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2024.10.06

“がんリスク0の世界”は実現する? 放射線治療や抗がん剤とは違う、新たながん治療とは

カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第35回は「がんリスク0の世界」。国が推進する「ムーンショット研究」で「がん細胞の正常化」というテーマに取り組む理化学研究所 生命医科学研究センター副センター長の古関明彦先生に最先端の研究をきいた。

堀江氏連載35回タイトル

放射線治療や抗がん剤とは違う、細胞間ネットワークに着目した新たながん治療の可能性

堀江貴文(以下堀江) 政府が推進する研究開発制度「ムーンショット」は「困難だが実現すれば大きなインパクトが期待される社会課題等を対象とし、人々を魅了する野心的な目標及び構想」を国が策定しているものです。理化学研究所の古関明彦先生は「がん細胞の正常化」というテーマを主導するプロジェクトマネージャーです。それによって「がんリスク0」が可能というのはどんな理論なんですか?

古関明彦(以下古関) 現在のがん治療の基本的な考え方は「がん細胞そのものがターゲット」で、手術や抗がん剤でアタックするのが主流です。しかし、2018年に京都大学の本庶佑(ほんじょたすく)先生が「体内で外敵と戦う免疫の仕組みを利用する、新しいがんの治療法を発見した」ことを理由に、ノーベル賞を受賞されました。免疫細胞を活性化させる条件さえ見つければ、免疫細胞ががんをなくせる、ということを明確に証明したわけです。

堀江 そうでしたね。

古関 がん細胞の集まりである悪性腫瘍は、血液の供給をしている血管やマクロファージなどの免疫細胞、線維芽細胞など、さまざまな組織で形成されています。これらがみんな、がんをサポートするような性質になっているんです。免疫に着目した本庶先生の研究もあって、僕らは「がんをサポートするような細胞をひとつずつ、サポートしないように変えられないか。免疫細胞の利用で今までとは違う、がんの環境を含めたマイルドな治療ができないか」という考え方でアプローチをしています。

堀江 それはどんな方法で?

古関 我々が最初に着目したのは強い抗腫瘍活性(こうしゅようかっせい)を持つナチュラルキラーT細胞、つまりNKT細胞です。この細胞を増やし身体に入れれば、がん治療ができそうだと思い研究しています。

堀江 体内を自由に動いて働くリンパ球にNK細胞がありますが、NKT細胞との違いは?

古関 名前に「T」がついていますよね? ウイルス感染細胞やがん細胞を排除する、殺傷力の高いキラーT細胞の仲間なんです。NKT細胞は、がんに対する免疫反応に重要な役割を果たすガンマインターフェロンを大量に出す細胞でもあります。

堀江 おぉ、それは攻撃力が高そうですね。

古関 肝臓にがんが転移した状態の動物実験では、NKT細胞を活性化して投与すると、1週間後には治ったという例があります。それでNKT細胞の体内への補充は治療効果のために重要だろうと判断して、再生医療の細胞初期化メカニズム「リプログラミング」を応用しました。NKT細胞をその前段階であるiPS細胞に戻して、再度分化させてNKT細胞を作ることに成功したのです。それを繰り返してNKT細胞を増やし、体内に注入します。

堀江 NKT細胞を培養するのではなく、一旦iPS細胞に戻さないとダメなんですか?

古関 はい。NKT細胞そのものはなかなか増やせませんし、治療に使うにはNKT細胞が大量に必要だからです。

堀江 抗腫瘍活性を持つ「NKT細胞」を「リプログラミング」の応用で作るというのが研究のキーですね。リプログラミングって、細胞を「素」の状態に戻すことではないんですか。

古関 リプログラミングは強弱をつけて行うことができます。その違いで何が起きるかもグループで研究、実験をしています。例えば、弱いリプログラミングを行うと筋肉の損傷が早く修復されることが報告されています。身体の修復力は老化とともに低下するので、この結果を確認した研究者たちは「これは、細胞が若返ったということなのでは?」という印象を持ちました。老化した細胞を、リプログラミングによって若返らせることができるんじゃないかと。

堀江 リプログラミングで細胞の若返りも期待できるんですね。

古関 「がん細胞の正常化」のキーワードに、もうひとつ「SASP(サスプ)」があります。SASPは日本語だと「細胞老化随伴分泌現象」と言いますが、老化した細胞が出すのがSASP因子。その実態は、細胞同士の情報伝達に働く「サイトカイン」で、炎症の重要な調整因子であるIL-6とかIL1β、TNFαなどです。がんそのものを進行させるだけでなく、慢性炎症を引き起こすことで、周りの細胞をがんをサポートする性質に変えてしまうこともわかりました。一方でSASPには組織恒常性を維持、つまり正常な状態を維持するというよい側面もあるんです。

堀江 つまり、よくも悪くも周りを均質化しようとする?

古関 そうです。細胞間ネットワークに関わっているのでしょう。SASPの悪い面は、老化した細胞の周りの若い細胞まで均質に老化させようとすること。細胞の老化は機能低下や発がんにつながります。一方SASPにはよい面もあって、活用できれば周りの細胞を若くすることもできる。このSASPのよし悪しは何に起因しているのかわかってはいませんが、100種類くらい存在するサイトカインの組み合わせによる、SASPの性質の違いかもしれません。

堀江 現在、人間への治験は?

古関 NKT細胞については、少しずつ進めていて、安全性はほぼ問題がなく、効果も一部の方で得られています。

堀江 NKT細胞の話を聞いて、すぐ治療や細胞の若返りに使えそうだと思いました。

古関 いやいや。お話しした内容は、ここ50年分くらいの研究成果をギュッと時空を圧縮したものと捉えてもらえれば。がん組織を維持している細胞間ネットワークを壊し正常な細胞の恒常性的なネットワークに戻すという研究は、がんの予防にも治療にもつながるので継続して頑張ります。まず、5年後くらいにちょっと進んだご報告ができれば。

治験は安全性第一なので時間がかかりますし、人間で試したら効果がないということもあります。なので、我々の研究が実装されるのは100年後とかになるかもしれません。

古関明彦/Haruhiko Koseki
1961年生まれ。理化学研究所 生命医科学研究センター 副センター長、免疫器官形成研究チーム チームリーダー。千葉大学大学院医学研究院 高次機能治療学研究講座 細胞分子医学教授。ムーンショットには2023年からプロジェクトマネージャーとして参加している。専門分野は発生生物学、免疫学、遺伝学、細胞生物学、医化学一般。

堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。著書も多数。本連載をまとめた書籍『金を使うならカラダに使え。』が好評発売中。

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