PERSON

2021.05.01

【松浦勝人】「時代にふさわしくない部分が大きくなったら、全部ぶっ壊してつくり直す」

松浦勝人氏

本社ビル売却と、その後の話。

青山にある本社ビルの売却が決まった。何年か前のゲーテでも話したと思うけど、僕のなかでは、建設中から、売却という選択肢は考えていた。その時は10年くらいはいるつもりだったけど、パンデミックが起こり、世の中の働き方が想定よりも3倍の速さで変化した。その働き方のなかで、こんなに大きなビルが必要ではなくなり、青山という一等地に資産を眠らせているより、その資金を事業に投資したほうがいいと考え、売却することを即断した。

入居期間はわずか3年なので、社員は残念に思うかもしれないけど、経営的には大正解だったと思うし、これでエイベックスの次の時代を切り拓いていくことができる。

売却後のことは何も決まっていないけど、どこかに広めのワンフロアを借りて、必要に応じて出社とリモートワークを使い分けていくイメージではないかと話をしている。社員は自分が気持ちよく感じるところに住んで、必要がある時に本社に出勤する。職種にもよるけど、世界中を移動しながら仕事をすることになる。フリーアドレスになり、リモートワークが始まり、エイベックスの働き方は大きく変わった。それがさらに変化することになる。

僕は、その新しい働き方を率先してやっている。出社をしても、いつも自室にいて、社員からは、いるのかいないのかわからないと思われている。そのほうが偶像のようになって、僕の仕事はしやすい。自室の隣の部屋で会議があっても、リモートで参加をしたいぐらい。

リモートであれば、どこにいたって仕事はできるんだから、決まった場所にいる必要もない。自分が生まれた国が好きなので、最終的には日本のどこかに住むことになると思うけど、いろいろ落ち着いたら、1、2年かけて、自分の次の人生のことをじっくりと考えてみたい。

自分は何が好きなのかと考えてみると、まずは音楽。その次にクルマ。オアフ島にサーキットが建設されるという話を聞いて、そういう仕事も面白そうだなと思い始めている。お金にはならないと思う。でも、今までも自分の好きなことを仕事にしてやってきたのだから、これからも自分の好きなことを仕事にしていきたい。自分は若いつもりでも、実際あと何年、身体が動くのだろうと考えると、やりたいことをさっさとやっておかないと、後で後悔するという思いが強くなっている。

今の仕事は、ハワイにいても、リモートでまったく問題なくできる。楽曲制作も、始めてから1年ほどが経ち、200曲ほどが完成した。200曲すべてが、その瞬間はベストだと思った曲だけど、いざ並べてみると、やっぱり1位から200位まで順位がつく。そのなかで、これはいけると思う曲は、自分の感覚では10曲から20曲。図抜けている曲というのは、そうそうあるものじゃない。

一日も早く、この200曲をすべて世に出したい。今は、世の中の状況や、さまざまな事情があって、ほとんどの曲がリリースできていない。この状態はきつい。世に出すまでの間は、本当にこれでいいのかと悩み、不安になる。それはこの仕事を始めた20代の頃からまったく変わらない。その不安は、1曲ヒットが出るとすべて解消される。

でも、その“売れる”ということが、とても大変なこと。曲がよくても、歌い手と相性が悪かったり、プロモーションの手法が時代と合わなければヒットしない。だから、この世界には、埋もれてしまった名曲が山ほどある。そうならないようにするには、もっとたくさんの曲を作って、すごい曲の数を増やしていくしかない。

楽曲そのものは、僕ではなくて、若い優秀な作曲家チームが作っている。僕は、できあがった断片を聴いて、「こんな面白い曲ができるんだ」と驚いていればいい。そして、あの曲のここと、この曲のここを組み合わせたらどうだろうという提案をする。最近では、敢えて数曲を選び、制作チームに「どれがいい?」と選ばせるようにもしている。僕以外の人でもできる仕事にしなければならない。

BTSのように米国進出をするという道

どのエンタメ企業もそうだと思うけど、エイベックスもコロナ禍では大きな痛手を被った。でも、もう次の動きが始まっている。ロサンゼルスにあるエイベックスのハウススタジオの動きが活発になっている。米国の作曲家とのつながりもできて、米国進出の拠点にできるし、彼らが日本やアジアのアーティストに楽曲を提供するということも可能な環境ができあがった。実際にいくつか実績も出始めている。

日本やアジアのアーティストに、その国の作曲家が楽曲を提供するのではなく、海外の作曲家が楽曲提供できる環境が整えば、米国の作曲家が作った曲を日本やアジアのアーティストが歌い、BTSのように米国進出をするという道も見えてくる。

これがうまく回り始めたら、僕は中間であるハワイに住んで、必要に応じて、ロスや東京、アジアに行くという働き方になるのかもしれない。

僕は一生懸命、200曲も作っているのに、僕から遠いところで売れ始めているんだよね。でも、いいことだと思う。

会社の形というのは、どうつくっても、できあがった時にはもう時代にふさわしくなくなっている。世界は常に変化をし続けているのだから、会社も常に変わらなければならない。ふさわしくない部分が大きくなったら、一度、全部をぶっ壊してつくり直す。会社というのはその繰り返しで、正解の形というのはない。つくりあげたものを守っていくのではなく、どんどんぶっ壊していく。それを再構築する過程に企業の成長がある。

エイベックスも僕も、次の時代の生き方を考える時期にきている。僕の人生は僕が考えることだけど、エイベックスのことは社長の黒岩が中心になって考える。僕は、相談されたら意見は言うけど、黒岩が決めたことに反対はしない。そういう時期がきていると思う。

 

Masato Matsuura
エイベックス代表取締役会長。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸レコード屋の店長としてビジネスを始め、以降輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメにまつわるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。血液型はO 型。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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