CAR

2025.07.29

マセラティ史上“最も贅沢”な、新時代のスーパースポーツ「MCプーラ」

創業111年の名門マセラティが発表したMCプーラ。新しい時代のスーパースポーツの注目ポイントを紹介する。

マセラティMCプーラ

栄枯盛衰、陰影に富んだマセラティ物語

前々から思っていたけれど、もしイタリアにNHK朝の連続テレビ小説的なものがあれば、マセラティが取り上げられるのではないだろうか。それくらい、このブランドのストーリーはドラマティックで、陰影に富んでいる。

まずは、マセラティ物語のさわりを紹介したい。

マセラティMCプーラ
マセラティMCプーラは、ドライバーの背後にエンジンを積むミドシップレイアウトを採用。定員2名、最高出力630psのスーパースポーツだ。

クルマの黎明期だった1914年、仲のよかったマセラティ6兄弟のうち、エンジニアリングに興味を持つ3人がボローニャの地に自動車工房を立ち上げる。マセラティのレーシングマシンはすぐに頭角を現し、1920年代のモータースポーツシーンを席巻する。1930年代には、3兄弟の中心人物だったアルフィエーリが44歳の若さで亡くなるという悲しみを乗り越え、大資本をバックに潤沢な資金を投下するドイツ勢に対抗、家族経営のマセラティが奮闘する。

けれども、優れたマシンを開発するためなら躊躇なくお金を使うという理想主義的な姿勢は財政難を招き、存続の危機に瀕したことも一度ではなかった。それでもモータースポーツへの情熱は衰えることなく、第二次大戦後の1957年には伝説のドライバー、ファン・マヌエル・ファンジオとともにF1を制した。

といった具合に、創業から21世紀までを描こうとすると、半年の放映期間では足りないほどの濃いエピソードを持つマセラティが、新しい時代のスパースポーツとして2020年に発表したのが、マセラティMC20。MCとは「マセラティ・コルセ」の略で、コルセとはイタリア語でレースの意味だから、サーキットで勝利を重ね、それが高いブランド力に昇華したという原点に回帰するモデルだ。

そして2025年夏、MC20の進化型であるマセラティMCプーラが発表された。車名のプーラ(pura)とはピュアの意で、つまりマセラティの真髄を純粋に表現したモデルだと主張している。

では、マセラティの真髄とはなにか? マセラティMCプーラの注目ポイントを紹介したい。

マセラティMCプーラ
後方に向かって美しい弧を描くルーフラインや、前後のタイヤを囲うフェンダーの艶めかしいふくらみが官能的なMCプーラのデザイン。

エンジンの名称にまで物語がある

AIアクアレインボーという、光の加減によって虹のように多彩な表情を見せる新色をまとったデザインは、静謐な美しさと、獲物に飛びかかる直前の肉食獣のような躍動感を併せ持つ。特徴的なデザインに目を奪われがちになるけれど、カーボンファイバー製モノコック構造にも目を向けたい。強さと軽さを両立するカーボン素材によって、車両重量は1475kgと、このクラスのスーパースポーツとしては異例の軽さを誇るからだ。

クーペのほかに、コンバーチブルである「チェロ」モデルも同時に発表された。こちらはPLDC(ポリマー分散型液晶)技術を用いた電動ガラスルーフが特徴で、スイッチ操作ひとつでルーフを透明から不透明に切り替えることができる。もちろんルーフを全開にして、オープンエアモータリングを楽しむことも可能だ。

横道にそれるけれど、コンバーチブルにイタリア語で「空」を意味するチェロ(cielo)というモデル名を与えるあたりが洒落ている。

マセラティMCプーラ
チェロと呼ばれるコンバーティブルモデル。電動格納式のルーフを閉じると、屋根の部分は透明にも不透明にもなるガラスルーフとなる。

そして、クルマ好きの多くが熱い視線を送るのが、ドライバーの背後にミドシップする排気量3ℓのV型6気筒ツインターボのネットゥーノエンジンだ。マセラティが独自に開発、モデナの地で生産も行われるこのエンジンには、F1由来で国際特許も取得した革新技術、プレチャンバー燃焼システムが採用されている。

従来型のマセラティMC20で試したときには、ゆったり走るときのジェントルかつスムーズな感触と、高回転域のレーシングマシンのように突き抜ける感覚の対比が鮮烈だった。パフォーマンスにはさらに磨きがかかっているはずで、あのワクワク、ドキドキするフィーリング、背筋がゾクッとするような美爆音がどのように進化しているか、いまから楽しみでならない。

ちなみに、ネットゥーノエンジンという名称もただ者ではない。ネットゥーノとはローマ神話の海神で、英語だとネプチューン。創業地であるボローニャの紋章が海神ネプチューンの三叉の槍であり、マセラティ6兄弟のうちで芸術家の道を歩んだ五男のマリオがこれを図案化して、マセラティのエンブレムに仕立てた。

マセラティMCプーラ
ホイールの中心に輝くネプチューンの三叉の槍。ただの飾りではなく、創業地である古都ボローニャの紋章だというストーリーがある。

つまり、自社のエンジンが海神の名前を冠するのには、歴史的な根拠があるのだ。

歴史や積み上げてきたスポーツカー作りのノウハウを大事にしながら、革新的な技術で新しい時代のスーパースポーツを開発する。ある意味で、最も贅沢なスポーツカーだと言えるのではないだろうか。朝の連続テレビ小説的ではなく、大河ドラマに仕立ててもいいかもしれない。

マセラティMCプーラ
エンジン形式:3ℓV型6気筒ツインターボ
最高出力:630ps/7500rpm
最大トルク:720Nm/3000rpm
車両重量:1475kg
パワー・トゥ・ウェイトレシオ:0.42ps/kg
価格:¥31,350,000(税込)

問い合わせ
マセラティ コールセンター TEL:0120-965-120

サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

TEXT=サトータケシ

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年9月号

陶酔レストラン ゲーテイスト2025

ゲーテ2025年9月号

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年9月号

陶酔レストラン ゲーテイスト2025

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ9月号』が2025年7月25日に発売となる。食に人生を懸ける 秋元康小山薫堂中田英寿見城徹の“美食四兄弟”が選ぶ、圧倒的にスペシャルなレストランを一挙紹介。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

GOETHE LOUNGE ゲーテラウンジ

忙しい日々の中で、心を満たす特別な体験を。GOETHE LOUNGEは、上質な時間を求めるあなたのための登録無料の会員制サービス。限定イベント、優待特典、そして選りすぐりの情報を通じて、GOETHEだからこそできる特別なひとときをお届けします。

詳しくみる