HEALTH

2025.12.16

0.3㎜の早期がんも発見する新技術。「痛くない乳がん検診」とは【堀江貴文】

カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第49回は「痛くない乳がん検診」。応用数学史上最大の未解決問題といわれていた「波動散乱の逆問題」を解き明かし、見えないものを可視化する物体内透視技術を構築。乳がん検診に革命をもたらす、“痛くないマンモグラフィ”とは。応用物理学者である神戸大学教授・IGS代表の木村建次郎氏に話を聞く。

堀江貴文連載第49回

数学の未解決問題を解き明かし、0.3㎜の早期がんも発見する新技術を開発

堀江貴文(以下堀江) 今回のゲストはNewsPicksでもご一緒した木村建次郎先生です。先生は応用数学史上最大の未解決問題といわれた「波動散乱の逆問題」を解き明かし、その解析解は幅広い分野で応用されています。

木村建次郎(以下木村) 堀江さんのYouTubeチャンネルでも公開していただきましたが、あのあと400件くらい問い合わせがありました。

堀江 すごい反響ですね。すでに実装化している機器もあり、例えば、リチウムイオン電池の電流状態を透視してエラーを検知したり、危険物探知などにも使われているとか。

木村 そうですね。危険物を探知する「ウォークスルー型セキュリティシステム」は、すでにコンサート会場や競技場などでテスト導入されています。

堀江 そもそも「波動散乱の逆問題」とは何か、を説明していただけますか?

木村 ざっくり言うと、“見えないモノをどうやって形にするか”という数式を解いたということです。例えば、音波、電磁波、光波などの「波」は物体に当たると更なる波として跳ね返り、それを繰り返します。これらの波(散乱データ)を基に、物体の形や内部構造、または性質を推定・復元するための方程式を解き明かしました。さらにこの数式を応用して、電波などの波動を物体に当て、波動の散乱から内部構造を画像化する技術を確立したのです。

堀江 まさに、物体を“透視”する技術ですね。これらが形になるまでにどれくらいの時間がかかったんですか?

木村 10年くらいです。

堀江 先生は医療分野にも応用し、新しいマンモグラフィを開発したんですよね。

木村 今の乳がん検診の主な検査法は、マンモグラフィ(乳房X線検査)とエコー(超音波検査)がありますが、マンモグラフィにはふたつの大きな課題があって、ひとつ目はがんの発見率が低いこと。X線は透過度を計算して画像化しています。透過度が低い影や物体(骨やがんなど)は白く写るのですが、乳腺が発達している「高濃度乳房(デンスブレスト)」も白く写るため、がんの発見が難しいという課題がありました。

堀江 アジア人女性の60歳以下では、約80%がデンスブレストといわれていますからね。それに、女性はみんな「痛い」って言いますね。

木村 まさに、ふたつ目は痛さの問題です。がんを見やすくするために、撮影時に乳房を挟んで圧力をかける必要があるのですが、ある女性医師が「男性に例えるなら、ペニスを挟んで1センチの厚さに潰すくらいの痛み」と話していました。

堀江 それは嫌だな……。

木村 他にも、X線マンモグラフィは放射線を使用しているため、微量ですが被ばくのリスクがある。妊娠または妊娠の可能性のある女性は、検査が受けられないのです。これらの問題をクリアすべく開発したのが、マイクロ波を使ったマンモグラフィです。マイクロ波の反射形からがんの位置や大きさを3Dで表示するため、デンスブレストでもクリアに見つけることができますし、プローブ(マイクロ波の送受信を行うセンサー)で乳房を撫でるだけだから、痛みもありません。

堀江 「ドゥイブス・サーチ(DWIBS法)」というMRIを使った“痛くない”乳がん検診もありますよね。これとの違いは何ですか?

木村 ドゥイブスは小さいがんを見つけるのが結構難しいのです。小さいがんとしては、例えば、乳管内進展がんがあります。乳がんは、まず母乳を運ぶ管(乳管)の中でがん細胞ができて、それが外に飛びだして塊を作ります。乳管の中にがん細胞が留まっている段階、つまり早期発見レベルでの検出はかなり難しいと思います。一方、私たちのマイクロ波マンモグラフィは、乳房内のがん組織にマイクロ波が強く反応するという性質を利用して、その反射を計測することで乳がんの有無を確認できるのです。今のところ臨床試験では、300μm(0.3㎜)のサイズまで見つけられることがわかっています。

堀江 もうひとつのエコー検査はいかがですか? 

木村 エコーは基本的に音で検知しますが、乳房は脂と同じ成分(脂肪組織)なので、音が伝わりにくいという問題があります。そのため深部のがんは見つけづらい。また、プローブの当て方や技師の技量によって診断結果にバラつきが出るため、がんが見落とされてしまうことも。その点、マイクロ波は脂肪でも問題なく伝わり、しかも、立体的に可視化することができる。がんの種類で言えば浸潤性乳管がん、乳頭腺管がん、硬がん、粘液がん、浸潤性小葉がんなどは検知できることがわかっています。

堀江 将来的に乳がん検診はマイクロ波マンモグラフィのみでもいいってことになりますか?

木村 最終的にはそうなればと思っています。病理検査もAI判定でやろうとしているのですが、いくつかハードルがあるのが現状ですね。

堀江 先日、先生の研究室で拝見した第一世代の完成は、いつ頃になりそうですか?

木村 今、治験の最終段階で、この後、厚生労働省へ申請を行いパスすれば、来年度には出せると思います。第二世代の開発も進めていますが、これは第一世代の普及が一段落ついた頃に出そうと思っています。

堀江 機械の価格についてはいかがですか?

木村 検査費用との兼ね合いですよね。(検査費用が)安すぎると病院は採算が取れなくなるし、高いと受診者が減ってしまう。やはり多くの方に検診を受けていただきたいので、病院が2年ほどで採算が取れるような価格設定を考えています。

堀江 次回は、心筋梗塞の予防技術や脳卒中の初期段階を瞬時に見抜く技術、「不死」の研究について聞かせてください。

木村建次郎氏

木村建次郎/Kenjiro Kimura
1978年岡山県生まれ。神戸大学数理・データサイエンスセンター教授、京都大学生存圏研究所学外連携フェロー兼特任教授。2012年、応用数学史上の未解決問題「波動散乱の逆問題」を世界で初めて解明。同年、その実用化を目指すベンチャーIntegral Geometry Science(IGS)を設立。2017年第1回日本医療研究開発大賞受賞。

堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。本連載をまとめた書籍『金を使うならカラダに使え。』ほか著書多数。

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COMPOSITION=長谷川真弓

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