TRAVEL

2026.01.29

“いつもの韓国”に少し疲れたら。旅慣れた人が選ぶ、世界遺産の町・安東で過ごす大人の休日

韓国旅行と聞いて、多くの人が思い浮かべるのはソウルだろう。近代的な街並み、洗練されたレストラン、最先端のカルチャー。便利で刺激的な一方で、気づけば予定に追われ、旅なのに少し疲れてしまう――そんな経験がある人も多いはずだ。今回訪れた安東(アンドン)は、その対極にある町だった。ソウルが東京だとすれば、安東は金沢や奈良。派手さはないが、歴史を感じられ、文化が日常の延長線上に静かに息づいている。世界遺産、韓屋、素朴な食。「何かを見に行く」より、「ただそこにいる」ことがしっくりくる町。情報と刺激から一歩距離を置きたい大人にこそ、ちょうどいい韓国がここにあった。

“いつもの韓国”に少し疲れたら。旅慣れた人が選ぶ、世界遺産の町・安東で過ごす大人の休日

世界遺産が“日常”にある町

今回訪れた安東(アンドン)は、韓国中東部に位置する地方都市。韓国の伝統文化が色濃く残る一方で、ソウルから電車やバスで約2時間半とアクセスも悪くない。週末を使った1泊2日の旅先としても、ちょうどいい距離感だ。

派手な観光地ではないが、ユネスコ世界遺産の河回(ハフェ)村をはじめ、文化と日常生活が地続きで残る町並みは、短い滞在でもしっかりと記憶に残る。

河回村という名は、韓国最長の河川・洛東江(ナクトンガン/全長約525km)が、集落を抱くようにS字型に流れていることに由来する。その地形は、村を見下ろす高台・芙蓉台(プヨンデ)に立つと一目でわかる。

高台の芙蓉台(プヨンデ)から望む河回(ハフェ)村
高台の芙蓉台(プヨンデ)から望む河回(ハフェ)村。洛東江(ナクトンガン)が村を包み込むようにS字型に流れ、その地形が村名の由来となっている。

瓦屋根の韓屋が並び、川と山に囲まれた集落に流れるのは、風や鳥の声といった最小限の音だけ。情報にあふれた日常から一歩引いたとき、こうした環境が思いのほか心地よい。

河回(ハフェ)村の猫
無防備にお腹を出して眠る猫。そんな姿に、この場所の穏やかさがにじむ。

韓屋ステイという異文化体験

安東滞在の一番の目的は「Rakkojae Hahoe Hanok Hotel Giwa」での韓屋ステイ。

韓屋(ハノク)とは、木材や土、石などの自然素材を用いた韓国の伝統建築。床下に熱を通すオンドル(床暖房)や、内と外をゆるやかにつなぐマル(板の間)など、自然と共存するための工夫が随所に見られる。

冬にはマイナス10度近くまで冷え込むこともあるが、ハノクの室内に一歩足を踏み入れると、その印象は一変する。オンドルによって床はあたたかく、素足で木の板を踏み締めたり、そのまま寝転んだりする時間が、妙に懐かしさを感じさせる。

楽古斎 安東河回村/Rakkojae Hahoe Hanok Hotel/池に浮かぶように佇む「パビリオン ルーム」
池に浮かぶように佇む「パビリオン ルーム」。

この宿の特徴は、客室がそれぞれ一棟ずつ独立し、適度な距離を保って配置されていること。敷地全体を俯瞰すると、宿泊施設というより、ひとつの小さな村のようにも見えてくる。

夜になるとまた違った雰囲気に。

「Rakkojae Hahoe Hanok Hotel Giwa」は、かつて藁葺き屋根の家しかなかった土地に、15年の歳月をかけてゼロから築かれたもの。石垣、壁、建具に至るまで、すべて手作業で仕上げられ、機械は一切使われていないという。

とはいえ、ここは「不便も含めて楽しむタイプの宿」ではない。「Rakkojae Hahoe Hanok Hotel Giwa」が支持される理由は、伝統的な風情と現代的な快適性のバランスにある。

数百年前の建築様式を受け継ぐハノクに身を委ねながら、水回りはモダンに整えられ、檜の浴槽を備えた客室も。冷暖房も完備されており、滞在中に不便を感じることはない。

伝統に深く触れながら、快適さは手放さない。その“いいとこ取り”こそが、この宿を目的地にしている理由だ。

石垣のデザインは、オーナーであるアン会長が日本で目にした織田信長の城の石垣から着想を得たものだという。韓国の伝統建築のなかに、日本の戦国文化の美意識が静かに溶け込んでいる。その背景を知ると、空間の見え方も少し変わってくる。

今回泊まったジュニアスイートも、驚くほど居心地がよかった。豪華さを前面に出すのではなく、「静けさ」や「手触り」を大切にした空間。

さらに印象的だったのが、客室内にさりげなく置かれた古美術品の数々だ。13〜14世紀の古美術品が特別扱いされることなく、部屋のあちこちに自然に溶け込んでいる。

「破損の危険があって不安ではないのか」と尋ねると、「韓国古美術品の美しさを、もっと自由な形で訪問客と分かち合いたかった」とオーナーのアン会長。どの客室に泊まっても、韓国芸術の素朴で上品な美しさを体験できるようにしたかったのだという。

本場・韓国ならではのチムジルバンやよもぎ蒸しを体験できる。
客室ごとに個別バスルームはあるが、本場・韓国ならではのチムジルバンやよもぎ蒸しを体験できる。

滞在中は、スウェーデンをはじめとするヨーロッパからの旅行者の姿も目立った。話を聞くと、目的地選びにChatGPTを使い、安東にたどり着いたという。派手な観光地ではなく、文化の文脈が残る場所。世界を旅してきた層ほど、いま“静かな本物”を求めているのかもしれない。

辛くない韓国料理が教えてくれた、もうひとつの顔

安東の食もまた、韓国料理に対する固定観念をいい意味で裏切ってくる。名物の安東塩さば定食やチムタク(鶏肉の煮込み)は醤油ベースで滋味深く、辛さは控えめ。むしろ日本人が慣れ親しんだ味に近い。

夕食にいただいたのは、韓国最古の料理書に着想を得たコース料理。500年前のレシピを現代的にアップデートした料理は、安東の食文化を丁寧に味わえる内容だった。米と水、酵母だけでつくられたナチュラルマッコリが、静かな夜によく合う。

翌朝は、韓国式の朝食を選択。アワビ粥に、鯖の塩焼き、キムチをはじめとする数種のおかずが並ぶ韓定式(ハンジョンシク)だ。アワビの旨みがじんわりと広がる粥は、思わずおかわりしたくなるほど絶品だった。

楽古斎 安東河回村/Rakkojae Hahoe Hanok Hotel Giwa Main|朝食
韓国式の朝食。

西洋式を選べば、パンやコーヒー、卵料理、ベーコン、ヨーグルトなどが供される。好みに合わせて選べるのも嬉しい。

情報と刺激に疲れた大人にこそ、安東

芙蓉台から望む河回村の景色、儒学の精神が今も息づく屏山書院。安東の観光地は、いわゆる「映え」を競う場所ではない。写真を撮るより、立ち止まって眺めていたくなる――そんな場所が多い。

今回は仁川空港からソウルを経由し、バスで安東へ向かった。都市部から地方へと景色がゆっくり変わっていくこの移動時間も、意外と悪くない。次は釜山から安東に入るルートを選んでみてもいい。旅の動線が少し変わるだけで、印象も変わる。

宿探しにはBooking.comを利用した。予約を重ねるほどランクが上がり、Geniusという特典が増えていく。一度上がったランクが消えない仕組みは、旅の回数が多い人ほどありがたい。安東のように派手さはないけれど魅力のある土地でも、選択肢を見つけやすいのは心強かった。

世界遺産が特別な観光地ではなく、生活の延長線上にある町。情報と刺激から、ほんの少し距離を取りたいとき――安東は、ちょうどいい行き先だ

Rakkojae Hahoe Hanok Hotel Giwa /락고재 하회 한옥호텔 - 기와 본관
住所:186-20  Jeonseo-ro,  Pungcheon-myun,  Andong-si,  Gyeongsangbuk-do
TEL:010-8860-3410
料金:2名1泊₩330,000~
公式Instagram:@rakkojaeofficial
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※宿泊費は編集部調べ。1₩=0.11円(2025年1月24日現在)

TEXT=ゲーテ編集部

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