ミラノの名門アルファ・ロメオの新しいエントリーモデルが、コンパクトSUVのジュニア。はたして、“アルファらしさ”が宿ったスタイリングやフットワークは、エンスージアストのセカンドカーにうってつけだった。

自動車王も帝王もひれ伏すブランド力
取材などでヒストリックカー愛好家にお目にかかることも多い。もちろん、希少で歴史的な価値も高いヒストリックカーが主役であるけれど、オーナーが「サンダル代わりです」とか「足です」と言いながら普段使いしているセカンドカーも興味深い。
「サンダル代わり」とは言うものの、安っぽいクルマやありきたりのモデルにお乗りのケースは皆無で、機能的ではあるものの、デザインやメカニズムにひとひねりあるものを選んでいるケースがほとんどなのだ。

もし筆者がヒストリックカーのオーナーで、サンダル代わりのセカンドカーを探すとすれば、いよいよ日本の路上を走り始めたアルファ・ロメオのジュニアが有力候補となるだろう。このクルマを選ぶ第一の理由は、立派なヒストリックカーと同じガレージに収めても、位負けしないことがあげられる。
そもそもアルファ・ロメオというのはクルマ好きにとって特別なブランドで、伝説的なエピソードに事欠かない。たとえば自動車王と呼ばれたヘンリー・フォードは1939年に、「私はアルファ・ロメオが通るたびに帽子を取る」と語っている。また、アルファ・ロメオのドライバーだったエンツォ・フェラーリは、独立して立ち上げたスクーデリア・フェラーリが初めてレースでアルファ・ロメオに勝った日に、「私は母を殺してしまった」という言葉を残している。
といったわけで、ミラノ市の市章とヴィスコンティ家の家紋を組み合わせたアルファ・ロメオのエンブレムがついていれば、格式高いヒストリックカーの隣に並べてもバランスがとれるのだ。参考までに、「ジュニア」という車名も、1960年代の「GT1300ジュニア」というモデルから引き継いだ、由緒正しいものだ。

しかもエンブレムだけでなく、アルファ・ロメオ・ジュニアは、デザインの至るところにこのブランドらしさが表現されている。ジュニアは、日本車ならトヨタのヤリス・クロス、輸入車だったらフォルクスワーゲンのTクロスとほぼ同じサイズのコンパクトSUVで、最近の流行り、売れセンだ。
けれども、ほかのコンパクトSUVとは異なる、強いデザインをまとっている。
まずフロントマスクは、スクデット(盾)と呼ばれるアルファ・ロメオ伝統の造形となっており、ここに前述したエンブレムが組み合わされる。
後ろ姿も個性的で、スパッと切り落とされた造形は、イタリア語で「切り落とされた尻尾」を意味するコーダトロンカと呼ばれるスタイル。これは空力性能向上を目的に1960年代のアルファ・ロメオのレーシングマシンに採用された形で、フロントマスクと同様に、リアビューも栄光の歴史という資産を上手に活用している。
いかにもアルファらしい美しいコーナリングフォーム
では、ドライブしてみるとどうなのか。
アルファ・ロメオ・ジュニアには、BEV(バッテリー式EV)の「エレットリカ」とマイルドハイブリッドの「イブリダ」という2つのパワートレインが設定されている。今回試乗したのは、より多くの販売台数が期待できる後者だ。
ドライバーズシートに腰掛けると、正面のメーターパネルが湾曲した庇に覆われていることに気づく。これもアルファ・ロメオの伝統的な手法で、思わずニヤリとしてしまう。中央に位置する液晶パネルが若干ではあるけれどドライバーの方向にオフセットしていることが、ただのコンパクトSUVではなく、ドライバーが主役のモデルであることを示唆する。

スタートして、おっと思ったのは、モーターだけで駆動するEV走行で発進したから。一般的なマイルドハイブリッド車はEV走行をしないけれど、このクルマはモーター駆動で発進するように仕立てられているのだ。つまり、進化型マイルドハイブリッドだと言える。
排気量1.2ℓの直列3気筒エンジンとモーターを組み合わせたパワートレインは、パワーは充分で加速も滑らか。ただしアルファ・ロメオというブランドから期待する刺激や官能性に欠けるのもまた事実。燃費や騒音の規制が強まる昨今、「エンジンの刺激不足」はBMWやホンダなど、エンジンを売りモノにしてきた世界中の自動車メーカーが抱える悩みだ。

いっぽうで、ワインディングロードではアルファ・ロメオらしいハンドリングを満喫することができた。かつて、自動車評論の巨匠である故徳大寺有恒氏は、「アルファの魅力はなまくらなところ」とおっしゃっていた。なまくらというのはネガティブな表現ではなく、レーシングカートのようにキュキュっと曲がるのではなく、四足歩行の哺乳類のように、しっとり、しなやかに曲がるというニュアンスだった。
このクルマも、4つのサスペンションが自在に伸びたり縮んだりしながら、4本のタイヤがしっかりと路面をとらえて美しいコーナリングフォームでカーブを曲がる。このあたりの所作が、いかにもアルファ・ロメオらしい。

デザイン重視の設計かと思えば、室内空間を確認すれば後席も荷室も想像よりはるかに広い。また、先行車両に追従するアダプティブクルーズコントロールなどの運転支援装置も最先端で、しっかり使える。
ブランド力とデザイン性の高さ、そしてファン・トゥ・ドライブと実用性の高さ。ヒストリックカーのセカンドカーとしてだけではなく、アルファ・ロメオ・ジュニアはファーストカーとしての魅力と実力もしっかりと備えていた。

全長×全幅×全高:4195×1780×1585mm
パワートレイン:1.2ℓ直列3気筒ターボ+モーター
システム最高出力:145ps
システム最大トルク:230Nm
価格:¥4,200,000〜(税込)
問い合わせ
Alfa Contact TEL:0120-779-159
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。