カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第38回は「性感染症」。近年、感染増加が問題になっている性感染症を「産官学」で予防すべく、堀江氏と日本感染症学会監事の四柳(よつやなぎ)宏氏、前参議院議員の音喜多駿氏が議論を交わす。2024年9月に開催された「YOBO万博」での鼎談を誌上公開する。
数十年も潜伏し繰り返し罹る梅毒の感染増加が止まらない。
堀江貴文(以下堀江) 性感染症を「大したことない、うつしても大丈夫でしょ」などと言って深刻に捉えず、症状を自覚しても検査に行かない若い人が増えているそうですが、感染者の増加は今も変わらず続いてるんでしょうか?
四柳 宏(以下四柳) 昨今、特に問題になっている梅毒ですと、2024年の新たな感染者は9月時点で9000人超です。2021年以降は増加が続いていて、2023年は報告されているだけで1万5000人ぐらい。梅毒は無症状の期間もあるため検査を受けない人も多く、実際の感染者は数倍とも言われています。
堀江 改めて、梅毒の原因と症状を教えてください。
四柳 原因となる細菌は、スピロヘータという菌の一種である梅毒トレポネーマ。長さが6〜20μmのらせん状菌です。感染者との粘膜の接触を伴う性行為や疑似性行為(オーラルセックス、アナルセックスなど)によって感染します。
菌は血管などに入りこんで、全身のさまざまなところに広がり、だいたい1ヵ月後に症状が現れます。性行為の際に接触した粘膜の変化に続いて、手のひらや足の裏、背中や太腿、腕などにポツポツと紅斑が出たり、発熱や倦怠感、リンパ節の腫れなどが出ます。やがて症状は消えますが治ったわけではなく、潜伏感染をしている状況です。
堀江 細菌は潜伏するんですね。症状は酷くなるんですか?
母子感染するリスクも認識せよ
四柳 怖いのは神経に入り込む「神経梅毒」で、頭の中に入って髄膜炎や脳梗塞などを引き起こすこともありますし、進行麻痺と言って、認知症のような症状が現れたり、痛みが出たり、身体を動かしにくくなるなど、さまざまな症状が出ます。
また、妊婦さんが感染すると胎盤を通じて赤ちゃんが感染し「先天梅毒」となる場合があります。出生時は無症状でも、数ヵ月以内に発疹やリンパ節の腫れ、骨軟骨炎、鼻閉など、さまざまな症状が現れます。
堀江 治療に使うのは抗生物質ですか?
四柳 神経梅毒には点滴が必要ですが、そうでなければペニシリンが非常によく効きます。ただし、梅毒は感染後に免疫ができるわけではないので、何度も繰り返し感染してしまうんです。
堀江 それはどうして?
四柳 我々が細菌検査や研究をする場合、シャーレの中に菌を撒いて増やすのですが、梅毒トレポネーマの場合は増殖しないんです。そのため研究がしにくく、いまだにわからないことが多いのですが、こうした特殊な菌なので、免疫がつきにくいのかもしれません。
また、人間の体内では、侵入した細菌を異物と認識して排除するため、その異物と結合するための分子、つまり抗体が作られますが、梅毒トレポネーマの抗体のほとんどが弱く、役に立たないことがわかっています。
堀江 だから何度も感染するのか。ややこしい病気ですね。音喜多さんも、感染防止について調べてるんですよね?
音喜多駿(以下音喜多) 私の事務所が新宿という、梅毒などの性感染症の増加地域にあり見聞きする機会も多いことから、検査で早期発見を進めるのが行政の課題だと考えています。保健所が行っている無料の検査に、都議会議員だった時に行政視察で行ったことがありますが、気軽に受けられる雰囲気ではなく、行きづらさは感じました。
堀江 保健所に行くこと自体がハードルになるんですよね。以前、予防医療普及協会で梅毒とHIVの性病検査キットをオンライン販売したんですが、AmazonでBANされてしまったことがあります。
音喜多 え、ダメなんですか?
堀江 アクセス禁止の理由は教えてくれないけど、クレームがあったのかも。性感染症の予防や検査は「性的接触を助長する」と考える人もいるから。
四柳 残念なことですね。梅毒の郵送検査はとても大事なソリューションです。保健所は無料検査をしていますが、実施日が保健所によって違うし、開いているのは基本的に平日の日中だけで、行きやすいとは言えないでしょう。
音喜多 予防できることはしたほうがいいし、解決できる性感染症もあります。「社会全体をプロテクトする」という視点で啓蒙や検査にお金をかけることで、社会として最適な状態になるのなら、政治がエビデンスを説明して進めていかなければいけないと思います。
四柳 そうですね。感染症にかかりやすい特定の層をプロテクトすることも、実は社会全体を守ることになります。性感染症はその典型ですから、感染の有無をきちんと調べる検査は大事です。検査を無料で受けられるようにするだけでも、性感染症は減らせると思います。
梅毒の感染が多い世代は、男性は20代から50代まで。女性は20代が1番多いという状況です。大学生のうちに性感染症についてきちんと啓発することも大切なことだと考えています。
堀江 性感染症予防のための啓蒙や教育で使うのは、僕は動画教材がいいと思っているんですよ。まじめすぎるのはみんな見ないから、面白くて眠くならないドラマ仕立ての動画。どうでしょう。作りますか!?
四柳 いいですね。今は情報がどんどんやって来るし、個人がそれぞれ情報を選んで、自分の都合のいいところだけを覚えて実体験に移してしまいますから。その結果としての“危うさ”が今顕在化していると感じます。今日はたまたま梅毒の話が主で、梅毒はペニシリンを投与すれば治りますけど、「HIVに感染しました」となると、一生薬を飲み続けないといけません。
また、淋病の原因になる淋菌は薬が効かない耐性菌も出てきています。性感染症はいろいろあるので、やっぱりきちんとした性教育をして、リスクのある性行為をどう避けるか、感染したらどうするのか、私たち専門家の側からもわかりやすく話すことが大事なことだと思います。
堀江 まだまだわからないこともありますが、動けば変わるし、啓蒙の工夫をすれば伝わりますからね。
堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。著書も多数。本連載をまとめた書籍『金を使うならカラダに使え。』が好評発売中。