PERSON

2021.05.30

【松浦勝人】「真っ当に稼いで真っ当に使う。いいお金持ちがどういうものかを見せようと思う」

松浦勝人氏

最後に話したいこと。【前編】

CEOを退任して、僕のエイベックス人生にはひと区切りがついた。この連載を楽しみにしてくださっている方には申し訳ないけど、そろそろ、この連載も区切りをつけたいと思っている。だから、今の気持ちを正直に話したい。

これから僕は、“いいお金持ち”として生きていこうと思う。僕がどうやってお金を稼いできたかは、多くの人が知っているはず。真っ当にお金を稼いで、真っ当に使う。最近、またYouTubeやSNSも始めているけれど、そんな姿を見せていきたいと思ったからだ。

今までは、自分の持っているクルマや時計を見せびらかすのは、かっこ悪いことだと思ってきた。むしろ、中途半端なモノを見せびらかす人を見て、いつまでそんなことをしているんだとすら思っていた。でも、最近、人としてのルールを守らない悪い金持ちが目につくようになった。ちょっと成功したぐらいで、すぐにモノを見せびらかす。そのくせ、人としてのルールを無視し、平気で周囲を傷つける。離婚をしても、理由をつけて養育費すら支払わない。

僕は、自分自身のことをたいしたお金持ちではないと思ってきた。人に騙されて大きな借金を背負い、収入のほとんどを返済にあてていた時代もある。お金がない辛さも知っている。でも、よく考えたら、僕は20歳の時から普通の人よりずっとお金を持っていて、40歳になるまでは、自分よりお金を持っている人に出会ったことがなかった。世間から見れば、僕はお金持ちなんだということに、今さら気がついた。

子供たちは知らないことなので、詳しくは言えないけど、既に、ある程度のお金を受け取れるようにしてある。たいした額じゃない。あまりに大きなお金を渡すと、人生がおかしくなってしまうかもしれないから。考えて、悩んで、額や方法を決めている。

最近、恋人とも別れた。彼女は年下だったので、僕が死んだ後の生活があるだろうと、お金を残そうと考えてきた。でも、それも必要なくなった。もう、恋愛もしないと思う。

別にこれはすごいことではなく、当たり前のこと。そうして人としての責任を果たしてきて、今は自分のことだけを考えればよくなった。だったら、全部使っちゃえ、大好きなクルマを買いまくっちゃえと、毎日のようにクルマを買っている。500台しか生産されなかった限定車ラ フェラーリを2台、ラ フェラーリ アペルタも買った。でも、無駄遣いをしているわけじゃない。僕が買っているのは、すべて限定車。買った後で値段が上がっていく。アートに投資をするのと同じ。持っているお金を全部クルマに換えて、生活費がなくなったら、それを売って生きていけばいい。

僕は血液中の酸素飽和度が92%程度しかない。心拍数も高く、横になっていても100ぐらいある。だから、心臓の音が耳について眠れない。無呼吸症候群もある。平均の睡眠時間は2時間程度。それがハワイの自宅にいる時は、最低でも7時間、長ければ10時間を超えて、ぐっすりと眠れる。

東京にいると、ペットボトルを海に沈めるとぐしゃっとつぶれるような圧迫感を身体に感じる。ストレスと恐怖。日本は好きだし、東京の街も大好きなのに、この30年、東京では嫌なことの連続だった。

学生時代にしたやんちゃは、誰だって悪ぶって大袈裟に話す。人前で持病の薬を飲む時は、「これは覚醒剤じゃないからね」くらいの冗談を言って楽しませようとする。でも、その部分だけを切り取って、あたかも真実であるかのように伝えられる。自分自身は、無理矢理にでも器を大きくすることで耐えてきたけど、子供たちにも、そんな冗談がメディアを通じて真実のように伝わってしまうのは本当にきつかった。記事を見た子供たちは、すごくショックを受けたと思う。最近まで、僕とろくに会話もしてくれなかった。少しでも「パパ、すげえ!」と言われたくて、長男がマクラーレンが好きだと言うから、1台買った。今までやったこともなかった、子供のご機嫌取りをしている。

CEOを退任したのは、僕が希望したことで、黒岩(現CEO)、林(CFO)と、エイベックスにとって一番いい形は何かを話し合って決めたこと。でも、多くの人が知人や友人を通じて、僕に面会を求めてくる。その人たちは、僕が会社側に追いやられて、CEOを退任させられたと思っている。それで、僕にあの手この手の話を持ってきて、もう一回、CEOに返り咲きませんか? と言ってくる。本当にくだらない。音楽やエンタメにまったく興味のない人たちが、僕を操って、お金儲けをしたいだけというのが丸見えだ。

この30年、その年を象徴する一文字を選べと言われたら、毎年が「苦」だった。でも、今年は「許」(ゆるす)になる。今の僕は、この30年間、僕を苦しめてきたすべての人を許そうという気持ちになっている。怒ってもいない、恨んでもいない。そうすることで、自分のなかの澱(よど)みも消えていく。

考えてみれば、僕は幸せな男だと思う。自分の好きな音楽を仕事にして成功をして、お金持ちになった。浜崎あゆみという時代のスターとも大恋愛をした。男の子が思い描く夢をすべて実現してきた。こんな面白すぎる人生は、ちょっとない。

父親が中古自動車販売店を経営していたので、小さい頃からクルマに囲まれて育ち、あらゆるクルマを運転し、改造してきた。だから次の人生は、クルマやレースを仕事にしたいと考えている。

例えば、F1を鈴鹿や富士ではなく、大都市の市街地サーキットで開催したい。僕の想いはF1のチームを保有すること。利益が出るとか、そういうことはどうでもいい。日本の大都市で開催されるF1グランプリを、チームオーナーとして楽しみたい。

もう、過去のことから自分を解放して、僕は、次のファビュラスな人生へ進もうと思う。

 

Masato Matsuura
エイベックス代表取締役会長。1964年神奈川県生まれ。日本大学在学中に貸レコード屋の店長としてビジネスを始め、以降輸入レコードの卸売り、レコードメーカー、アニメやデジタル関連事業などエンタメにまつわるさまざまなジャンルに事業を拡大し続ける。血液型はO 型。

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TEXT=牧野武文

PHOTOGRAPH=有高唯之

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