2025年、製薬企業との利益相反の医師が多い日本高血圧学会が血圧の治療目標値を“年齢に関係なく”「130/80mmHg未満」に下げると発表した。これにより高血圧との診断を受け、薬を飲む人の激増が予想される。本当にそれでいいのか。“医学常識のウソ”に鋭く切りこんだすべての国民必読の対談、2回目。【他の記事はコチラ】

血圧の基準値を引き下げると死亡者数が増える
和田 対談の1回目で、2004年に日本高血圧学会が高血圧の基準値を下げたら死者数が増えた、という話が出ました。
大櫛 はい。この基準値は5年ごとに見直されます。次の2009年の段階では、見直しの原案が出た後、私は意見書を出したんです。パブコメを10日間受け付けてくれるというので。
和田 パブコメとは国民から広く意見を募る制度ですね。
大櫛 そうです。でも受付期間が10日間しかない。だから薬の副作用に詳しい医薬ビジランス研究所所長の浜六郎先生と分担して、重要な引用文献に目を通し、徹底的に調べて、片っ端から意見を書きました。誤字脱字も指摘しました。
和田 原案を精査した。
大櫛 はい。意見書には、「製薬企業の治験で収縮期血圧を20mmHg以上下げた群で、脳梗塞死亡が発生し、総死亡率が約1.5倍」、「私達の住民追跡研究で、高血圧群での薬物治療群で総死亡率が5倍」、「降圧剤による下げすぎの危険性を示す7本の論文」というエビデンスを突きつけました。「前回2004年改訂の翌年に下がり続けていた脳梗塞患者数の低下が止まって、死亡者数は増えた」という指摘もしました。
和田 踏み込みましたね。で、変わったんですか。
大櫛 私たちが指摘した誤字脱字の部分だけを訂正して、根本的な部分は変わりませんでした。しかし、その次の2014年版では基準値が上方修正されました。彼らも少しビビったのかもしれませんね。
和田 だから2014年のガイドラインは変わったんですね。75歳以上は「150/90以上」、74歳以下は「140/90以上」になった。
大櫛 ところが2019年には再び引き下げられました。そして今回2025年には、さらに年齢区分も取っ払われて、全年齢統一で降圧治療対象が「130/80以上」となってしまったんです。
和田 生命に関わるくらいの下げ方ですよね。とくに高齢者にとっては危険だと思います。
大櫛 このガイドラインを決めた委員長は国立大学などの公的機関で病院長などを歴任された方です。その人は2016年~2022年までの7年間に、製薬企業から講演費として30,568,049円を受け取っています(医療ガバナンス研究所:製薬マネーデータベース)。大学に入る研究費で使うならまだしも、講演料だから個人のポケットに入るわけです。このような人が主導するガイドラインの科学性と信頼性には大きな問題があると私は思っているんですよ。
和田 同感です。高血圧学会でも5年間で1億円もらっている人がいました。そうなると基準値自体が疑わしく思えてくる。
大櫛 本当にその通りです。
和田 統計数字に基づかないどころか患者や死者も増える。医療費は膨れ、国民が払う社会保障費も引き上げられる。国力も弱まる。いいことは一つもない。いい思いをするのは製薬会社と恩恵を受ける一部の人間だけ。血圧を下げなきゃと信じ、薬を飲んで元気を奪われていく国民が気の毒です。
大櫛 恐ろしいですよ、本当に。

東海大学名誉教授・大櫛医学情報研究所所長。1947年徳島市生まれ。大阪大学大学院工学研究科修了。大阪府立の複数病院で研究をした後、1988年より東海大学医学部教授。2012年より現職。著書に『高血圧の9割は正常です』『長生きしたければ高血圧のウソに気づきなさい』『「血圧147」で薬は飲むな』など著書多数。
医療費を大幅に削減できる
和田 2025年、私が幸齢党を作った際、統計の専門家である大櫛先生に無駄な医療費を計算してもらったことがありました。仮に高血圧の9割が正常だとすると、高血圧の薬代、検査料、診療費の9割は無駄ということになる。医療費は1兆5千億円くらい浮くんですよね。
大櫛 そうです。和田先生の応援団として計算しましてね。
和田 血圧だけでなく、日本では正常な範囲のものまで病気とされ、無駄な医療費がバンバン使われている。これを減らすだけでも相当なお金が浮く。大櫛先生が幸齢党のために試算してくださったわけです。たしか4兆9000億円でしたよね。
大櫛 そうです。日本維新の会は「医療費を3兆円下げる」と言っていますが、それは必要な医療を削ったり高齢者の負担率を上げたり、若い世代の社会保険料を増やすなど、国民に負担を強いるものです。ですが無駄な医療をやめるだけで5兆円くらいの医療費を削れるんです。
和田 だから、ちゃんと統計に基づく医療をやってほしいですよね。先ほど高血圧の基準値が利権のために捻じ曲げられる例を話しましたが、大櫛先生はそれとずっと戦い続けている。本当にすごいなあと思いますよ。
大櫛 ありがとうございます。それができるのは結局、私が医学部出身じゃないからです。
医師でなく統計学の専門家
和田 せっかくなので、少し大櫛先生のプロフィール的な話をしましょう。大櫛先生は医者じゃないんですよね。
大櫛 はい。工学部出身で、医療情報統計学の専門家です。
和田 僕が日本の医者の一番悪い点だと思うのは、統計を無視して理屈ばかり言ってたり、動物実験の結果が人間にも当てはまると勝手に決めつけたりしているところです。一番当てになるのはやっぱり統計ですよ。その点、大櫛先生は70万人健診受診者分析、複数市町村での住民追跡研究、脳卒中患者の分析、糖尿病患者への介入研究などをしています。そこから見える真実があると思うんです。
大櫛 私は医学会に対して借りがありませんからね(笑)。医学部出身だとどうしても借りができる。例えば教授にしてもらうとか学会の理事にしてもらうとか。日本の社会に特有の忖度が生まれるんです。でも私はそういう縁がないので、間違っていることに対して堂々と意見が言えるんです。
和田 こんな借りができるのも日本だけでね。海外、特にアメリカは統計を基にしたエビデンスがないと保険会社がお金を出してくれなかったりする。だから統計を重視するわけです。
大櫛 おっしゃる通りですね。日本は、戸籍謄本、生涯にわたる健診と検診、電子カルテ、死亡届けなどの健康保健データが世界一多いのですが、データ分析に基づいて医療政策を決めたり、その後の評価を統計学に行うという科学的思考が少ないと思います。
和田 一番顕著な統計無視の例は結核のBCGワクチンです。アメリカは40万人を調べた結果、このワクチンには効果がないと判断し、BCGの接種をやめた。ところが日本がBCGを導入するときに調べた人数は、わずか20人だそうです。BCGワクチンを接種した群が10人、摂取しない群が10人。これじゃあ有意差なんて出るはずがない。
大櫛 その通りです。
和田 ところが即座にBCGの導入が決まってしまった。で、蓋を開けたら、日本の結核の新規感染者数は、アメリカの4倍にもなっている。
大櫛 それなのに、いまだにBCGを打ち続けている。
和田 それどころか統計を見るとALS(筋委縮性側索硬化症)を増やすことなどもわかってきているんです。本当は中止を検討してもいいはずです。
だから医療政策は、むしろ医者じゃない人に任せたほうがいいと僕は思っています。医者は製薬企業との経済的癒着や相互に忖度し合って、「この薬には副作用がある」と言いにくいですからね。そういう世の中になってることは本当に怖いことだと思います。
大櫛 国民はそれを知らない。恐ろしいことですよね。
※3回目に続く

精神科医・幸齢党党首。1960年大阪府生まれ。東京大学医学部卒業後、同大附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー等を経て、和田秀樹こころと体のクリニック院長に。当対談連載をまとめた『80歳の壁を超えた人たち』をはじめ、『80歳の壁』『幸齢党宣言』など著書多数。

