約5年ぶりにエイベックス会長松浦勝人による新連載「数寄者の流儀」がスタート。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

音楽ビジネスの「中心」だけ残して100人で年商数千億稼ぐのがいい
5年前、10年以上続けていたゲーテでの連載を卒業して「何もしない」状態になろうと考えた。社長から会長になり、全責任から逃れられるわけではないけど、すべての判断を社長や現場に任せるという状態に自分を置いてみたかった。
それから5年。半分FIREしたような状態になってみて、結果を言うと、めちゃくちゃつまらなかった。そんなこと、やる前からわかってたじゃないかと言われるかもしれないけど、僕の場合は、自分でやって経験したことがすべて。結局、仕事が趣味だと言ってた時代のほうが楽しかったことがわかった。
幸いにも僕は完全FIREではなく、会長という職にはあった。でも、僕なしで事業は進むようになっているのに、そこに割りこんでいくわけにもいかない。だから僕がエイベックスに対してできることは、今までにない新しいことを始めること。
これからの時代に向けたレコード会社のカタチ
今の音楽業界を見ていて僕が感じているのは、もっと振り切ってしまったほうがいいということ。振り切った音楽をつくるには、こういう会社がいいという朧げなイメージもある。でも、それはエイベックスのなかではできないことだと思う。だって、これからの時代に向けた音楽会社のあるべき姿にしようと思ったら、社員1500人のエイベックスが100人以下のコンパクトな会社になってしまう。そんなこと現実的にできるわけないよね。やるなら、エイベックスの外でやるしかない。
僕たちは最初、ダンスミュージックをつくろうとして作曲家と作詞家を探し楽曲をつくった。それがエイベックスの原点。それから歌手を探して歌ってもらい、原盤をつくる。原盤のままではリスナーに届けられないから、それをCDにするレコード会社も必要になった。
最初の最初は、レコード輸入卸の会社だったので、レコード会社になりたくなかったんだけど。レコード会社は原盤をCDにして売る会社。当時はそこが一番利益を出していたし、音楽業界全体に強い影響力を持っていた。だから楽曲をつくるところから始めて、エイベックスは一歩一歩、レコード会社に近づいていった。
音楽ビジネスというのはものすごく単純化すると、作詞作曲をした人が持つ「出版権(著作権)」、その楽曲をもとに、音源のマスターをつくった人が持つ「原盤権」があって、レコード会社はそのマスター音源をCDやDVDで大量に複製して儲けていた。その権利は著作権のなかの「複製権」と呼ばれる。レコード会社は原盤権を管理したり、買い取ってしまうこともできたが、当時、多くのレコード会社は興味を持たなかった。複製権だけあればCDが生産でき、それが一番利益を生むから、原盤権などあってもなくてもよかったからだ。
でも、僕たちは本当にそうなのだろうかと疑問を持っていた。だって、いつまでもCDをお店で売るスタイルが続くとは思えなかったから。2000年頃は配信もストリーミングもiTunesもまだなかったけど、ナップスターのようなP2P技術を用いたサービスが違法と合法のスレスレのところから出てきて、いずれ、音楽はデジタル配信されるものになると思えた。
だから、エイベックスはレコード会社なのに、マスターを作った原盤権者から積極的に原盤権を買い取っていった。CD全盛の時代は複製権が大切だけど、配信の時代になったら原盤権が重要になる。さらには作曲作詞の著作権である「(音楽)出版権」も重要になる。根っ子にある著作権や原盤権が重要になり、販売に近い側の複製権の重要さは相対的に下がっていくはずだと考えた。
だから、僕たちは、原盤権者や著作権者に対して、著作権と原盤権を半分買い取らせてくれないとCDはつくらないというポリシーで交渉していった。その代わり、原盤権者に対する権利使用料を上乗せして支払う。エイベックスの利益はその分少なくなるけど、原盤権を持つことは、将来必ず資産になると思っていた。
もし、あの頃、多くのレコード会社のように「複製権だけでいいよ、原盤権はいらない。その代わり権利使用料を安くして」と目先の利益を追求していたら、配信が主流の今、エイベックスには資産と言えるものは何もなかったかもしれない。
100人の小さな会社で権利をしっかり持つ
今の音楽ビジネスの中心は著作権と原盤権。日本ではまだまだだけど、海外ではこのような権利を売買するのが当たり前のことになっている。もちろん、売買差益で利益を出すということもあるけど、活用できる人の手に権利が渡って、音楽をより広げることにもつながっている。
だったら、この“中心”だけを残して、その他のレコード部門とかマネジメント部門とかライヴ部門とかは利益が出ているうちに売却してしまって、専門性の高いところに外注をしてしまえばいいのではないか。100人ぐらいの小さな会社で、権利をしっかり持って、年商数千億円みたいなイメージ。
僕がそういうことを口にすると、「いや、うちの部門はこれだけの利益が出てます!」と言われるけど、利益が出ているうちに売却しなければ、売れなくなってしまうんだよね。
誰だって、従業員を悲しませてまで会社の形を変えようとは思わない。だけど、レコード会社のイメージが強いエイベックスが「音楽制作部門やマネジメント部門を売却する」くらい言わないと世間は驚かないし、変化したイメージを持ってもらえない。実際にできるかどうかは難しいけど、それくらいやらないと世間のイメージは変わらないと思う。
嫌われることがわかっていても言いたいことを言う。それが、エイベックスのなかでの僕の役目なのかもしれない。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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