約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

顔はほとんど見ない
秋元(康、作詞家)さんって、オーディションの時に応募者の顔をほとんど見ない。ふっと一目見て、それでおしまい。初めて一緒にオーディションの審査をした時は、僕の方が気を遣ってしまうくらいだった。でも実は僕も、応募者のことをじっくりは見ない。一瞬で決めてしまう。最初の一瞬に燦くものを感じるかどうか。それがすべてと言ってもいい。秋元さんは、その一瞬の感覚を研ぎ澄ますために、あえて一瞬しか見ないようにしているんだと思う。見城(徹、幻冬舎社長)さんも「人は会って3秒でわかる」と言うけど、僕もそのとおりだと思う。
もちろん、最初の印象が絶対というわけではない。会うたびに印象がよくなっていく人もいるし、会うたびに毎回印象がコロコロ変わって安定しない、よくわからない人もいる。
でも、最初の感覚が結局合っていたということのほうが多いんじゃないだろうか。礼儀正しいか、とかそういうことではない。ものすごく無礼なんだけど、その人の生き方の面白さが外面にも出てきていることもある。なかなか言葉で説明するのは難しいけど、「人柄」というか、その人が醸し出す雰囲気だとか、そういうものを一瞬で感じ取っているとしか言いようがない。
これまで生きてきて、何をしてきたかは、やはり外に出てくると思う。その出方がおかしな人は、だいたい中身もおかしい。おかしな空気を出して人から避けられるタイプの人は、仕事もあまりうまくいかないことが多い。ビジネスというのは、一人で完結できるものではないからだ。絶対的な才能を持っているアーティストだったら別かもしれないけど、それでも誰もついてこないような人柄だと、現実の世界で自分の作品を広めていくのは難しいと思う。
僕の言葉で表現するなら「あたりが良い人」になるんだけど、なおかつ、そこにあざとさがないことが重要。何かを企んでいることが見えてしまうとか、何かの折にあざとい顔が見えてしまうとか、そういうものを感じさせない人であれば、面白そうだからまた会ってみようと思える。
人間の根っこの部分で付き合う
僕よりも年下だけど、すごく勢いがある経営者がいる。多分、昔はかなりやんちゃをしたけど、今は立派に会社を率いている。彼の最初の印象がよくて、その後も何回か会っていた。
ある時、僕の身の回りに困った問題が起きた。同じく、僕がすごく気にかけている若者がいて、相談によく乗っていたし信頼もしていた。ところが、その若者が大きな問題を起こしてしまい、仕事を失ってしまった。自業自得ではあるんだけど、僕としてはもう一度彼に活躍してほしい。
そんな話をしていると、その経営者はまったく躊躇することもなく「僕のところで引き受けます」と言い出した。彼は、その問題を起こした若者と面識はない。でも、僕が信頼している人物だから信頼できる、という考え方をする。これ、口にするのは簡単だけど、実際には簡単なことじゃない。問題を起こした人を自分の会社に入れるんだから、内から外からいろいろな批判が起こる能性だってある。それらをすべて払いのけて、その“若者を守る”ということだから。
意外に思われるかもしれないけど、僕はビジネス絡みの人間関係はさほど広くない。出資をしている企業もごく限られていて、芸能界関連だと2社ぐらいしかない。出資をするのが嫌だというわけではないんだけど、ビジネスが絡むと別の感情が出てくる。結果、ビジネスも人間関係もあまりうまくいかなくなることが多い。僕も、人間関係を利用して儲け話に絡みたい、みたいな気持ちは持っていない。
そういう人間の根っこの部分で人付き合いをしていると、相手の年齢がどうであれ、世代間のギャップのようなものは感じない。確実に、二人の間に共通したものが存在していることを感じることができる。むしろ、僕とは異なる世代、異なる世界の人の方が、そんな考え方もあるんだと刺激になる。
「人は会って3秒でわかる」。互いにお金だとか名声だとかの欲を持たない、人と人としての関係を結びたい場合は真理であると思う。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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