いまだ収束が見えないコロナ禍にありながらも、活況を呈し続ける富裕層向けのビジネス。なかでも小売業の分野で改めて注目されているのが百貨店の外商だ。そこで一般的には知り得ない、百貨店の外商員の活動に密着取材を敢行。そこから垣間見えてきたのは、人とモノ、人と人との真に豊かな関係であった。【後編はこちら】
富裕層の心を摑む進化を遂げた外商2.0
「古いビジネスモデルではないかと社内で軽視された時期もありましたが、弊店の店長に言わせると“周回遅れで、気がついたら先頭を走っていた”と。少々自嘲気味な表現ですが、これは言い得て妙だと思いますね」
こう外商について説明してくれたのは、松坂屋名古屋店にて17年間も外商員を務め、毎年指折りの売上を稼ぎだす山田昌宏氏だ。その言葉どおり、外商には古いイメージがある。実際、その起源は江戸初期、400年以上も遡る。後に百貨店となる当時の呉服商には、将軍家や大名、公家などのお得意に対し、好みの品を屋敷まで持参し、後日代金を受け取る「掛け売り」という商習慣があった。これがその後番頭ごとに顧客を受け持つ番頭制へと引き継がれ、今日の外商となったという。
「弊店は昨年、創業410周年を迎えましたが、当初より外商に注力してきました。その戦略は現在まで受け継がれ、今では売上比率の約半分を外商が担うようになっています。コロナ禍までは売上高も右肩上がりでした。その背景には中間層が減り、市場の二極化によって富裕層が増加したことがありますが、長年外商を営業の要として捉え、進化させてきたことも奏功しているのではないでしょうか」
外商による売上高に関しては、全国的にもトップクラスである松坂屋名古屋店。その売上を支える外商部は、先進的なオフィスや最先端の顧客管理システムを導入。さらにコンプライアンスの観点から採用した、個別の顧客を含めた担当エリアを5年ごとに交代する制度や、入社わずか半年の新人など、敢えて若手を積極的に起用するなど、旧態依然とした外商のイメージを覆す革新的な戦略を数多く導入しているのだ。
なかでも若手の起用は、接客を熟知したベテランという外商員の一般的イメージとは真逆であり、上客を任せるリスクも懸念されるが、むしろ年配の顧客には可愛がられることのほうが多いそうだ。また新規開拓の中心層であるいわゆるニューリッチとは世代が近く、商品を提案する際に感性的な共感も得られやすい。人材育成の側面も含め、他の百貨店ではまず見られない若手外商員の活躍はメリットが多いのだ。提案する商材に関しても、慣習にとらわれることなく最新のものを導入しているという。
「宝飾品や腕時計、バッグ類、服飾品などは昔から外商の定番商材ですが、例えば美術品は伝統的な日本画や洋画ではなく、将来の投資的な魅力もある現代アートを好まれる方が増えており、話題のアーティストの作品などもチェックしています。また、コロナ禍の現在は、プライベートジェットのタラップまでタクシーでお越しいただき、到着したら再びタラップからタクシーでホテルへ向かうという、不特定多数との接触を避けた、安心して楽しめる海外旅行の提案もご好評いただいていますね」
欧米のラグジュアリーブランドにも“GAISHO”として通じる現代の外商は、時代遅れどころかここまで進化していたのだ。
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