HEALTH

2025.06.08

10年以内の実現なるか?「がん免疫療法」による低コスト治療&がん予防の可能性【堀江貴文】

カラダは究極の資本であり、投資先である。そう断言する堀江貴文氏が、最先端の医療と美容情報を惜しげもなく伝授する本連載。第43回は「がん予防の可能性」。前回がんの「免疫細胞療法」について語ってくれた慶應義塾大学医学部の籠谷勇紀教授に実際の治療コストや適応するがん、そして免疫療法によるがん予防の可能性について尋ねた。

堀江貴文連載「がん予防の可能性」

低コスト化を見込むがんの免疫細胞療法の新技術が、10年以内に実現する可能性も見えてきた

堀江貴文(以下堀江) 前回、先生のご専門の「免疫細胞療法」でがんが治せる時代に入ってきつつあることがわかりました。今回はがん予防の可能性についてもお聞きします。その前に、「がん細胞」ってバグってる異常細胞で、よく「1日に5000個できるけれどほとんどは免疫細胞の攻撃で死滅する」と言われますが、それでも増殖して“がん化”するのはなぜですか?

籠谷勇紀(以下籠谷) 例えばがん細胞は、分裂する過程で新たに遺伝子変異を起こした細胞が出てくるんです。そのなかには免疫の攻撃を受けにくい性質を持つがん細胞も出てきます。

堀江 免疫の攻撃をかいくぐるがん細胞が増殖していくということですね。そもそも、がん細胞の何が悪いんですか?

籠谷 無秩序な増殖を続ける性質があることですね。

堀江 がん細胞周囲の正常な細胞はどうなっていくんですか?

籠谷 増殖によって構造を壊されます。膵臓なら、膵管の構造が壊されてしまいますし、その際に細胞が生存を保つためのエネルギーも奪われてしまいます。

堀江 なるほど。そうしてがん化した状態を治療する免疫細胞療法について、振り返って説明すると、体外で培養した免疫細胞にがんを攻撃させる治療法で、がんの種類によっては保険適用の標準治療としてすでに使われているんですよね。

籠谷 そうです。免疫細胞は非常に多くの種類がありますが、リンパ球の一種であるT細胞の一部ががん細胞を直接攻撃できます。その性質を利用して、血液からがん細胞を攻撃できるT細胞を人工的に作って体外で培養し、これを薬として患者さんに注入する治療法です。

堀江 免疫細胞療法で使うのは、狙いたいがんの遺伝子の抗体(目印)を入れた、人工細胞のCAR-T(カーティ)細胞ですね。

籠谷 はい。体内に入ると自動的にがんを発見・攻撃します。がんが消えるとCAR-T細胞も減りますが、一部は生き残り監視を続ける特性があります。問題は治療費。患者さん自身から採血し培養するなど工程が多く、技術も時間も必要なため、1回の投与で3000万円以上かかるんです。2019年に一部の血液がんの治療薬として最初の製剤が承認されているので、患者さんは保険適用の標準治療として受けられますが、いかにコストを抑えるかは課題ですね。

堀江 研究開発のコストも膨大だし、高額にならざるを得ないのでしょうね。

籠谷 そこで注目されているのが「ユニバーサルCAR-T細胞」です。健康な他人の血液からT細胞を採って大量に培養するので、1回の採血で約100人分以上のCAR-T細胞を作れる可能性があります。これを凍結保存していつでも使える状態にすれば大幅なコストダウンとなり、品質のばらつきもありません。これまで治せなかったがんの治療法が広がる可能性が見えてきました。

堀江 CAR-T細胞の治療は毎月通院するのではなく、1回の注入で済むそうですね。

籠谷 はい。毎月数百万円かかる治療もありますから、治療総額だとCAR-T細胞治療が飛びぬけて高額、とは言えないかもしれません。

堀江 低コストなユニバーサルCAR-T細胞の治療が実現するめどは?

籠谷 すでに海外では臨床試験に進んでいるものもあるので、10年以内には、という可能性はあり得ます。まったく新しい治療法ではなくCAR-T細胞がベースのため、違う技術は必要ですが治療効果と安全性が確認できれば、それほど先の話ではないかと。

堀江 あとは、いろいろながんの治療に使えるようになるといいですね。

籠谷 5〜10年後にはCAR-T細胞が血液がんだけでなく、胃がんや肺がんなど他のがんの治療にも使われるようになるかもしれません。臨床試験は世界中で行われていますから、さまざまながんを標的にするCAR-T細胞も作られていくでしょう。

堀江 免疫療法でがんの予防はできないんですか? がんっていまだワクチンもないですよね。

籠谷 がんワクチンの研究はけっこう昔から行われているんですが、なかなか臨床効果が出なくて、実用のめどは立っていないと思います。がんだけが出している良い目印が少ない、ワクチンで刺激したT細胞がうまく活性化しないなど、予想と違う動きもあり成果を出すのは難しいんです。

堀江 今の時点でがんを発症させない予防策はなんだと考えますか?

籠谷 やはり検診です。早期発見や前がん状態で見つかれば、軽い治療で済んで治癒率も高いですから。がんの種類によって違いますが、大腸がん、乳がん、子宮頸がんなどは検診で早期・前がん状態で発見でき、治療方法や技術も確立されています。一方で、検診での早期発見が難しいがんもあります。例えば白血病。血液を作っている骨髄でがんが深く眠っている状態を、血液検査で見つける方法はまだ確立されていませんし、検診で骨髄の検査をするのは発見率の面からも得策ではありません。早期発見のめどが立っていないがんはまだまだあります。

また早期発見や治癒率の向上につながる検査項目と、有効性が必ずしも証明されていない、または情報の更新が必要な検査項目があるんです。一例として肺のレントゲン検査や胃のバリウム検査は、CTや内視鏡など他の検査技術の進歩や発症リスクの時代に伴う変化を踏まえて、効果のエビデンスを見直す必要があると思います。

堀江 免疫細胞療法のCAR-T細胞でがんを治せて、再発も防げるという希望は持てたし、検診での早期発見は予防策になり得ますね。がんによりますが、検査機器の精度もかなり上がっていますし。あとは自分の免疫力の維持も重要ですね。

籠谷 そうですね。がんの研究は、治療法開発よりも予防の研究にシフトしてきているのが、日本に限らず世界的な傾向です。私も、がんは予防できることが大事だと考えています。

籠谷勇紀氏

籠谷勇紀/Yuki Kagoya
慶應義塾大学医学部先端医科学研究所がん免疫研究部門教授。医学博士。2007年、東京大学医学部卒業。同附属病院血液・腫瘍内科助教を経て、2014年よりカナダのPrincess Margaret Cancer Centreにてがん免疫療法の基礎研究に従事。その後東京大学医学部附属病院などを経て、2023年1月より現職。

堀江貴文/Takafumi Horie
1972年福岡県生まれ。実業家。ロケットエンジン開発や、会員制オンラインサロン運営など、さまざまな分野で活動する。予防医療普及協会理事。著書も多数。本連載をまとめた書籍『金を使うならカラダに使え。』が好評発売中。

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