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2021.04.03

【松浦勝人】「ビジネスの競争とは、命のやり取りをする戦争だ」

素人目線

ビジネスは、相手を潰す戦争だ。

エイベックスでもアスリートのマネジメント事業をしているけど、なかなか難しい。僕たちは芸能面での支援はできるけど、スポーツ面での支援はできないので、引退後ならまだしも、現役時代にあまりお役に立てることがない。CM出演のオファーの話を持っていくぐらい。でも、それもなかなか難しい。アスリートにすれば、試合やトレーニングが最優先なのだから、オファーを断るのも理解できる。

その関係で、サンディエゴ・パドレスのダルビッシュ有選手と親交がある。日本ハムに入団した頃、エイベックスとマネジメント契約を結んだので、試合を何度か見にいっている。一昨年には、シカゴに彼の登板試合も見にいった。

日ハム時代の若いダルビッシュ有しか知らなかったから、あまりにも大人になっていることに驚いた。人への気遣いが上手だし、丁重にもてなしてくれる。僕は疲れて行けなかったけど、他のメンバーを本拠地の球場であるリグレー・フィールドの見学に連れていってくれて、フィールドの中でキャッチボールの相手もしてくれたという。その話を聞いて、やっぱり行けばよかったと後悔した。もう「ダルビッシュ有と知り合いです」と僕なんかが言うのがおこがましいほど、ワールドクラスのアスリートになっていたし、人格的にも素晴らしい大人になっていた。

僕自身、スポーツはあまりやらない。勝ち負けがはっきりとつくものはあまり好きになれない。20代の頃にゴルフをやってみたけど、負けると気分が悪くなってしまう。それが嫌で長続きしなかった。相手に腹が立つのではなく、ふがいない自分に腹が立つ。じゃあ、負けないように練習をするかというと、それも違う。勝つためには莫大なエネルギーを注ぎこまなければならない。僕は仕事にすべてを注ぎこんできたので、もう余力が残っていない。だから、スポーツはあまりやらなくなる。

最近やったのは、カートぐらい。カートも、肋骨を骨折することもあるほどGがかかる激しいスポーツ。翌日は全身筋肉痛になる。勝敗よりも、カートの運転そのものが面白くて、夢中になれるから続いている。

僕は、将棋をやっていて、負けそうになると盤をひっくり返していたくらい、子供の頃から負けず嫌いだった。その人並み外れて強い"負けず嫌い"を利用して、今まで仕事をしてきた。ライバルに絶対に負けたくないという気持ちで戦い、事業を軌道に乗せてきた。大手レコード会社を仰ぎ見て、追いつきたい、追い越したいという気持ちで成長させてきた。

ビジネス上の競争というのは、命のやり取りをする戦争だと思っている。ライバルの店舗や会社を潰しにいくぐらいの勢いでやるんだから、相手は閉店・倒産に追いこまれることもある。そこまで徹底してやらないと、こちらがやられる。法律や人としての倫理観というルールはあるけど、戦争なのだから、相当の気合いを入れて、腹を据えなければ戦うことはできない。全身全霊のエネルギーを注ぎこむことが必要になる。

だから、僕はすぐには戦争を起こさない。相手のことを考え、躊躇(ちゅうちょ)してしまう。我慢に我慢を重ねて、もうこれ以上だめだとなった時に腹を括って、相手を徹底的に潰しにいく。溜めに溜めたエネルギーが一気に放出される。

僕はエイベックスを創業して以来、ずっとそうやって戦ってきた。だから、休日にまで、スポーツをやって相手と戦おうとは思わないし、そのエネルギーがもう残っていない。それで、スポーツとはなんとなく縁遠くなっている。

エイベックス以外の他社の音楽は、絶対に聴いてやらない

地域のライバル店、ユーロビートのレコード会社、大手レコード会社。それ以外にも本当にさまざまな敵と戦ってきた。でもエイベックスが上場し、その後社長に就任すると、急に敵が見えづらくなった。次は世界がライバルだといわれたけど、大きすぎて敵の姿がよくわからない。そんななかで株主の期待に応えるために、音楽だけではなく、会社全体の業績をあげるという難題を抱え、今までとは違う戦いをしなければならなくなったように感じた。

社長という仕事を経験して、僕も少しは大人になったのかもしれない。他のレーベルがヒット曲を出していても、20代の頃の僕だったら悔しくて、なんとかして勝つ方法はないかと夜も眠らず考えたと思う。でも、今は、どんなレーベルもいい時もあれば悪い時もあると考えられるようになった。

以前は、若いアーティストとレストランで食事をしていても、何の違和感もなく楽しめた。でも、ここ数年は、周りからどう見られているのだろうと考えてしまう。

普通なら、きっと30代で大人になる時期がやってきて、きちんとした社会人になっていくのだと思う。僕の場合は、50歳をすぎて、ようやくその時期が訪れ、大人になり始めているのかもしれない。

でも、大人になることがいいことなのか悪いことなのか、よくわからない。わかっているのは、大人になるのはつまらないということ。

今、作っている音楽は、10代の若者に聴いてもらうことを前提としている。だからつらい。自分がいいと思った楽曲を、若い世代もいいと思ってくれるかどうかをいつも考えてしまう。20代の頃は、みんなが好きじゃないというのだったら、世間の好みを変えてやると本気で思っていた。僕ももう年をとったのだから、年相応の中高年が聴く音楽を作ればいいといわれれば、そのとおりなのかもしれない。年をとって、少しは丸くなったほうがいいといわれれば、そのとおりなのかもしれない。

でも、いまだにエイベックス以外の他社の音楽は、絶対に聴いてやらない。有線やラジオで流れてきて、エイベックス特有のサウンド要素をうまく取りこんでいる楽曲を耳にすると、ムカついてたまらない。負けず嫌いだけは、年をとってもなくならないのかもしれない。

TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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