プラグインハイブリッドシステムを備えたランボルギーニ・テメラリオを試乗。4ℓのV8エンジンと3基のモーターの組み合わせは、いかなるパフォーマンスを見せたのか?

ドライバーというよりパイロットの気分
以前に本連載で概要を紹介したランボルギーニの新型スーパースポーツ、テメラリオの試乗会が開催された。そのインプレッションをお伝えしたい。
テストドライブの会場となったのは、千葉県・南房総のプライベートサーキット、THE MAGARIGAWA CLUB。瀟洒な設えのエントランスに、空気を切り裂きそうなフォルムにビビッドなカラーをまとったテメラリオがずらりと並ぶ光景が壮観だ。

ドアを開けて乗り込んでの印象は、以下のふたつ。
まず、「Feel like a pilot」というランボルギーニの内装デザインに対するスタンスが、さらに強調されていることだ。低い位置のシートに座り、レーシングマシンを思わせる形状のステアリングホイールを握り、メーターパネルや液晶スクリーンに表示される各種情報をチェックしていると、航空機のコクピットに収まっているという感覚になる。否が応でもヤル気が高まる。
もうひとつ、先代モデルにあたるウラカンよりも空間に余裕があることにも気づく。事実、頭上空間は34mm、レッグルームは46mm拡大し、身長2mのドライバーがヘルメットを着用してドライブしても余裕があるという。
タイトに囲まれているというフィーリングとゆとりある空間の両立という難しい仕事を、デザイナーは見事にやり遂げている。

今回の試乗会は、助手席に熟練のレーシングドライバーがインストラクターとして乗り込み、その指示に従いながらパフォーマンスを発揮させるという方法で行われた。なにせ、4ℓのV型8気筒エンジンだけで最高出力は800ps、フロントの2基とリアの1基のモーターを加えたシステム全体の最高出力は920psに達する。この怪物が持つ能力を初見で発揮させるには経験者のアドバイスが不可欠ということで、このような方式に至ったのだろう。
「Citta(チッタ)」「Strada(ストラーダ)」「Sport(スポルト)」「Corsa(コルサ)」という走行モードから、「Corsa(コルサ)」を選んでコースイン。まずは慣熟走行で、コースとマシンに慣れる。

モーターが魔法のコーナリングを実現した
お恥ずかしい話、THE MAGARIGAWA CLUBのコースは複雑で、これまでに何十周かしたけれど、覚えることができない。このテクニカルなコースを設計したのは、19のF1サーキットをデザインしたことで知られるティルケ・エンジニア&アーキテクツ。1周3.5kmのコースには250mという大きな高低差があり、大小さまざまな22のコーナーと2本のストレートを組み合わせて構成されている。
慣熟走行を終えて、ストレートでアクセルペダルを踏み込む。するとタコメーターの針は、あっという間に9000rpmを飛び越え、10000rpmに達した! 排気量4ℓのV型8気筒エンジンが、ここまでシャープに回転を上げるフィーリングだけでも感動モノなのに、このときの漲るパワー感と美爆音の共演には完璧にノックアウトされた。
スペックを見ると、エンジンの最高出力は9000〜9750rpmの領域で発生している。つまり3基のモーターを備えるハイブリッド車ではあるものの、エンジンをブン回す楽しみも一切犠牲にはしていないのだ。

2010年にレクサスLFAが登場したときに、開発陣はV10エンジンのサウンドを「天使の咆哮」と表現した。ランボルギーニ・テメラリオのエグゾーストノートは、天に昇るかのように甲高い音だったLFAとは異なり、下っ腹に響く迫力のある重低音が混じっていることが特徴的。さしずめ、悪魔の咆哮といったところだ。
スピードメーターは軽く200km/hを超えて、さらに勢いを増して速度が上昇する。すると、ものすごい勢いで800mにおよぶストレートの終わりが近づいてくる。ここでフルブレーキングしたときに、まるで地面に吸い付くように安定した姿勢で速度を殺していく減速フィールも圧巻だ。ブレーキが利いているというよりも、重力が増しているかのような錯覚を覚えるほどのブレーキのパフォーマンスだ。

前述したようにコースの覚えが悪いため、とある急勾配の登りのコーナーで減速のタイミングを見誤り、ややオーバースピード気味に飛び込んでしまった。けれどもテメラリオは、涼しい顔でクルッと曲がってみせた。
魔法のようなコーナリングの秘密は、左右の前輪に組み込まれた2基のモーターにある。外側のタイヤにブレーキをかけるなど、左右のトルクを調整することで、クイックなコーナリングを実現しているのだ。
しかも、コンピュータが制御したというイヤらしさは一切見せずに、あくまで「あなたのテクの手柄です」と、ドライバーをいい気持ちにさせてくれる。
そして規定の周回数を終え、ピットに戻るときに走行モードを「Citta(チッタ)」に切り替えると、つい数十秒前まで荒ぶっていたテメラリオが、今度は無音・無振動の電気自動車となって静々と帰還した。この落差に驚くと同時に、これなら深夜や早朝の住宅街でも問題なく使えるだろうと感心する。

テメラリオのデザインや音、そしてパフォーマンスには、異次元という表現がふさわしいモンスターだ。ただし本当にすごいところは、モンスターを手懐けている、自分の手のひらで遊ばせているという感覚をドライバーに味わわせてくれるところだ。本当はドライバーが手のひらで踊らされているのかもしれないけれど、ステアリングホイールを握っていると、自分の能力によって怪物を飼いならしているという実感を得ることができる。
知性のあるモンスター、やさしい悪魔というのが、ランボルギーニ・テメラリオのファーストインプレッションだった。今回のようにクローズドコースで持てる力を存分に発揮させるのはもちろん、ツーリングなどの日常使いでも心身に刺激を入れてくれそうな完成度の高さが印象に残った。

全長×全幅×全高:4706×1996×1201mm
パワートレイン:4ℓV型8気筒ツインターボ+モーター
トランスミッション:8段DCT
駆動方式:フルタイム4輪駆動
システム最高出力:920ps
システム最大トルク:730Nm
価格:非公開
問い合わせ
ランボルギーニ カスタマーサービス TEL:0120-988-889
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

