プロフィギュアスケーター高橋大輔がフルプロデュースするアイスショー「滑走屋~第二巻~」が行われ、盛況とともに他にないアイスショーとして高い評価を得た。その理由に迫る。

高橋大輔が企画・フルプロデュースする「滑走屋」
その公演は、他に類を見ないエンターテインメントであることを、さらにパワーアップした形で証明する時間となった。2026年3月19日から22日にかけて、オーヴィジョンアイスアリーナ福岡で開催されたアイスショー「滑走屋~第二巻~」である。
「滑走屋」は、バンクーバー五輪銅メダルをはじめ、現役時代はフィギュア界を牽引する活躍をみせ、引退後はプロフィギュアスケーターとして活動する高橋大輔が企画、フルプロデュースするアイスショーだ。2024年に福岡で初めて公演が行われ、昨年2025年、2度目を広島で開催。いずれも多くの観客動員とともに、大きな反響を呼んだ。
その要因は、従来のアイスショーになかった内容であった点にある。
これまでのアイスショーは、オープニングとフィナーレなど一部では集団で滑る場面はあったが、おおむね、出演するスケーターそれぞれが順番に演技を披露する形式であった。

しかし「滑走屋」は一線を画していた。
上演時間は75分。ノンストップで繰り広げられるショーの中心となるのはスケーターたちの迫力ある滑りをベースに、独特の構図を形作る群舞だ。振り付けは、劇団四季などを経て東京パノラマシアター主宰のダンサー/振付家として活動する鈴木ゆま。スケート界の外にある力を迎えることで、群舞やこれまでのフィギュアスケートにない独特の表現を実現した。陸上ではありえない動きやスピード感、つまり氷上ならではの世界を突き詰めたことに、成功の要因があった。
3度目の今回は、新たな色を加えての公演となった。
「『滑走屋』はスタイルとして、ダークでスタイリッシュなものをお届けするというものなんですけれども、それにプラスして、今回はストーリー性というものをフィギュアスケートで表現することに挑戦しました。スタイリッシュななかに物語性をつくって、それをフィギュアスケートで表現して、物語を紡いでいくという形です」(高橋)
それは中国の神話である青龍、白虎、朱雀、玄武の「四神」をモチーフにした物語を織り込むことだった。
台詞なしでストーリーを伝える斬新な試み
アイスショーだから台詞はない。そのなかでストーリーをどう表現するのか。
ハードルの高い挑戦は成功をおさめたと言っていいだろう。
創り上げたのは、四神を束ねる守り人「麒麟」を神が四神から選ぶという設定のもと、四神と彼らが率いる部族が争った末に、やがて麒麟が決まるというもの。台詞がない分ストレートに意味は伝わらなくとも、四神それぞれのキャラクターの違いが浮き彫りになり、四者間の駆け引きがうかがえ、そしてストーリーの流れも感じられて、物語はたしかな輪郭を描きだしていた。台詞がなくとも、表現することができていた。
高橋が設定を鈴木に伝えたのは昨年2025年6月であったという。そこからどのようなストーリーにするのかを時間をかけて話し合い、練習が始まってからも曲のセレクトやシーンの追加など、どうすればストーリーを台詞なしで伝えられるのか構成や演出をとことん突き詰めた。一方で高橋を含む総勢29名のスケーターは動作や表現を磨き上げていった。「台詞がない中でストーリーを展開する」試みが成立したのは、それらの成果であるだろう。
上演時間は約90分とこれまでよりやや長くなったが、前回の「滑走屋」にあったスピード感や群舞といった魅力も損なわれていなかった。なによりも、計9回の公演に集まった多くの観客(リピートして観る人も少なくなかったという)、回を重ねるごとに反響が大きくなっていったことが、成功を明確に示している。
スケートの未来を切り開くために
「滑走屋」を立ち上げた初回公演時、高橋はこのように抱負を語っていた。
「アイスショーの、新たな幕開けになればよいなと思っています」(高橋)
根底にあったのは、フィギュアスケートを楽しむ人をもっと増やしたいという思いだ。
「陸上ではない動きやスピード感がスケートにはありますし、エンターテインメントもいろいろあるけど、そのなかでも楽しんでいただけるものにしたいです。今までずっと見て応援してきていただいた方々にはもちろん、今までアイスショーを見たことがない方々にも来てほしいと思っています」
アイスショーとしては手に入りやすいチケット料金のカテゴリーも設定してきたのはその表れだ。また、2時間を超えるのが当たり前のアイスショーの中で、時間を短くしているのも新たな取り組みの1つ。
加えて、「スケーターの活躍の場をつくりたい」という目的もあった。
あちこちのアイスショーに呼ばれるのはひと握りのスケーターに限られる。多くのスケーターは、競技から引退すればスケートを続けていく場所がない。その場として、滑走屋を立ち上げたいとも考えていた。だから滑走屋は、国際大会に出るレベルの選手もいれば、アイスショーに出たことのないスケーターたちも数多く出演してきた。多彩なメンバーが参加し、毎回、合宿も含め時間をかけて集団としてまとまり、作品を創り上げてきたのである。
その求心力は、氷上では切れ味ある滑りでもって変わらぬ存在感を示し、氷の外でもPR活動を含め毎回力を尽くしてきた高橋の存在にほかならない。
初回から継続して出演し、今回は四神の「朱雀」を演じた村上佳菜子は、今回の公演を前にこう話している。
「何よりもいちばん大変な高橋大輔さんが追い込んで、ときに厳しく(笑)、弱音も吐かずにみんなを引っ張って。だからこそ私たちも少しでも助けになりたいという思いを抱いて動くことができたと思います」(村上)
フィギュアスケートの未来を広げようと試み、オリジナリティあふれるエンターテインメントを世に送りたいと、身体を張って滑走屋を牽引してきた。
そしてフィギュアスケートの新たな可能性を3度目の公演であらためて提示した。それが「滑走屋~第二巻~」であった。
高橋大輔/Daisuke Takahashi
1986年岡山県生まれ。2002年世界ジュニア選手権優勝、2010年バンクーバー五輪銅/世界選手権優勝、2012年グランプリファイナル優勝(いずれも日本男子初)。2006年トリノからソチまで五輪3大会連続日本代表。男子シングル/アイスダンスの両種目で世界選手権出場を果たし、2023年に引退。現在はプロフィギュアスケーターとして活動し、リノベーション事業や寝具開発、俳優など新領域にも挑戦中。






