フェラーリは、新型電気自動車のインテリアを元アップルの大物デザイナーに委ねた。はたして、どんな仕上がりになっているのか。

Apple Watchを生み出したふたり
2026年2月初旬、「4ドア、4座、4モーター」というスペックだけが明かされていたフェラーリ初のBEV(バッテリー式電気自動車)の車名とインテリアが発表された。モデル名はイタリア語で「光」や「照らすこと」を意味する「Luce(ルーチェ)」。この言葉は単なるネーミングにとどまらず、電動化の新しい時代に向けたフェラーリの姿勢や哲学を示すという。

驚いたのは、フェラーリ・スタイリング・センター(チェントロ・スティーレ)と協力してインテリアのデザインを手がけたのが、米国サンフランシスコに拠点を構えるLoveFrom(ラブフロム)であったことだ。
2019年にこのクリエイティブ集団を立ち上げたのは、アップルのCDO(最高デザイン責任者)を務めたジョニー・アイブと、プロダクトデザイナーのマーク・ニューソンだった。
1992年にアップルに入り、同社に“復帰”した時期のスティーブ・ジョブズに高く評価されたアイブは、カラフルな初代iMacを筆頭に、iPhoneやiPadのデザインを手がけ、黄金期を築いた。アップルの“デザイン・マスター”と称される人物で、ジョブズの追悼式でも登壇している。
クルマから腕時計や家具、カメラなど、多彩なジャンルのデザインを手がけ、多くの作品がニューヨーク近代美術館に収蔵されているニューソンは、現代を代表するデザイナーのひとり。アイブがデザイン担当上級副社長に就いていた2014年に、アップルに招かれている。ちなみに、第一世代のApple Watchはアイブとニューソンの共作だ。

このふたりがフェラーリのインテリアをデザインしたら……。テスラのように、室内に巨大なiPadが置かれ、すべてのインターフェイスを司るという方向も想像できる。スイッチやダイヤルは姿を消し、ツルンとした空間だけが残るというような。
ところが、そうではなかった。クリーンでモダンな空間ではあるものの、フェラーリの歴史と伝統を感じさせる意匠なのだ。
伝統を重んじながら革新する
ステアリングホイールは、オーソドックスな3本スポーク。1950年代から60年代にかけての、イタリアの名門ナルディのウッドステアリングからインスピレーションを得ているという。ただし、ルックスはクラシックであるものの素材は先進的で、100%再生由来のアルミニウム製。あえて金属の地肌を露出することで、素材の強度と滑らかな表面処理を施した仕上げのよさを表現している。このステアリングホイールは、標準的なフェラーリのステアリングホイールよりも400グラムの軽量化を果たしているという。

ステアリングホイールの左右のスポークに備わるコントローラーは、直感的に操作できるようにF1マシンのレイアウトを踏襲。スイッチ、ダイヤルを操作したときのフィードバックが人間の感性に合うように、テストドライバーによる評価を繰り返してセッティングしたという。

ステアリングホイールの奥に位置するメーターパネル(ピナクル)は、ステアリングホイールとともに動くことで、視認性を高めている。グラフィックに関しては、こちらも1950〜60年代のメーターを意識しているとのことで、腕時計のように一瞬で情報を読み取れるようにクリーンなレイアウトを採用している。
LoveFromというのは総合的なクリエイティブ集団で、プロダクトデザイナーだけでなく書体デザイナーやグラフィックデザイナーも在籍しているとのことで、彼らの知見も寄与していると推察する。

空調などの操作系に関しては、ヒストリックカーや飛行機から着想を得ており、物理的なスイッチを残しているのが大きな特徴。結果として見た目は古典的な雰囲気になっているけれど、これはクルマ乗りとしては大いに納得できる。
一時期、すべてのインターフェイスをタッチスクリーンに集約することが流行ったけれど、実際に使ってみると、運転中は直感で操作できるフィジカルなスイッチのほうがはるかに使いやすいからだ。マーク・ニューソンはクルマ好きとしても知られているから、クルマとスマホでは求められるインターフェイスが異なることを承知しているのだろう。
そういえば、初代iPodのクリックホイールや、初代Apple Watchのベルト着脱ボタンなど、ジョニー・アイブが手がけたアップル製品は直接触れたときのクリック感やフィーリング、いわゆるタンジブル・インターフェイスを大事にしていた。すべてをタッチスクリーンに収めるのではなく、繊細な手ざわりを楽しむという体験が、新しいラグジュアリーなのかもしれない。
新しいけれど、どこか懐かしい。フェラーリ・ルーチェのインテリアにそんな感想を抱きながら、とあるコンセプトカーが思い出された。1999年にマーク・ニューソンがフォードの依頼でデザインした021Cで、ウェッジシェイプやUFOのようにぶっ飛んだ形のコンセプトカーが並ぶ東京モーターショーの会場で、異彩を放っていた。
タンジブルであること、そして歴史を大事にしながら新しい造形に挑むこと。じっくり観察すると、ジョニー・アイブとマーク・ニューソンらしいデザインに思えてきた。
実車の公開は2026年5月。イタリアの会場でお披露目される予定だという。

問い合わせ
フェラーリ・ジャパン https://www.ferrari.com/ja-JP/auto/ferrari-luce
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。




