モデルラインナップを拡充中のMINIファミリーの5ドア仕様に試乗。クルマの出来には納得したいっぽうで、その名称にはとある疑問が……。

初代MINIは、革新的小型車にして元祖エコカーだった
以前に本連載で、MINIのBEV(バッテリー式電気自動車)専用モデルであるMINIエースマンを紹介した。デザインが洒落ていて、しかもファン・トゥ・ドライブでもあるMINIエースマンは、このブランドが電気自動車を作ったらこうなるだろうな、と納得できる1台だった。
そして先日、5ドアボディとガソリンターボエンジンを組み合わせたMINIクーパー5ドアSに試乗する機会を得た。エンジンをブン回すと勇ましい音を立てること以外はMINIエースマンと同様、実用的でありながら、美的センスと遊び心も感じられる1台だった。
「EXPERIENCE」モードを操作することでセンターディスプレイやアンビエントライトを自分の好みにカスタマイズできることなど、最新のMINIが新しい体験を提供してくれることはMINIエースマンの原稿に書いたので、ここでは繰り返さない。
ただひとつ、“昭和のクルマ好き”や初代MINIのマニアが「ん?」と思ったのは、MINIクーパーというネーミングだ。従来はスポーティ仕様をMINIクーパーと呼んでいたけれど、最新モデルは3ドアと5ドアの全モデルがMINIクーパーというネーミングになったのだ。
重箱の隅をつつくような指摘であることは、重々承知している。でも、「MINI」と「クーパー」をごっちゃにしないことは、このブランドを理解するうえで大切なことのように思える。

そこで余計なお世話とは思いつつ、MINIというブランドを正しく知っていただくために、時計の針を1950年代に巻き戻したい。
1956年は大変な年で、というのもエジプトのナセル大統領がスエズ運河の国有化を宣言したことで、ヨーロッパは深刻な石油不足に見舞われたのだ。そこで自動車メーカー各社にとって、経済的なコンパクトカーを開発することが急務となった。
ここで画期的な小型車の開発に成功したのがBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)のエンジニアだったアレック・イシゴニスだ。ギリシア人の父とイギリス人の母を持つイシゴニスは、ごく一部の特殊な車両にしか採用されていなかったFF(フロントエンジン・フロントドライブ=前輪駆動)という駆動方式の実用化に成功したのだ。

ここで生まれたのが初代MINI(当時の名称はセブン)だった。部品を減らして軽くできること(=燃費向上)や、コンパクトな車体でも室内を広くすることができるFFというレイアウトは画期的で、その後、小型実用車のスタンダードになった。つまり初代MINIとは、軽量コンパクトで燃費性能に優れる、元祖エコカーだったのだ。

「MINI」と「クーパー」が一体化した理由を考察
1960年代に入ると初代MINIは、ザ・ビートルズのメンバーやエリザベス女王など、英国セレブリティの寵愛を受けるようになる。ちなみにミニスカートの発案者として知られるファッションデザイナーのマリー・クワントは後に、「ミニスカートのミニは、愛車のMINIに由来する」と語っている。
徹底的に機能を追求し、無駄を削ぎ落としたことが逆に付加価値となり、初代MINIはイギリスのアイコン的な存在になったのだ。
同じ頃、初代MINIに注目する人物がもう一人存在した。それはF1において、1959年と1960年の2年連続でコンストラクターズチャンピオン(チームとしての優勝)を獲得したジョン・クーパーだった。
クーパーは、初代MINIのポテンシャルを見抜き、強力なエンジンを搭載したMINIクーパーを開発する。そしてクーパーはさらにパワフルなエンジンを積むMINIクーパーSを手掛け、このモデルはWRC(世界ラリー選手権)モンテカルロラリーでの総合優勝などモータースポーツで華々しい活躍を見せた。

というわけで、元祖エコカーとして誕生した初代MINIと、モータースポーツで戦うためにチューニングされたクーパーは、本来は別の路線だった。だからスポーティ仕様をMINIクーパーと呼ぶのは理解できても、なんでもかんでもMINIクーパーと呼ぶのは少しひっかかるのだ。
ま、「カタいこと言うなよ」という話ではある。また、最新のMINIが実用一点張りのコンパクトカーとは一線を画すスペシャルなモデルであることをアピールするために、あえて「クーパー」という名称を標準装備にしたことは理解できる。実用的かつ環境にも配慮して、しかもスタイリッシュでスポーティと、これからのMINIが小さな高級車路線を歩むというマニフェストが、MINIクーパーというネーミングなのだろう。
昭和のクルマ好きは違和感を感じるMINIクーパーという名称であるけれど、新しい時代を駆け抜けるためにこの名前を手に入れたと考えれば、納得がいくのではないだろうか。

全長×全幅×全高:4035×1745×1470mm
エンジン:2ℓ直列4気筒ターボ
トランスミッション:7段DCT
駆動方式:前輪駆動
エンジン最高出力:205ps/5000rpm
エンジン最大トルク:230Nm/1450〜4500rpm
価格:¥3,950,000〜(税込)
問い合わせ
MINIカスタマー・インタラクション・センター TEL:0120-3298-14
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。