いまだ収束が見えないコロナ禍にありながらも、活況を呈し続ける富裕層向けのビジネス。なかでも小売業の分野で改めて注目されているのが百貨店の外商だ。そこで一般的には知り得ない、百貨店の外商員の活動に密着取材を敢行。そこから垣間見えてきたのは、人とモノ、人と人との真に豊かな関係であった。【前編はこちら】
外商がもたらしてくれる本当の豊かさとは
かつては俳優を目指して名古屋から上京し、かの奥田瑛二氏のつき人を務めたこともあるという異色の経歴の山田氏は、現在約130人もの外商顧客をひとりで担当。その全員の嗜好だけでなく、各々の家族の好みまで熟知し、提案する商材のセレクトや、最低でも1日5〜6軒は訪ねるというスケジュール管理にいたるまで、すべてを自分自身で行う。まさに本人が言う「松坂屋の看板を背負った個人商店」として、高い売上高を記録しているのだ。そんなトップ外商員の秘訣とは何だろうか。
「商品知識や提案力は当然不可欠であり、ブランドの方や各分野の専門家を招いた勉強会なども行っています。ですが、最も大切なのはやはり信用であり、知ったかぶりは絶対しません。今のお客様は勉強熱心で知識量も豊富ゆえ、深い知識は逆に拝聴して教わるようにしています。専門的な説明が必要な時は、ブランドの方に同行してもらうこともありますので。似合っておられないと感じるものや、以前ご購入いただいた商品と似ているものも、お客様がその気でもお薦めはしません。そのため売り場とは喧嘩になることもありますが(笑)。それと常に心掛けているのは、どんなお客様に対しても、お客様の立場に立って接することです。お客様からは時間を問わずケータイに電話がかかってきますが、どんなに忙しくても必ず出ます。なぜなら、何かお困りでお電話くださったに違いないからです」
そんな山田氏が1年ほど前から外商を担当しているのが、顧客として取材に応じていただいた開業医の塚本先生だ。今回山田氏は、塚本先生が以前ネットで見かけて気になると言われた腕時計が入荷したため、実物を見てもらいに行くという。父親の代から利用し、ずっと外商が身近な存在だったという塚本先生に、いまや富裕層ビジネスの最前線となった外商の魅力についてたずねてみた。
「職業柄、現在はあまり外で買い物ができず、山田さんにはついいろいろ頼んでしまうんですが、いつも要望や好みに合った品を的確に提案してくれます。希少な品も時間をかけて探し、店頭に並ばないようなものも紹介してくれる。私にとってそんな外商は、よりよい買い物を手助けしてくれる究極のサービスです。それを安心して利用できるのは、山田さんの人間性とセンスを信用しているから。今回も手土産の菓子折りを頼んだのですが、相手が女性と知ると、大きいと食べ切れずかえって気を遣わせてしまうこともあるのでと、小さいものを薦めてくれました。商売上は大きいほうがいいはずなのに。そんな山田さんを、私は信頼しているのです」
クリックひとつで、お金さえあれば何でも買えてしまう現在。本来は人と人とのやり取りの基盤であり、信用や信頼を生む人間性は、介在する余地がなくなりつつある。コロナ禍を背景に勃興するネット通販の時代に外商が躍進を遂げているのは、富める人々がそんな血の通った人間味溢れる豊かさを求めはじめているからではないだろうか。塚本先生のこんな逸話からも、それはうかがえるのだ。
「子供の頃、母が入院したことがあったのですが、退院日に退院祝いだから好きなものを選びなさいと、父が洋服をずらりとかけたラックを病室に運んできたのです。母は大喜びし、私もびっくりしました。父は不器用なので、当時の外商さんが母の好みに合わせて手配したに違いないですが、関わる人みんなを幸せにする素晴らしいサービスだと、今にして思うのです」
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