190cm、84kgの体格を活かし、FC町田ゼルビア(以下、町田)を牽引し、代表での活躍も期待されるゴールキーパー・谷晃生。ストイックなトレーニングでも知られるが、その肉体美はどのように作られているのだろう。今回は谷の独自のトレーニング&コンディショニングの極意に迫る。インタビュー2回目。【特集 魅せるカラダ2025】

「魚がメイン」回復力が向上するタンパク質のこだわり
町田GK・谷晃生のコンディショニングで最も特徴的なのが、2024年から実践している「魚中心」の食事法だ。その選択には、彼なりの明確な理論的根拠がある。
「お肉って置いておくと脂が固まるじゃないですか。あれって体内でも同じようなことが起きて、血液の中で脂が固まってしまう、つまり血液がドロドロになる感じなんです。でも魚は置いても脂は固まらない。魚を食べると“血液サラサラになる”ってよく言われるように、体内の循環が良くなって、疲労回復などが早くなるとはいわれています」
この理論は、動物性脂肪と魚脂(オメガ3脂肪酸)の性質の違いに基づいている。肉に多く含まれる飽和脂肪酸は常温で固まりやすく、血中では血液粘度を高める傾向にある。一方で、魚に多く含まれるDHAやEPAといった不飽和脂肪酸は、血液をサラサラに保ち血流を改善する効果があるとされている。谷は、こうした科学的な知見を、実際のコンディションの変化と重ね合わせながら取り入れているのだ。
「結構、魚中心の食生活を実践している選手はいます。あとは偏りがないことぐらいですかね」
この言葉からも分かるように、魚中心の食生活は、現代のプロアスリートたちの間で広く共有されている知識だ。従来の「肉でタンパク質を摂取」という常識にとらわれず、回復力の向上という明確な目的のもとで魚へとシフトする。この合理的なアプローチには、24歳という若さでありながら、成熟した思考が垣間見える。

「5メートル飛びたい!」男が追求する“速い筋肉”
筋力トレーニングにおいても、谷は明確なコンセプトを持って取り組んでいる。190cm、84kgという恵まれた体格を活かしながら、ゴールキーパーに不可欠な「瞬発力」の強化を重視したメニューを実践している。
「体を大きくするというよりは、使える筋肉というか、瞬発力がやっぱり必要なので、“速い筋肉”をつけるなど、筋肉の質をすごく意識しています」
「速い筋肉」とは、いわゆる速筋繊維のことを指す。筋肉には、持久力に優れた「遅筋繊維」と、瞬発力を発揮する「速筋繊維」がある。ゴールキーパーに求められるのは、瞬間的な反応や爆発的な動き。そのため、後者の強化がとりわけ重要となる。
「筋トレで重いものを上げることはもちろん必要ですが、(身体を)大きくするよりは、自分の最大値の6割〜7割ぐらいで、素早く挙げたりとか、そういったところを意識してトレーニングしています」
最大筋力の60〜70%という負荷設定は、パワー(瞬発力)向上に最も効果的とされる強度だ。重量を追求するのではなく、動作の速度を重視するトレーニングであり、現代スポーツ科学の知見に基づいた、合理的なアプローチといえる。
「上半身は『肩甲骨、肩周り』、下半身は『瞬発力のバネを意識してお尻』と、ゴールキーパーの動作に直結する筋群を重点的に鍛えています。練習では上半身と下半身とを分けて1日ずつ行い、さらに練習後に一度帰ってから、パーソナルトレーニングを受けることもあります」
チーム練習に加え、個別のセッションも取り入れている。その背景には明確な目標があるからだ。本人は「5メートルぐらい飛べるようになりたいです!」と冗談まじりに話していたが、これはより高いレベルでのセーブ技術を追求する谷の意識の表れでもある。
21時消灯の家庭で育った、睡眠への取り組み
すべてのコンディショニングの土台となるのが睡眠だ。谷は「決まった時間に寝て、決まった時間に起きる」ことをルーティンとし、最低8時間という理想的な睡眠時間を確保している。睡眠に対する意識は、子供時代からの習慣でもあるようだ。
「小学生の頃は、親に夜9時には強制的にベッドに入らされていました。中学からは地元のクラブチームに通い始めて、電車で2時間ぐらいの距離でしたが、親が頑張ってクルマで送ってくれていたので1時間ぐらいの移動時間。それでも睡眠はしっかりとっていました。月曜日しか休みがなかったのですが、当時のコーチから『火曜日か水曜日は来なくていい。ちゃんと休んで、寝ること』と言ってくれていて、子供は良い状態でやることが大事だと理解してくれていました」
プロアスリートとしての現在も、この基本姿勢は変わらない。
「身体が資本です。怪我しない身体作りや、良いパフォーマンスを発揮するためにトレーニングを行っています。良いパフォーマンスを発揮して良い結果を残すために睡眠もとりますし、食事もとります。全てはパフォーマンス、結果のためです」
総合的なアプローチが、シーズン序盤の苦戦から現在の好調へとつながっているようだ。
「シーズン序盤は特に、なかなか自分のなかでうまくいってないというか、しっくりこない感じはありました。でも徐々にシーズンが進むにつれて、身体と感覚が一致してきていると思います。コンディションは試合を重ねるごとに良くなってきているかなと思います」
フィジカル、生活習慣のすべてを最適化し、谷は現代的なプロフェッショナルアスリートとしての道を確実に歩んでいる。ミスを恐れず、科学的根拠に基づいてコンディションを整え、常に上のステージを目指す。緻密で合理的なアプローチこそが、谷晃生という選手の真骨頂なのではないだろうか。
※3回目に続く

FC町田ゼルビア大躍進の裏には、アマでもプロでも通用する、黒田流マネジメントの原理原則があった。組織・リーダー・言語化など、4つの講義を収録。結果を出せず悩んでいるリーダー必読。黒田剛著 ¥1,540/幻冬舎
▶︎▶︎▶︎購入はこちら