CAR

2025.10.28

帰って来たホンダ「プレリュード」、売上の出足絶好調の理由

2025年9月に発表されたホンダの新型プレリュードの売れ行きが好調だという。ヒットの理由を考察するのと同時に、このクルマが1980年代のアイコンとなった歴史を振り返った。

ホンダの新型プレリュード

主な購入層は50代、60代

24年振りに復活したホンダ・プレリュードが売れている。2025年10月7日付の『「PRELUDE」受注状況について』というホンダのプレスリリースによると、300台/月の予定だった販売台数計画に対して、発表からの1カ月で約2400台を受注したという。予定の約8倍という、好調なスタートだ。

リリース発表時点では、一部の販売店では受注停止の措置が取られるほど受注が殺到、販売初年度の限定モデルであるプレリュード ホンダONリミテッドエディションの販売も終了した。ホンダによれば今後は増産に努めるとのことで、真っ先に飛びついた方々にひととおり行き渡れば、欲しくても買えないという状況は解消されると予想する。

もともとの開発コンセプトはプレリュードを復活させるというものではなく、電動車両の時代にふさわしいハイブリッドのスポーツカーを作ることへのチャレンジだったという。開発がある程度進んだところで、プレリュードという名称の復活が決まった。

気になるのはだれが買っているのかという点であるけれど、ホンダによれば50代、60代の顧客がメインだという。これには50代の筆者も納得で、「プレリュード復活!」の見出しには、「奥田民生と吉川晃司の新ユニット発進!」というニュースと同じくらいのインパクトと期待感があった。

ホンダは、新型プレリュードの受注好調の理由を次のように分析している。

まず、ワイド&ローのダイナミックで伸びやかなデザインが受け入れられたこと。次に、ホンダ自慢のハイブリッドシステムに新たな制御技術が加わることで実現した、ダイレクトな走行フィールが評価されたこと。そして、“世界最速のFF車”の座を争うホンダ・シビック・タイプR譲りの脚まわりがもたらすハンドリング性能も、クルマ好きを惹きつけた。さらに、ゴルフバッグを搭載できる実用性の高さが加わったことも“勝因”にあげている。

ホンダの新型プレリュード
パワーユニットは、2ℓ直列4気筒エンジンと 2モーター内蔵のCVTを組み合わせたホンダ独自のハイブリッドシステム。CVTとは無断変速機のことであるけれど、変速機があるかのようにダイレクトなレスポンスとキレのよい変速感をもたらす「ホンダS+シフト」によって、小気味よいドライブフィールを実現した。
ホンダの新型プレリュード
9.5型のゴルフバッグであれば2個収納できるラゲッジスペース。2名乗車と割り切れば、洒落た外観から想像するよりもはるかに荷室は広い。

プレリュードが売れているというニュースに対して、なんだ、オッサン、オバハンが昔を懐かしがっているのか、と思われた方もいるかもしれない。それは間違いないところであるけれど、別の感慨も抱く。

昭和の高度成長期、「若者がスポーツカーを乗り回す」という表現がしばしば使われた。日本では、「スポーツカー=若い人が乗るもの」というイメージだったのだ。ところがモータリゼーションがいち早く根付いた欧米では、スポーツカーは生活に余裕が生まれた大人が楽しむものだという側面もあった。

というわけで、50代、60代がプレリュードを購入しているという事実は、日本のクルマ文化が成熟した証であるようにも思える。子育てが終わり、自分の趣味に時間を充てられるようになった世代がスポーツカーを楽しむ光景は悪くない。

ホンダの新型プレリュード
デザインや走行フィールは、大空を滑空するグライダーからインスピレーションを得たという。内装も、青い空と白い雲を連想させる「ブルー×ホワイト」がメインカラーとなっている。
ホンダの新型プレリュード

実用車から遊び車の移行期に生まれた寵児

では、50代、60代の心をときめかせるプレリュードというクルマがどんなものだったのか、振り返ってみたいと思う。

初代プレリュードが登場したのは、1978年。当時のプレスリリースによると、シビックやアコードといった実用的なモデルを作ってきたホンダが、「もう一つの主張あるクルマ」を新たに提案するとある。

こうして、実用性よりも格好よさやファン・トゥ・ドライブを重視したホンダ初のパーソナルクーペ、初代プレリュードが誕生する。

初代プレリュードは、サスペンションからブレーキ、ホイールに至るまで新設計した贅沢なモデルだった。この事実は、日本の自動車産業が安くて壊れないクルマづくりから、高付加価値のクルマづくりへシフトするタイミングであったことを示している。ちなみに、初代プレリュードは「日本車最高のハンドリング」と、海外でも高く評価された。

1978年から1982年まで生産された初代プレリュード。
1978年から1982年まで生産された初代プレリュード。1981年時点では、122万5000円から154万4000円という価格帯だった。

そして1982年、一世を風靡した2代目プレリュードがデビューする。このクルマの重要なポイントは、フロントサスペンションだった。通常、クルマのサスペンションは快適な乗り心地と安定性を追求する。けれども2代目プレリュードのフロントサスペンションは、なるべくボンネットを低くするというタスクも負った。

結果、エンジンをドライバーの背後に積むミドシップ車のようにボンネットは低くなり、格納式のリトラクタブルヘッドライトとあわせて、コンパクトなサイズのスーパーカーといったスタイリングで颯爽と登場したのだ。

2代目プレリュードは、1987年にフルモデルチェンジを受けるまでに約60万台が販売されるヒット作となり、“デートカー”という新しいジャンルを築いた。バブル前夜の浮ついた世相を反映したクルマともいえるし、実用一点張りだった自動車がライフスタイルを表現するツールに切り替わるタイミングのクルマだったともいえる。

一大ブームを巻き起こした2代目プレリュード。1982年から1987年まで生産された。1983年の時点では、136万円から179万3000円という価格設定だった。
一大ブームを巻き起こした2代目プレリュード。1982年から1987年まで生産された。1983年の時点では、136万円から179万3000円という価格設定だった。

1990年代に入り、バブル経済崩壊以降はRVブームとミニバンの隆盛に押されて、2ドアクーペのプレリュードの存在感は次第に薄くなる。そして5代目が生産終了となった2001年を最後に、プレリュードの名前はカタログから消えた。

そして24年の時を経て、プレリュードが復活した。一度、ミニバンの広さやSUVの機能を経験すると、カッコよくてよく走るけれど狭くて不便な2ドアクーペに食指が動くことは少ないかもしれない。けれどもマッシブで強い顔のクルマが増えたいま、シュッとしたプレリュードが走るようになると、街の景色が少しエレガントになるように感じる。

ノスタルジーとは別の意味でも、プレリュードの復活はうれしい。

ホンダの新型プレリュード
ホンダ・プレリュード
全長×全幅×全高:4520×1880×1355mm
エンジン:2ℓ直列4気筒DOHC直噴
駆動方式:前輪駆動
エンジン最高出力:141ps/6000rpm
エンジン最大トルク:182Nm/4500rpm
モーター最高出力:184ps/5000〜6000rpm
モーター最大トルク:315Nm/0〜2000rpm
価格:¥6,179,800〜(税込)

問い合わせ
Hondaお客様相談センター TEL:0120-112010

サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

TEXT=サトータケシ

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