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2022.02.10

高校2年・藤浪晋太郎が見せた豪快な腕の振りが緩まない変化球──連載「スターたちの夜明け前」Vol.23

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。連載【スターたちの夜明け前】

写真:スポニチ/アフロ

2011年7月9日全国高校野球選手権大阪大会・関大北陽戦

2021年は開幕から順調に首位を走りながらもヤクルトに競り負けて2位となった阪神。今年はキャンプイン直前に矢野燿大(やの・あきひろ)監督がシーズン終了後の退任を発表しており、有終の美を飾るという意味でも優勝への期待は高い。そんなチームの中で毎年のように復活が期待されている選手と言えば藤浪晋太郎になるだろう。大阪桐蔭では3年時にエースとして甲子園春夏連覇を達成。4球団が競合のすえ地元阪神に入団すると、入団1年目から3年連続で二桁勝利をマークするなど期待通りの活躍を見せている。しかし4年目の2016年に連続二桁勝利が途絶えるとその後は制球難に苦しみ低迷。昨年も開幕投手に抜擢されながら3勝と期待に応えることはできなかった。しかし197㎝の長身から投げ込むストレートは160キロを超えることもあり、日本ハムの新庄剛志新監督が獲得を熱望するなど、そのポテンシャルの高さは誰もが認めるところである。

そんな藤浪のピッチングを初めて見たのは2011年7月9日に行われた全国高校野球選手権大阪大会、対関大北陽戦だった。大会初日の開会式後に行われる強豪校対決ということで、会場となった京セラドーム大阪には多くの観衆が詰めかけていた。そしてそんな注目の一戦で当時2年生だった藤浪は圧巻のピッチングを披露することになる。立ち上がりこそ内野安打と送りバントでワンアウト二塁のピンチをまねいたものの、相手の中軸から連続三振を奪って無失点で切り抜けると、3回から8回までは1本のヒットも許さず、被安打3、14奪三振で完封勝利をマークして見せたのだ。当時のプロフィールは196㎝、86㎏とまだまだ細身だったが、長いリーチを生かした豪快な腕の振りはとても高校2年生とは思えない迫力があり、最速144キロをマークしたストレートは数字以上の勢いが感じられた。

14個の三振のうち13個が空振り三振

特に強烈に印象に残っているのが打者への内角攻めだ。テイクバックで腕が背中に入り、横回転するフォームのためどうしてもボールも左右にばらつく傾向はあったが、それでも思い切って腕を振って右打者の内角に速いボールを投げ込むことができていた。コントロールはアバウトでもストライクをとるのに苦労するようなことはなく、この日も与えた四球はわずかに1個となっている。更に素晴らしかったのが変化球でも豪快な腕の振りが緩まないというところだ。当時のノートにも「スライダーは大小2種類あり、どちらも腕を振って投げられるので打者は見分けがつかない。内角に速いボールが来るため、打者は外のボールに踏み込むことができず、空振りを繰り返す。(中略)あらゆるパターンで追い込んで三振を奪い、試合終盤も危なげなし」と書かれている。ちなみにこの日奪った14個の三振のうち13個が空振り三振というところにも藤浪の凄さがよく表れている。フォームのばらつきなどあらゆる面で不安定さはあったものの、そのスケールの大きさは数年に1回というレベルのインパクトだった。

冒頭でも触れたように3年時には春夏連覇を達成しているが、高校時代の藤浪もその後が全て順風満帆だったわけではない。この後勝ち進んだ2年夏の大阪大会決勝の東大阪大柏原戦では先発のマウンドを任されながら中盤までの4点のリードを守り切ることができず、チームもサヨナラ負けを喫して甲子園出場を逃している。また選抜優勝を成し遂げた後の3年夏の大阪大会でも決勝の履正社戦でも9点リードの8回表に一挙7点を奪われ、最後は沢田圭佑(現オリックス)にマウンドを譲っている。しかしその度に藤浪は成長を遂げ、最後の夏の甲子園では4試合、36回を投げて自責点わずかに2、49奪三振という圧倒的な結果を残して球史に名を刻んだのだ。長い甲子園の歴史の中でも、安定感とスケールをトータルして考えると、3年夏の藤浪がナンバーワンと言えるだろう。

ここ数年のピッチングを見ても、ボール自体はプロでもトップクラスであることは間違いない。そして今年で28歳という年齢を考えてもまだまだ復活の可能性は十分にあるはずだ。今年こそそのポテンシャルを如何なく発揮して、チームを牽引するような快投を見せてくれることを期待したい。

Norifumi Nishio
1979年、愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

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スターたちの夜明け前

どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

TEXT=西尾典文

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