ボディコンテスト出場に向けて1年弱でアスリート並みに身体を絞った、英国ラグジュアリーブランドのジャパンCEO・伊知地徹氏。身体を鍛え上げ、真剣にトレーニングに打ちこむことは、仕事にも好影響をもたらしているという。#前編 【特集 魅せるカラダ2025】

トレーニングで重要なのは「自分に勝負をかける」こと
トレーニング歴30年以上の伊知地徹氏。ボディコンテスト出場を決意してからはこれまでの経験を活かしつつ、自分に合った“筋肉の育て方”を試行錯誤。そこでたどり着いたのが、部位を「胸」「背中と二頭筋」「肩と三頭筋」「脚」に分け、4日間トレーニングしたら1日休むという独自のサイクルだ。これが今の伊知地氏にとってベストな方法であり、効果も実感しているという。
「周りを意識するあまりに他の人がやっているメニューを真似したり、負けじとウエイトを重くする人もいますが、それは考えもの。他の人には最適な方法でも自分には合わない場合もありますし、ペースが乱れてケガをするリスクも否めません。僕自身、そんな経験をしているんですよ。
トレーニングで重要なのは、他人と比較するのではなく自分に対して勝負をかけること。自分を見つめ、昨日の自分に勝つ、昨日の自分を超えていくことこそが大切なのだと、今はそう思っています。
これは仕事も同様。コンペティター(競争相手)を意識して、勝つためにどうするかを考えるよりも、自分たちのビジネスをどう改善し伸ばしていくかが重要だと私は思います。そのことを再認識できたのも、トレーニングのおかげですね」

伊知地氏が本格的なトレーニングを始めたことは、社内のスタッフにも大きな変化をもたらした。
「僕の身体がどんどん引き締まっていくのに触発されたのか、これまでまったく運動していなかったスタッフがジムに通うようになるなど、社内でちょっとしたトレーニングブームが起こっています(笑)。
我々の仕事は人に見られる機会が多いのですが、人にいい印象を与えるにはファッションだけではなくて身体自体も非常に重要。スタッフ全員そのことは理解しているはずですが、残念ながら長く携わっているうちに、その意識が薄れてしまうこともあるんです。今回、僕が身体づくりに励むようになったことで、意識向上につながったスタッフもいるような気がします」
意識の向上は、運動に対する認識だけではない。自ら課したトレーニングを欠かさず実行し、1日あたりの摂取カロリーの上限もきっちり守り、口にするものも厳しく制限する。そんな伊知地氏の“自分を律する生活”は、チームの仕事に対する意識の向上につながっているようだ。
「チームには気を緩めてほしくないので、自分の行動を通じてスタッフに良い刺激を与えられているとしたら嬉しいですね。コンテスト出場を決意し、本格的にトレーニングを始めて本当に良かった」
言葉ではなく、姿勢で示す。それは何よりも説得力のあるリーダーシップなのだ。

コンテスト出場はゴールではなくスタート
本格的に身体づくりを始めてから約7ヵ月、目指すコンテストは目前に迫っている。コンテストでの目標をどこに設定しているのかと尋ねると、伊知地氏からは「自分の立ち位置を知ることですね」という言葉が返って来た。
「もう1年みっちり身体を鍛えてから出場した方がいいのか、迷ったこともあります。でも、指導を仰いでいるトレーナーの有馬(康泰)さんに相談したところ、『まずは挑戦し、自分の強みと弱みを知った方がいい』とアドバイスされまして。
だから今回の目的は、自分の今の身体が、まだまだ筋肉不足なのか、ある程度通用するのかなど“立ち位置”を知ること。そこでわかった強みを伸ばし、弱点は克服して、来年は入賞を目指せれば。
実は、社内のスタッフ数人が来年のコンテスト出場を目指しているんですよ。ボディコンテストにはいろいろなカテゴリーがあり、初心者が挑戦しやすいものもありますから。仲間たちと一緒に出場し、そこで何かしら結果が残せたら最高ですね」
つまり、伊知地氏にとってこの夏の挑戦は“ゴール”ではなく“スタート”。
「いつでもどこでもできるのが、トレーニングの魅力でもあります。50代半ばにして、再び本格的にトレーニングを始め、コンテスト挑戦という仕事以外の目標を持てたことは、本当にラッキーだったと思います。一緒にコンテスト出場を目指す仲間も得られましたし、これからもトレーニングに励みます」
伊知地徹/Toru Ichiji
1968年東京都生まれ。2000年からイタリアの時計ブランドCEOを務め、2017年から現職。学生時代からスポーツに親しみトレーニングを習慣にしてきたが、ボディコンテスト出場を決意したのを機に、2025年1月から本格的なトレーニングを開始した。