PERSON

2026.02.09

クルマ1日1台購入、YouTube配信。エイベックス松浦勝人「半分FIREしたけど、結局つまらなかった」5年を語る

約5年ぶりにエイベックス会長松浦勝人による新連載「数寄者の流儀」がスタート。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

ずっと仕事をやめたかった

ずっと「仕事をやめたい」と思ってきた。20代の時も30代の時も、もうやめたいと思った。40歳になったらやめよう、50歳になったらやめようと思いながら仕事をしてきた。でも、そんなことはできるわけがなかった。

2018年に社長CEOから会長CEOになり、2020年にはCEO職を退任し、会長に専任することになった。会長としての責任からは逃れられないものの、自分は何も決めない、すべては社長CEOに任せる。そうした「何もしない状況」になれば自分はやめられるのではないかと思って、実際にそうしてみたら、会社はうまく回った。

僕自身が望み、そうなるようにしたんだけど、結果を言うと、めちゃめちゃつまらなかった。世間でよく言う、一定の資産を築いたらすべての仕事をやめてしまうという「FIRE」に近い状況になってみたけど、何も楽しくない。

趣味は「修行」

趣味三昧の生活を送ればいいじゃないですかとも言われたけど、僕の場合は、趣味というのが結局、仕事とどこかつながっている。趣味のなかから、新たな事業が生まれてくるようなところがある。ほんとうに没頭できる趣味はなかったのかもしれない。

だから、釣りも趣味というよりは修行に近い感覚だった。早起きして釣りに出かける時も「あれ? 自分はそんなに行きたくないのかな?」と思うこともある。それでも気合いで行く。釣りに行っても、まったく休憩しない。休んではいけないと、自分で自分に言い聞かせるようなことがあった。“楽しんでいる”というのとはだいぶ違う。

クルマも同じ。買うとなったら、毎日1台ずつ買ってしまう。だから、目ぼしいものはすぐに買い尽くしてしまう。桁が違うほど高額な1台5億円だとか10億円だとかいうクルマもあって、それを追いかけることも考えてみたけど、全然、気分が乗っていかない。たまに運転してみても、大人しく運転しているだけで、周りにいるパトカーが気になってしまって楽しめない。

結局、駐車場に並べていても仕方ないから、ほとんど現金化してしまった。

YouTubeのライブ配信もやってみた。見ている人はギリギリの話をしてくれないと面白くないだろうと思って、こっちもギリギリのことを話そうとする。とても勇気のいることなので、始める前にお酒を飲んで、酔っ払って収録していた。結局、自分が楽しんでやるというよりも、見る人に楽しんでもらわなくちゃと、頭がそっちにいってしまう。

僕としては、これまで経験してきたことを聞かれて答えているだけ。でも、ほとんどの人は経験したことがないから、そういう経験を普通にボソボソしゃべっているというのが面白いのかもしれない。YouTubeは、なんとなく続けている。

エイベックス会長、松浦勝人
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
X:@maxmatsuuratwit
YouTube:@masatomaxmatsuura

5年ぶりに連載を再開する理由

そんな生活のなかで、10年以上続けていたゲーテの連載も、なんでやめたんだっけな?と思い始めた。当時は、すべてのことから自由になりたかったのに、連載の取材があるために月に1日は必ず日本にいなければならなかった。それで、休止する相談をさせてもらった。

でも、自由になりすぎた結果、この連載を止めなければよかったと思い始めた。月に1回、自分のなかのものを誌面に吐き出してきて、しんどいこともあったけど、一度止めてみると、そのよさがわかるようになってきた。

僕はどんなことでも、自分で経験しないと理解できないところがある。釣りもクルマもYouTubeも、とことんやってみないと、自分にとって面白いのかどうなのかがわからない。

だから半分FIREした状態になってみたけど、仕事が趣味だった時代の方が楽しかったことがわかった。仕事が絡まないと面白くない。仕事で味わう、あのヒリヒリした感じ。

昔の身体がぶっ壊れるほどのヒリヒリは勘弁してくださいだけど、でも、ヒリヒリしないと面白くない。だったら、今の僕にできることは、エイベックスが平成のレコード会社で終わらない仕組みをつくることだと思った。エイベックスのために、再び、ヒリヒリしてみたいと思うようになっている。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=長尾真志

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