ブランド初となる高性能ハイブリッドパワートレインを搭載したスーパーカー、アウディ・ヌヴォラーリが、斬新な衣装をまとって現れた。

アウディがF1に初挑戦する理由
いささかスレてしまったせいか、超絶格好いいコンセプトカーが発表されても、それほど心が動かされなくなった。絵に描いた餅では腹はふくれないというか、やっぱりクルマは走らせてナンボ。だから昨秋、アウディがコンセプトCというデザインスタディモデルをお披露目した際にも、確かにチャレンジングな造形ではあるけれど、まんまこのスタイリングで走ることはないだろうと少し冷めた目で見ていた。
ところがどうだろう。2026年6月に市販型として発表されたアウディ・ヌヴォラーリ(Audi Nuvolari)は、コンセプトCをさらに尖らせたフォルムをまとって現れたのだ。ここ最近のニューモデルでは、文句なく最もエキサイティングだ。
このクルマは、アウディが掲げる「The Radical Next」という新しいデザインコンセプトを体現した最初の市販モデル。デザインだけでなく、その内側には次の時代を牽引する先進的なテクノロジーが注ぎ込まれている。

アウディ・ヌヴォラーリを理解するにあたっては、このブランドが2026年シーズンよりF1に参戦していることが大きなポイントだ。
アウディはこれまで、WRC(世界ラリー選手権)、WEC(世界耐久選手権)、フォーミュラEといったモータースポーツに参戦し、そこで得た技術を市販車の開発に活かしてきた。けれども、前身となるアウトウニオンが第二次大戦前にグランプリに参戦した例を除けば、F1とは無縁だった。
アウディが参戦を決めた理由は、F1の新レギュレーションがアウディの技術開発のベクトルと一致したことだ。モーターとエンジンのパワー配分が50:50になることは、電動化の技術を進化させたいアウディにとっては渡りに船。化石燃料ではなく持続可能燃料を使うことも、将来的に市販車へ応用できると判断した。
加えて、Netflixのドキュメント映画が火を着けた世界的なF1人気というマーケティング的な理由もあって、アウディはF1を戦うことを決めたのだ。結果、アウディ・ヌヴォラーリには、デザインとメカニズムの両面でF1の開発で磨いた知見が注ぎ込まれることになった。

すべてが機能に基づいた造形美
これまでのアウディは、引き算の美学というか、削ぎ落とした美しさが特徴だった。アウディ・ヌヴォラーリはそうしたアウディらしさをさらに研ぎ澄まし、次のステージへステップアップしたように感じさせる。
新しいシグネチャーカラーだというチタニウムのボディは、無駄がなく引き締まっており、巨大な金属塊を彫刻刀で削り出したかのような佇まいだ。
F1マシンと同じようにエンジンをドライバーの背後に積む(=フロントにエンジンが存在しない)ミドシップレイアウトらしい、フロントセクションが切り詰められたプロポーションも、ミニマルな美しさを強調する。

特筆すべきは、仰々しいウイングやエアロパーツが存在しないのにも関わらず優れた空力性能を獲得していることで、空気抵抗を減らすこと、高速走行時に風の力で車体を地面に押し付けて安定性を得ること、効果的に風を採り入れてパワートレインを効率的に冷やすことなど、複雑な要素をバランスさせている。ちなみに、すべての造形は技術的になんらかの意味を持っているとのことで、装飾は廃されている。
この空力性能の向上や、軽くて強いカーボンファイバー強化ポリマー(CFRP)といった素材に、F1で研鑽した技術が応用されている。
インテリアの世界観もエクステリアと共通で、機能優先のシンプルなもの。ドライビング体験に専念できるよう、操作系統はドライバーの視野の範囲内に配置されている。また、デジタルディスプレイと物理的なスイッチとダイヤルは、自然な操作ができるように組み合わされている。
興味深いのは室内空間を2つのゾーンにわけていること。フロントセクションは集中力を高めるためにダークな色調になっているいっぽうで、リアセクションは軽やかなトーンにしている。リアセクションからは、開放的で、快適かつリラックスした雰囲気が伝わってくる。

パワートレインは、ミドシップされるV型8気筒エンジンと、左右の前輪を駆動する2つのモーター、そしてエンジンとトランスミッションの間に位置するモーターで構成される。駆動方式はフルタイム4輪駆動で、ハンドルを切った角度、前後左右のGといったデータから走行状況を察知し、安定性を高める「quattro predictive ride」が技術的ハイライトのひとつだという。
このハイブリッドのパワートレインにおいて、減速時にエネルギーを効率よく回生するブレーキや、ここで得たエネルギー(電力)を蓄える技術、そして蓄えたエネルギーを無駄なく使う技術は、F1にも通じるものだ。サーキットは技術の実験室(ラボ)というのがアウディの考え方で、過酷なバトルの経験が市販モデルに反映され、それがユーザーのベネフィットにつながる。
総じて、アウディのフラッグシップというだけでなく、このブランドの未来を象徴するモデルで、アウディが進む道をわかりやすく伝えるシンボルがヌヴォラーリなのだ。499台限定で、欧州では2026年の第4四半期から受注開始、2027年前半からデリバリーが始まるという。


問い合わせ
アウディ コミュニケーションセンター TEL:0120-598106
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

