬系が活性化するからです。

しかも、不倫をする人は、この報酬系が大火事になっている可能性が指摘されています。その理由の1つが、浮気をする人ほど、性欲を生み出す男性ホルモン(テストステロンの量)が一般の人よりも多いことです(*8)。

男性ホルモンは、報酬系のドーパミン神経を活性化させます(*9)。つまり、ドーパミンという炎に油を注ぐような状態のため、男性ホルモンが多いと、好みの異性を見ると盲目になってしまうリスクが高まります。

普通はパートナーがいると「減衰効果」と言って、魅力的な異性の写真を見ても、報酬系の快感は抑えられます(*10)。しかし、不倫をする人は脳の活動が高いため、減衰効果が弱まってしまうようです。

しかも、この男性ホルモン=男性だけというイメージが強いですが、実は女性でもつくられています。男性の場合は、そのほとんどが精巣からつくられ、女性は卵巣と腎臓でつくられます。

女性は30〜50才にかけて女性ホルモンよりも男性ホルモンの比率が多くなることから、若い頃よりも不倫をする率が高まる傾向があるようです(もちろん、それ以外にも要因は考えられるでしょう)。

背徳感が更に炎を燃え上がらせる

もう1つ言われていることが、浮気が社会的にタブーとされているため、浮気をすると『錯誤帰属』という状態になって、快楽になってしまうことです(*11)。

私はこれをロミオとジュリエット効果と呼んでいます。

隠し事をするとドキドキします。そして、それを二人で共有するとより信頼感が深まります(*12)。吊り橋を渡るとドキドキして相手が好きだと錯覚してしまうように、不倫でスリルを味わうと脳は「相手が大好き」と更に勘違いしてしまうのです。

お酒とストレスは不倫の温床

不倫は一度やってしまうと、回を重ねるほど罪悪感が減っていくことがユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの研究でもわかっています。また、倫理的でない行為を繰り返すほど、「よくないことをした」という記憶は薄れてしまうようです(*13)。

つまり、不倫をすると罪の意識は消えていきます。一度浮気をすると、次回の付き合いで浮気をする率が3倍にもなります(*14)。

よく「魔が差す」と言いますが、不倫は一度やったら命取りです。

じゃあ、なぜ魔が差してしまうのか?

これは脳の前頭前野(特に右側の腹外側前頭前野:VLPCF)が弱っているから。つまり、感情のブレーキが弱っていることが脳科学の研究でわかっています(*15)。

しかも、前頭前野はお酒を飲んだり、負荷をかけると機能が落ちやすくなります(*16)。

例えば、仕事が忙しい、人間関係でストレス、子育てやこれからのことでパートナーと口論になった、そんなときふらっと立ち寄ったお店でお酒を飲んでいたら、素敵な女性と出会って意気投合、気づいたら恋に落ちてしまう、そんなシーンが容易に想像できないでしょうか。

実際に、アルコールの量と鬱状態(マイナスな気持ちの状態)は、統計学的にも不倫と相関関係があることが調査でもわかっています。

つまり、異性と会うときは、疲れた状態とお酒を避ける。これが不貞を防ぐ1つの方法です。ただし、これだけでは難しい!と言う人がいるかもしれません。

そこで次回は、研究からわかってきた、不倫に走らせる脳になってしまう4つの環境、そして最終的に人類は不倫をなくすことができるのか? この壮大なテーマを扱っていきたいと思います。

※次回に続く

脳科学者・西剛志「勝者の思考」
西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上に講演会を提供。メディア出演も多数。著書に『世界一やさしい 自分を変える方法』『あなたの世界をガラリと変える認知バイアスの教科書』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』など海外を含めて累計31万部突破。

<参考文献>
1.五十嵐彰、迫田さやか「不倫-実証分析が示す全貌」中公新書2023年
2. Greeley, A. (1994). Marital infidelity. Society, 57(4), 9-13/Laumann, E. O., Gagnon, J. H., Michael, R. T., & Michaels, S. (1994). The social organization of sexuality: Sexual practices in the United States. Chicago: University of Chicago Press /Whisman MA, Dixon AE, Johnson B. Therapists’ perspectives of couple problems and treatment issues in couple therapy. Journal of Family Psychology. 1997; 11(3):361–6.
3. Whisman MA, Snyder DK. Sexual infidelity in a national survey of American women: Differences in prevalence and correlates as a function of method of assessment. Journal of Family Psychology. 2007; 21(2):147–54.
4. Atkins DC, Baucom DH, Jacobson NS. Understanding infidelity: correlates in a national random sample. J Fam Psychol. 2001 Dec;15(4):735-49. 
5. Balzarini, R. N., Shumlich, E. J., Kohut, T., & Campbell, L. (2018). Dimming the “halo” around monogamy: Re- assessing stigma surrounding consensually non- monogamous romantic relationships as a function of personal relationship orientation. Frontiers in Psychology, 9./Prins, K. S., Buunk, B. P., & VanYperen, N. W. (1993). Equity, normative disapproval and extramarital relation- ships. Journal of Social and Personal Relationships, 10, 39–53.
6. Amato PR, Rogers SJ. A longitudinal study of marital problems and subsequent divorce. Journal of Marriage and the Family. 1997;59:612–624/ Betzig L. Causes of conjugal dissolution: A cross-cultural study. Current Anthropology. 1989;30:654–676/ Shackelford TK. Self-esteem in marriage. e: An evolutionary psychological analysis. Personality and Individual Differences. 2001;30:371–390/ Cano A, O’Leary KD. Infidelity and separations precipitate major depressive episodes and symptoms of nonspecific depression and anxiety. Journal of Consulting and Clinical Psychology. 2000;68:774–781
7.Zeki S.“The neurobiology of love”, FEBS. Lett. 2007, Vol.581 (14), p.2575-9/Bianca P. Acevedo, Arthur Aron, Helen E. Fisher, Lucy L. Brown, Neural correlates of long-term intense romantic love, Social Cognitive and Affective Neuroscience, Volume 7, Issue 2, February 2012, Pages 145–159
8. Klimas C, Ehlert U, Lacker TJ, Waldvogel P, Walther A. Higher testosterone levels are associated with unfaithful behavior in men. Biol Psychol. 2019 Sep;146:107730. 
9. Purves-Tyson TD, Owens SJ, Double KL, Desai R, Handelsman DJ, Weickert CS. Testosterone induces molecular changes in dopamine signaling pathway molecules in the adolescent male rat nigrostriatal pathway. PLoS One. 2014 Mar 11;9(3):e91151
10. Simpson, J. A., Gangestad, S. W., & Lerma, M. (1990). Perception of physical attractiveness: Mechanisms involved in the maintenance of romantic relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 59, 1192–1201/ Pronk, T. M., & Righetti, F. (2015). How executive control promotes happy relationships and a well-balanced life. Current Opinion in Psychology, 1, 14–17.
11. Dutton, D. G. & Aron, A. P.(1974). Some evidence for heightened sexual attraction under conditions of high axiety. Journal of ersonality and Social Psychology, 30, 510-517.
12. 西剛志著「脳科学的に正しい一流の子育てQ&A」ダイヤモンド社(2019年)
13. Kouchaki M, Gino F. Memories of unethical actions become obfuscated over time. Proc Natl Acad Sci U S A. 2016 May 31;113(22):6166-71.
14. Knopp K, Scott S, Ritchie L, Rhoades GK, Markman HJ, Stanley SM. Once a Cheater, Always a Cheater? Serial Infidelity Across Subsequent Relationships. Arch Sex Behav. 2017 Nov;46(8):2301-2311.
15. Meyer, M. L., Berkman, E. T., Karremans, J. C., & Lieberman, M. D. (2011). Incidental regulation of attraction: The neural basis of the derogation of attractive alternatives in romantic relationships. Cognition and Emotion, 25, 490–505.
16. Heatherton, T. F., & Wagner, D. D. (2011). Cognitive neuro- science of self-regulation failure. Trends in Cognitive Sciences, 15, 132–139.

■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。

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TEXT=西剛志

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