中嶋聡監督の巧みな選手起用でリーグ3連覇を果たしたオリックス。主砲の吉田正尚が抜けた打線の穴を埋め、チームのリーグ優勝を支えた森友哉がスターとなる前夜に迫った。連載「スターたちの夜明け前」とは
吉田正尚の穴を埋めたオリックスの主砲
圧倒的な強さでパ・リーグ三連覇を達成したオリックス。
2022年オフには長年中軸を務めていた吉田正尚(現・レッドソックス)がメジャーに移籍したこともあって、野手陣は不安が多いと見られていたが、その穴を埋める役割を果たしたのが西武からフリー・エージェントで加入した森友哉だ。
2023年5月には右足、7月には左太ももを痛めて戦列を離れた時期はあったものの、攻守ともにチームを牽引。17本塁打、62打点はいずれもチームトップの数字である(2023年9月24日終了時点)。
森の加入がなければ、ここまで2位以下に大差をつけて優勝することは難しかっただろう。
高校1年秋には不動の正捕手に定着
そんな森は大阪桐蔭の出身だが、現在ほどではないにしても逸材が揃うチームで1年秋には不動の正捕手に定着している。
その名が全国に知れ渡るきっかけとなったのが2年春に出場した選抜高校野球だ。1回戦で大谷翔平(当時・花巻東)と対戦すると、ツーベースを含む2安打を放つなど5打席で4度出塁。1番バッターとしての役割を果たし、チームの勝利に貢献した。
当時のノートにも以下のようなメモが残っている。
「重心を低くして構え、右足を高く上げるスタイルだがステップの動きは慎重。(前年秋と比べて)バットの動きも小さくなり、スイングの無駄が減った。(中略)140キロ台中盤のストレートにもしっかり対応しており、どのコースにもスムーズにバットが出る。インパクトも強く、打球の速さが違う。スローイングは少し浮くこともあるが、地肩の強さは十分でフットワークの良さも出色」
この大会で森は決勝を除く4試合でヒットを記録し、準決勝ではホームランも放つなど4割を超える打率をマークする活躍。チームの優勝に大きく貢献している。
さらに続く夏の甲子園でも5試合で2本塁打を放ち、エースの藤浪晋太郎(現・オリオールズ)と背番号10の沢田圭佑(現・ロッテ)の先輩投手2人を好リード。チームとして初となる春夏連覇を達成したのだ。
投手の主役はもちろん藤浪だったが、野手の主役は森だったことは間違いない。
打撃に加えて守備でもさらに成長した高校3年
ただ森のすごさは、むしろこの春夏連覇以降に感じることが多かった。
高校生も大学生も下級生の頃に活躍した選手はマークが厳しくなり、また慢心などもあって最終学年ではその輝きが失われてしまうケースも少なくないが、森に関してはそういったことはまったくなかったのだ。
藤浪が抜けた後のチームは苦しむことも多かったが、秋の近畿大会で準決勝に進出して翌年春の選抜高校野球にも出場。初戦の遠軽戦で3番に座った森は3方向すべてに打ち分けて4安打を放ってチームを勝利に導いている。
続く県岐阜商戦では前日の練習で打球をふくらはぎに受けた影響で欠場。チームは1点差で敗れ、改めて森の存在感の大きさを感じさせる結果となった。
3年夏の大阪大会でもチームは苦しみながら激戦の大阪大会を勝ち抜いてこの年も春夏連続で甲子園に出場。3回戦の箕面学園戦では指を怪我しているとのことだったが、持ち味だった打撃に加えて守備でもさらに成長した姿を見せていた。
当時のノートにあるメモを抜粋する。
「キャッチングが安定し、ミットをしっかり止めることができている。フットワークとスローイングも春と比べても明らかにレベルアップしており、捕球してから投げるまでのスピードも速い。投手への返球とサインを出すテンポも良い。投手が森に対して投げるのが楽しそうに見える。(中略)バットを立てて低く構えるスタイルは相変わらず。ヘッドスピード、打球の速さは高校生とは思えないレベル。フルスイングして芯でとらえる技術の高さも圧倒的なものがある」
捕手のセカンド送球は2.00秒を切れば強肩と言われているが、この試合で森は最速1.82秒をマークしている。下級生の頃は1.90秒前後だったことを考えると、このあたりもしっかりレベルアップに取り組んでいたことがよくわかるだろう。
また併殺崩れで一塁を駆け抜けた時のタイムも4.11秒という数字が残っており、捕手としてはかなり脚力があり、しかも全力疾走を怠っていないことがわかる。
下級生の頃から中心選手でも、それに奢ることなく、懸命にプレーする姿勢があったから自身もチームも結果を残し続けることができたと言えそうだ。
プロ入り後も苦しんだ時期はあったものの早くから主力となり、西武で2度のリーグ優勝、そしてオリックス移籍1年目でもリーグ優勝と見事な結果を残している。
“捕手の価値はチームを勝たせること”とも言われるが、そういう意味でも名実ともに球界を代表する捕手であることは間違いない。2023年で28歳とまだまだ若いだけに、今後もさらに実績を積み重ねていくことを期待したい。
■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。
■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。