PERSON

2024.08.08

首位独走ソフトバンクの柱・有原航平が結果を残す理由は、”ピッチャーらしくない”!?

12球団でも競争の激しいソフトバンクで、高度な投球術を武器に結果を残している有原航平がスターとなる前夜に迫った。

テキサス・レンジャース時代の有原航平。
テキサス・レンジャース時代の有原航平。広陵出身初のメジャーリーガー。

安定感を誇る、ソフトバンク投手陣の柱

開幕から順調に勝利を重ね、パ・リーグの首位を独走しているソフトバンク。そんなチームにあって投手陣の柱として活躍を見せているのが有原航平だ。

3年ぶりのNPB復帰となった2023年シーズンは調子が上がらず出遅れたものの、夏場以降に巻き返してチーム最多の10勝をマーク。

2024年は調整のために二度登録抹消となっているものの、安定した投球を続け、16試合に登板し10勝4敗、防御率1.88という見事な成績を残しているのだ(2024年7月31日終了時点)。

能力は高いが、プロではなく早稲田大へ進学

そんな有原は広島の名門である広陵の出身。下級生の頃は控え投手だったが、2年秋にエースナンバーを獲得。3年時には春夏連続で甲子園にも出場している。

初めてそのピッチングを見たのは3年春に出場した選抜高校野球、対立命館宇治戦だった。

先発のマウンドに上がった有原は、立ち上がりに味方のエラーをきっかけに4点を失ったものの、2回以降は見事に立ち直り、自責点1、13奪三振で完投勝利を収めて見せた。

当時のノートには以下のようなメモが残っている。

「高校生離れした体格もさることながら(当時のプロフィールは186cm、90kg)、技術の高さも出色。

立ち上がりからボールのばらつきはほとんどなく、指にかかったボールがしっかりコーナーに決まる。スピードもコンスタントに140キロを超え(この日の最速は147キロ)、体重がしっかり乗ったボールで威力も十分。

(中略)

変化球もカーブ、スライダー、チェンジアップを操り、どのボールも腕を振って投げられ、低めに決めることができる。大型でもストレートだけでなく、あらゆるボールを使える技巧的な面があるのもプラス」

このメモを見ても当時から高い能力を誇っていたことがよくわかるが、課題があったのも事実である。それは走者を背負ってからのピッチングだ。

先述したとおり、立ち上がりに味方のエラーで出塁を許してからは4本のヒットを許しており、その点について「立ち上がりは走者がいる時といない時でガラッとピッチングが変わる。ここ一番で踏ん張りがきかないのは課題」という記載も残っている。

この選抜では準決勝で日大三を相手に8回途中、12失点(自責点8)と大きく崩れて敗退。ポテンシャルの高さは申し分なかったものの、ドラフトで上位指名するには不安が残ったことも確かである。

結局、高校卒業時点ではプロ志望届は提出せず、早稲田大へ進学することとなった。

「2014年ドラフトの目玉は有原」

大学でも1年春からリーグ戦で登板しているが、2年春までの3シーズンは防御率5.33、6.11、5.50と、なかなか安定した投球を見せることができなかった。このあたりまでは高校時代に感じた課題がなかなか解消されていなかったと言えるだろう。

ようやく高い能力を発揮し始めたのは2年秋からだ。初めて規定投球回数に到達してリーグトップタイとなる4勝をマークすると、それ以降は完全にエースへと成長。

4年秋は右肘の違和感でわずか4試合の登板に終わったものの、4年間通算で19勝12敗、防御率2.72という成績を残した。

特に強烈だったのが3年秋の早慶戦で見せたピッチングだ。

後にプロ入りする山本泰寛(現・中日)、横尾俊建(現・楽天二軍打撃コーチ)などを擁する慶應義塾大打線を相手に被安打1、わずか87球で完封勝利をあげたのだ。

この頃から「2014年のドラフトの目玉は有原」という評価が不動のものとなっていった。

ピッチャーらしくない雰囲気

4年春には雑誌の取材で長時間話を聞く機会もあったが、強く印象に残っているのは、ある意味ピッチャーらしくない雰囲気を持っていたという点だ。

こちらの質問に対しても一つ一つ慎重に考えながら答えており、その口調も非常に穏やかだったことをよく覚えている。「ピッチャーらしくないって言われませんか?」という質問に対しても「よく言われます。キャッチャーらしい性格だと言われることもありますね」と答えていた。

またインタビュー終了後も寮の玄関までわざわざ見送りに出てきてくれたのも、気配りができる選手だと感じた。ピッチングも豪快というよりも緻密さが目立ち、その高い制球力と巧みな投球術はプロでも大きな武器となっている。

またソフトバンクという12球団で最も競争の激しいチームのなかでもしっかり結果を残せているのは、そういった素養も影響しているのではないだろうか。

現時点で10勝というのはパ・リーグでトップの数字であり、2019年以来となる最多勝のタイトル獲得にも期待がかかる。残りのシーズンでもその高度な投球術にぜひ注目してもらいたい。

■連載「スターたちの夜明け前」とは
どんなスーパースターでも最初からそうだったわけではない。誰にでも雌伏の時期は存在しており、一つの試合やプレーがきっかけとなって才能が花開くというのもスポーツの世界ではよくあることである。そんな選手にとって大きなターニングポイントとなった瞬間にスポットを当てながら、スターとなる前夜とともに紹介していきたいと思う。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=AP/アフロ

PICK UP

STORY 連載

MAGAZINE 最新号

2025年1月号

シャンパーニュの魔力

最新号を見る

定期購読はこちら

バックナンバー一覧

MAGAZINE 最新号

2025年1月号

シャンパーニュの魔力

仕事に遊びに一切妥協できない男たちが、人生を謳歌するためのライフスタイル誌『ゲーテ1月号』が2024年11月25日に発売となる。今回の特集は“シャンパーニュの魔力”。日本とシャンパーニュの親和性の高さの理由に迫る。表紙は三代目 J SOUL BROTHERS。メンバー同士がお互いを撮り下ろした、貴重なビジュアルカットは必見だ。

最新号を購入する

電子版も発売中!

バックナンバー一覧

SALON MEMBER ゲーテサロン

会員登録をすると、エクスクルーシブなイベントの数々や、スペシャルなプレゼント情報へアクセスが可能に。会員の皆様に、非日常な体験ができる機会をご提供します。

SALON MEMBERになる