俳優としての内省と表現、その間に寄り添う1杯のウイスキー。パク・ソジュンが自ら造り上げた至高の1杯とともに語るのは、酒を嗜むという行為がもたらす深く整う時間と、異分野との協業によって格段に広がった、あらたな創造のかたちだ。【特集 弩級のSAKE】

「誰かと心を交わすひと時にも寄り添う1杯」
「深い思索に沈むには、夜と酒が一番だ」──そう語ったのは、いつの時代の、誰だったろう。あるいは、それは俳優パク・ソジュン自身の実感だったのかもしれない。
仕事を終えた夜、部屋の明かりを落とし、心地いい音楽に身を委ねながら、ウイスキーのグラスを傾ける。その時間は、俳優としての自分を、ひとりの人間として整えるための、かけがえのないひと時。彼にとってそれは、ある種の“儀式”のようなものだという。
「自分にとってウイスキーは、一日を締めくくるために欠かせない存在です。俳優という仕事は、感情を表現する営みだと僕は思っています。そのためには、ひとりで考える時間がたくさん必要ですし、時にはナーバスになることもある。そうした時間や経験の積み重ねが、役柄に向き合ううえで、とても重要なプロセスになっています。そういう意味でウイスキーが与えてくれるのは、自分の内面と静かに向き合い、想いや考えを深めていくための、かけがえのないひと時なのです」
高校時代に俳優を志し、ソウル芸術大学の演技科へ進学。26歳でその演技が注目されはじめ、185㎝の長身とクールな眼差しを持ち味に、数々の作品で存在感を示してきた。なかでも、2020年にNetflixで配信された『梨泰院クラス』で演じた主人公パク・セロイ役は、韓国のみならず日本を含む世界中に強烈な印象を残し、一躍グローバルな注目を集める転機となった。その彼が日本の蒸留所とともに合弁会社を設立し、クラフトウイスキーをリリースするという展開は、一見すると意外にも映る。だが、その背景にはパク・ソジュン自身が長年にわたって育んできた、ウイスキーに対する深い敬意と静かな情熱があった。

1988年韓国・ソウル特別区生まれ。2012年から俳優活動を本格的に始動。以後、『彼女はキレイだった』『キム秘書はいったい、なぜ?』などの主演ドラマが大ヒット。2020年『梨泰院クラス』の世界的なヒットで話題を呼ぶ。韓国では2025年12月から5年ぶりとなる主演ドラマが放映中。
ジャパニーズウイスキーとの出会いがさらなる邂逅を生む
「年齢を重ねるにつれて、さまざまなお酒に触れるようになりましたが、そのなかで自分にはウイスキーが最もしっくりくると思うようになりました。最初はスコッチウイスキーを飲んでいたのですが、日本のウイスキーに出会ってからは、口に合う感覚がより明確になっていきました。『山崎』や『白州』といった名のしれたウイスキーはもちろんですが、ある時、長濱蒸溜所のウイスキーを飲む機会があって、それが驚くほどフィットしたんです。その出会いがあって、日本各地のクラフトウイスキーに強く惹かれるようになりました」
そこからたびたび日本を訪れ、蒸留所では職人たちと対話を重ね、ブレンディングを含む製造過程も体験。ウイスキー造りには想像以上の真心と情熱、そして深い時間が込められていることを目の当たりにしたことで、ウイスキーが単なる嗜好品ではなく、彼にとって特別な存在へと変わっていった。
「いつか自分の手でウイスキーを造ってみたい」──そう思った矢先に出会ったのが、宮崎県で明治18年から続く老舗蔵元、黒木本店の五代目・黒木信作氏だった。焼酎「百年の孤独」で知られる名門でありながら、日本の蒸留酒文化を守り継ぐ志のもと、自然豊かな宮崎の地に尾鈴山蒸留所を構える黒木氏。パク・ソジュンと黒木氏は奇しくも同い年。ウイスキーを酌み交わしながら語り合った時間のなかで、互いの情熱が交差し、やがて異例の初協業というかたちで結実していくこととなる。
新たな感性を呼び覚まし心をときほぐすツールに
そうして始動したウイスキープロジェクトの第一弾として、2024年12月にクラフトブレンデッドウイスキー「26(トゥエンティシックス)」が日本国内限定一万本でリリース。発売と同時に完売となり、大きな話題を呼ぶ。ウイスキーとしての完成度の高さはもちろん、蒸留所がある宮崎県の魅力発信にもつながるなど、プロジェクト自体が想像を超える反響を得る結果ともなった。
その手応えを受け、パク・ソジュンは自身の誕生日の数字を冠した合弁会社「1216」を設立。ウイスキーという枠を超え、地域と文化、そして自身の美意識とこだわりを体現する長期的かつ本格的なビジネスへと、プロジェクトは大きく進化を遂げていく。
「黒木さんとの協業は、まったく新しい分野への挑戦でもあり、自分にとって非常に価値のある経験となりました。ウイスキーは自分に向き合う時間はもちろん、誰かと心を交わすひと時にも寄り添ってくれる。新たなアイデアも構想中ですので、また機会を見てお話しできればと思います」
俳優として積み重ねてきた感性が、新たなかたちで至高のウイスキーとなる。『26』が映しだすのは、パク・ソジュンという表現者の静謐な成長の軌跡であると同時に、国や言葉を超えた対話の証でもある。

この記事はGOETHE 2026年2月号「総力特集:その一滴が人生を豊かにする、弩級のSAKE」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら






