嗜好性の高いものだからこそ、“自分だけの1本”を探すことだって、悦びにつながるだろう。【特集 時計をつける悦び】

とはいえやっぱり、被らないことこそ悦びである
2025年は多くの時計ブランドがアニバーサリーを迎えた。数百年という歴史を刻んできた老舗時計ブランドたちは、それだけ長く支持され、世界中にファンがいることになる。しかし、それでは個性がなくて面白くないと思う人もいるだろう。
では、周囲の人たちと被らない、自分だけの“推しブランド”をつくるにはどうすればよいのだろうか? 実は2000年前後から、小規模生産のインディペンデントブランドが増えてきた。それは工作機器の性能向上やパーツサプライヤーの充実も一因だが、何よりも時計市場が成熟化し、新しい感性から生まれる時計を手にしたいという目の肥えた時計愛好家が増えたことが後押ししている。こういった知られざるブランドであれば、“人とは被らない悦び”を得ることができるだろう。
しかし新進気鋭の時計ブランドは、老舗のように評価が固まっていない玉石混交の状態なので、良質な時計をつくっているかどうかをしっかり見極める必要はある。かなりの愛好家でなければ、そのよし悪しを判断するのは難しいし、生産本数が少ないため店頭に置かれていても極少数だ。購入者が少ないのだから、インターネット上の口コミも少ない。そこで重要になるのが、「時計のつくり手」である。機械式時計は必ず人の手から生まれる。であれば、どういった人物が時計に関わっているのかは、そのブランドやつくられる時計の価値を見極めるうえで、大切な視点となるのだ。
「グルーベル・フォルセイ」は、ロベール・グルーベルとステファン・フォルセイによって2004年に創業した。先進的な技術開発で知られる工房、ルノー・エ・パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)で研鑽を積んだ彼らが作る時計は、先進的なメカニズムを搭載し、大胆なデザインの芸術的な美しさが魅力だ。
「ローラン・フェリエ」は、パテック フィリップに40年近く勤めた時計師のローラン・フェリエとロジェ・デュブイで経験を積んだ息子が2009年に立ち上げたブランドで、ムーブメントはクラシカルで、外装デザインはモダンという美しい調和が特徴となる。
「ウルベルク」は三代続く時計師の家系に生まれ、複雑機構を得意とする独立時計師フェリックス・バウムガルトナーと、絵画や彫刻、映像制作に至るまで、あらゆるジャンルで才能を発揮するデザイナーのマーティン・フレイによって、1997年に創業。サテライト機構などをはじめとした独創的なメカニズムと先進的なデザインを融合させた唯一無二の時計を生みだしてきた。
そのブランドも、いわゆる“時計の伝統”という枠には収まらずに、自由に創造性を発揮しているのが魅力だ。
歴史ある名門時計ブランドの場合も、創業者の思いを継承するためにさまざまな努力をしているが、現在の姿が正しいかどうかを本人に確認するはない。しかしこの3つのブランドは、時計自体の品質もさることながらバックボーンが確かなつくり手の顔が見える。そのため、“自分が推すブランド”であるという思いを強く持ちやすい。
小規模なインディペンデントブランドの時計を選ぶということは、そのブランドの哲学を愛し、つくり手を愛するということ。ブランド知名度は低くとも応援したくなる点では、一種のパトロン行為なのかもしれない。
しかも「人と被ること」はないし、その価値に気がついてもらえないという周囲の反応が、自己満足度を高めてくれる。
万が一、同じ時計をつけている人がいたのなら、同じ審美眼を持っているという証明にもなるので、むしろよき友になれるかもしれない。それもまた楽しいことだ。
1.グルーベル・フォルセイ|GMTバランシエール コンヴェクス
ダイヤルに埋めこまれた地球儀が24時間で回転し、世界の時間を感覚的に把握する「球体ユニバーサルタイム」を搭載。大型のテンプを30度傾けてセットし、重力の影響を減らすことで、高精度に。世界限定22本。

2.ローラン・フェリエ|スポーツ・オート ブルー
時計師のキャリアを中断し、カーレーサーとしてルマン24時間などに参戦していたという異色の経歴を持つローラン。そのレースマインドを反映させたラグジュアリースポーツウォッチは、ブルーグラデーションのダイヤルも美しい。

3.ウルベルク|UR-10 スペースメーター
数々の特殊機構をつくってきたウルベルクが、何とブランド初(!)の時分針式ウォッチを製作。3つのインジケーターは、地球の自転、地球の公転、そしてその両方を同軸で表現しており、宇宙のロマンを語っている。世界限定127本。

4.G-SHOCK|MRG-B2100B
初代G-SHOCKの8角形ベゼルをアップデートした新世代マスターピースの「2100」は、アナログ針と組み合わせることで、時計らしいデザインを強めた。ダイヤルは日本伝統の木組をイメージしたデザインで、高級感を引きだした。

5.ルイ モネ|メモリス・スピリット
18世紀から19世紀初期に活躍した時計師ルイ・モネの哲学を継承し、美しい時計を製作。このモデルは時刻表示を6時位置に収め、クロノグラフ機構を美しく見せる。クロノグラフの考案者である彼の精神を表現する。

6.レゼルボワール|オリーブ・オイル
「ポパイ」の人気キャラクター、「オリーブ・オイル」をダイヤルに描いた。伸ばした右腕がレトログラード式の分針となり、60分かけて扇形に運針。6時位置の表示がジャンピングアワー、パワーゲージにはハイハイする「スウィーピー」の姿も。世界限定300本。

7.カンパノラ|コスモサイン
日本が位置する北緯35度の位置から見える4.8等星以上の恒星を、精密に描いた天文時計。さらに星雲や星団も166個表示。月の位置も表示しており、まさに宇宙の神秘がこの時計に詰めこまれており、時計を眺める瞬間が特別に。世界限定250本。

8.ジェイコブ&コー|ブガッティ トゥールビヨン
名車「ブガッティ トゥールビヨン」と同名のモデルで、V16エンジンブロックを模したからくり仕かけ(オートマトン)は、実際にエンジンと同様に動く。時刻表示もメーターをイメージしたデザインとなり、時計を超えた存在となった。世界限定150本。

9.HYT|S1 ビーズブラスト チタンレッド
時計の中にふいごを収め、ゼンマイ仕かけの機構で液体を送りだすという前代未聞の機構を搭載。細い管の中で液体は移動し、紅白の液体の境目が時針の役目をする。時計中央の針は分針。高度なエンジニアリングと創造的な遊び心が融合した時計だ。

この記事はGOETHE 2026年1月号「特集:つける悦びを知るLUXURY WATCH」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら














