「100年に一度の大転換期」と言われるいま、どんなクルマが売れたのか。少し早いけれど、この1年の販売台数を振り返ってみた。

コンパクトSUVの根強い人気
【乗用車販売台数ランキング(2025年1月〜10月)】
1位 トヨタ・ヤリス(14万375台)
2位 トヨタ・カローラ(13万1377台)
3位 トヨタ・シエンタ(8万7616台)
4位 トヨタ・ライズ(8万2182台)
5位 トヨタ・ルーミー(7万8799台)
6位 ホンダ・フリード(7万6607台)
※一般社団法人 日本自動車販売協会連合「乗用車ブランド通称別順位」より
【軽四輪車販売台数ランキング(2025年1月〜10月)】
1位 ホンダN-BOX(16万9586台)
2位 スズキ・スペーシア(14万1288台)
3位 ダイハツ・タント(10万5802台)
4位 ダイハツ・ムーブ(10万2531台)
5位 スズキ・ハスラー(7万5141台)
6位 スズキ・ワゴンR(6万1955台)
※一般社団法人 全国軽自動車販売協会連合会」軽四輪車 通称名別 新車販売確報」より
師走の声を聞くと一年を振り返りたくなるのが人間の性。というわけで、10月末までの販売台数を集計した暫定の順位であるけれど、2025年に売れたクルマをまとめてみた。
乗用車のランキングを見て気づくのは、2024年はトップだったカローラが2位に後退していることだ。ただし理由ははっきりしていて、2025年5月にカローラ・シリーズのマイナーチェンジが行われている。改良版の登場を前に、買い控えと売り控えの両方があったと思われる。
今回のマイナーチェンジで日本仕様のカローラは全モデルがハイブリッド化されたほか、デザインは精悍さを増し、内装の質感が高まり、乗り心地も大きく進歩した。一般的なマイナーチェンジよりかなり大がかりな変更が施されており、世界的に見ても屋台骨を支えるモデルだけにトヨタも気合が入っていると感じた。2026年にカローラが首位に返り咲いても、まったく不思議はない。

ちなみに、トヨタ・ヤリスは2020年に発表されているから、まもなく6年が経過する。2026年にフルモデルチェンジをするという予想もあり、仮にそれが事実だったらカローラ対ヤリスの兄弟対決はどうなるのか。2026年のランキングを注視したい。
ちなみにカローラとヤリスの販売台数は、ハッチバックモデルだけでなく、ステーションワゴンのツーリングやSUVスタイルのクロスなど、シリーズ全体のトータル。両車とも半数以上はSUVスタイルのクロスが占めるから、4位のトヨタ・ライズとあわせて、コンパクトSUVの人気が根強いことがうかがえる。

健闘が光るのは、ホンダ・フリード。5ナンバーサイズの3列シートのミニバンというジャンルで、ライバルのトヨタ・シエンタに肉薄している。ホンダらしい機能的ですっきりとしたデザインと、シートアレンジメントなど細部まで使い勝手のよさを作り込んだことが好評の理由だろう。3代目となる現行フリードは2024年の日本カー・オブ・ザ・イヤーに輝いており、ジャーナリストからの評価も高い。


気になるのは日産で、2024年は通年で4位だった日産ノートがトップ5から転落、暫定で8位になっている。また、2024年は7位にランクされた日産セレナが、10月の時点ではトップ10から外れている。
経営不振の日産の肩を持つわけではないけれど、日産車は乗るとよくできている。電気自動車やハンズオフ(手放し運転)機能を世界にさきがけて実用化したことからもわかるように、技術力は高い。2026年にノートがフルモデルチェンジ、セレナはビッグマイナーチェンジを受けるという噂もあり、どのように巻き返しを図るのか、期待したい。
参考までに、軽自動車の売れ筋も紹介したい。といっても、“王者” ホンダN-BOXの強さは盤石で、そのほかのモデルも背が高くて広々とした室内スペースを特徴とする「軽ハイトワゴン」と呼ばれるジャンルのモデルが並ぶ。

例外がSUVテイストのスズキ・ハスラーで、デビューから5年以上を経ても根強い人気を保っている。

いつもと変わらないランキングではあるけれど
といったように、コンパクトSUVとスペースユーティリティの高いミニバンが売れている、という近年の流れに大きな変化はなかった。一時期はBEV(バッテリー式電気自動車)への全面的な移行を表明した欧米のメーカーも、多くがその計画を後ろ倒しにしていることからも、クルマ業界はあまり変わらないな、という印象をお持ちになる方もいらっしゃるかもしれない。
いっぽうで、波風の立っていない平穏な水面下で、電動化や自動運転の熾烈な開発競争が繰り広げられていることも事実。「黒船が来る!」と騒ぐつもりはないけれど、まもなく日本に導入されるBYDのプラグインハイブリッド車、シーライオン6はかなり完成度が高い。「ハイブリッドは日本に任せなさい」とのんきに構えていられない。
また、グーグル系のWaymoが、タクシーアプリのGOと日本交通とともに東京で自動運転タクシーの試験走行を行うことや、セブン-イレブンが自動運転トラックの実証実験を実施することなど、自動運転に関する具体的な動きが日々報道されている。
携帯電話があっという間に姿を消してスマホに取って代わられたように、少しでも山が動いたら雪崩式に電動化や自動運転に進む可能性がある。
というわけで、2025年の販売台数ランキングは例年と代わり映えのしない見慣れた並びであるけれど、もしかするとこれは嵐の前の静けさかもしれない、とも思うのである。
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。



