CAR

2026.07.14

いいモノだけをイタリアから! デザイン名車を直輸入する「マブチモータース」

デザインと色にこだわって、美しいイタリア車を輸入する。そんなユニークなコンセプトで運営しているマブチモータースを、東京・赤坂に訪ねた。

マブチモータース

巨匠の最高傑作は極上コンディション

「イタリアのアパッショナート(熱心なクルマ好き)が探すような方法でクルマを見つけて、彼らと同じように整備をして、それを日本に輸入しています」

こう語るのは、マブチモータースの馬淵忠則代表。「よく、模型やラジコンのマブチモーターと関係があるのかと聞かれますが、まったくの無関係です」と苦笑しながら、最近輸入したばかりだという初代フィアット・パンダを見せてくれた。初代パンダは1984年から2000年まで生産されたイタリアを代表するベーシックカーで、取材した個体はマイナーチェンジ前のいわゆる初期型だ。

「もちろんフェラーリやランボルギーニは素晴らしいと思います。けれども、個人的にはイタリアのバールで食べるシンプルなピザやパスタのように、日常生活に溶け込んだクルマが好きなんです。乗れば乗るほど味わい深いし、まったく飽きません。そんなわけで、イタリアの小さなクルマをメインに取り扱っています」

マブチモータース
日本に到着したばかりの初代フィアット・パンダと、マブチモータースの馬淵忠則代表。ちなみにこの車両は、すでにとある女性クリエイターへ販売することが決まっている。

見せてもらったフィアット・パンダは、「北イタリアの裕福なおじいさんから買い取りました」とのこと。

「いまから40数年前に購入されたワンオーナーの車両で、おじいさんは孫ができたら譲ろうと思って大事に大事に乗ってきたそうです。でも免許を取ったお孫さんに、“おじいちゃん、ごめん、僕は要らない”と言われて、悲嘆に暮れていたところを弊社が引き取りました」

マブチモータース
当時の広報写真より。軽量でコンパクトな設計でありながら4人家族が余裕を持って移動できるという実用性と、優れたデザイン性が見事に融合している。シートアレンジメントが豊富なことも、時代を先取りしていた。

自動車デザインの巨匠ジョルジェット・ジウジアーロが手がけた直線基調のスタイリングはいま見ても新鮮で、室内も広い。実用性の高さと小動物のような愛らしさを兼ね備えている。

何年か前にジウジアーロ氏にインタビューした際に、「初代パンダが私の最高傑作」だと語っていたのを覚えている。初代フォルクスワーゲン・ゴルフやマセラティ・ボーラ、BMW M1などさまざまな名車をデザインしたジウジアーロ氏であるけれど、「コンパクトでありながら少し背を高くすることで室内空間を広くするというアイデアが、のちのSUVの先取りをしています」と胸を張った。

撮影のためにエンジンを掛けると一発で始動、抜けのよい排気音からは機関のコンディションがよいことが伝わってくる。オリジナルだという塗装の状態もよく、インテリアもきれいだ。

「塗装に関しては、おじいさんが大切に屋根付き車庫で保管していたのでオリジナルで、コーティングを施した程度です。イタリアのベーシックカーは味のあるボディカラーばかりなので、できれば塗装と色はオリジナルにこだわりたいと思っています。いっぽう当時の小さなフィアットたちは、あくまで実用車として使い倒されたケースが多いので、樹脂パーツが破損していたりシートが破れていたりします。なので、オリジナルを知る職人に依頼して、なるべく当時のパーツを使用してレストアしています。エンジンやトランスミッション、足まわりについても同様で、このパンダのみならず、現役時代を知っている熟練の職人であるパートナーたちに整備してもらってから日本に入れています」

ただし、板金塗装が必要な場合は、日本の職人にお願いしているとのこと。

「イタリア人には、高温多湿な日本の夏が想像できないようです。だからここだけは信頼できる日本の業者にお任せしています」

では、馬淵氏はなぜイタリアのクルマ好きと同じような方法で車両を見つけて、現地の熟練の職人に整備を依頼することができるのだろうか。その秘密は、馬淵氏の経歴にある。

マブチモータース
長寿モデルのパンダは細かな変更を重ねたけれど、クルマ好きの間では、簡素ですっきりとまとまっている最初期型のインテリアが好まれる。シンプルでモダンなインテリアの世界観は、エクステリアと共通している。

イタリアのクルマ好きコミュニティに溶け込んだ

幼少期からイタリアのクルマが好きだった馬淵氏は、イタリアやクルマに関わる職業に就くことが夢だったという。

「本当はイタリア語を学びたかったのですが、進学先はローマ・カトリックと関係が深い大学なのにイタリア語学科がなくて、仕方なくポルトガル語を学びました。でもブラジル音楽も好きだったし、ポルトガル語を学ぶことはイタリア語を習得することにつながったので、結果オーライでした」

大学卒業後は某有名自動車専門誌の編集部に就職。国内外の自動車メーカーやジャーナリストなど、自動車業界にネットワークを作った。その後、テレビCMで有名な広告プロダクションに転職、プロデューサーとして活躍し、web広告に特化したプロダクションを起業した。

「日本企業のワールドプロモーション案件を担当する際に、ヨーロッパのプロダクションとコラボレーションをする機会が多く、各国で広告賞もいただきました。やがて欧州メーカーやF1の仕事もやるようになります。それで、子どもの頃からの夢もあって2000年代の初頭にイタリアのフィレンツェに移住して、新たにプロダクションを設立しました。本業はブランディングやマーケティングでしたが、自動車専門誌時代のつながりで日本の自動車業界人をヨーロッパのイベントにアテンドしたり、クルマとの縁は切れなかったですね。

ヨーロッパの自動車メーカーとの仕事もあったし、自分も好きでオーナーズクラブやガレージに出入りしていたので、自然とイタリア人のクルマ好きコミュニティに加わるようになりました。いまのビジネスパートナーはリグーリア州のジェノヴァに住んでいるイタリア人で、数十年にわたりイタリア国内のラリーやレースで活躍するカーガイですが、彼ともそんなつながりから知り合いました。程度のよいクルマを見つけられるのは、彼や多くの友人たちの力によるところが大きいです」

帰国し、本業の活動拠点を日本に移したところで、コロナ禍が世界を襲った。

「本当は、還暦を過ぎたあたりでのんびりクルマ屋でもやろうかと思っていたんです。でもコロナの時に、やりたいことはできるだけ早く始めたほうがいいと感じました。それで2021年にマブチモータースを設立して、現在に至っています。たとえばフィアット128とかランチア・プリズマとか、自分で言うのもアレですが、取り扱っているのは世の中的には珍しい、“ちょっと渋いクルマ”ばかりですね」

マブチモータースが輸入するのは、デザインと色にこだわったイタリアのベーシックカー。それも出自のはっきりしている良質な個体にこだわり、熟練の専門家チームによる念入りな整備の末に日本へ持ち込んでいる。

「昨今の旧車ブームで、イタリアでも程度のよい車両が減っているので、数を売るつもりはありません。価格についても本当は何百万円くらいですという予算の目安をお伝えできればいいんですが、コンディションやどこまで仕上げるかによって千差万別なので、そこはお客様と膝を突き合わせて相談しながら進めています。為替の動きも無視できない要因ですし」

馬淵代表本人が乗りたくなるようなデザイン名車だけを輸入するというコンセプトで営まれているマブチモータースは、「こんなクルマを探してほしい」というリクエストにも応えてくれるとのこと。興味のある方は、相談してみてはいかがだろう。

マブチモータース
マブチモータースは、東京・六本木のAXISビルで営業する自動車雑貨店「LE GARAGE」にて不定期で展示販売をしている。マブチモータースへの問い合わせは、オフォシャルホームページから。

問い合わせ
マブチモータース https://www.mabuchimotors.com

サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。

TEXT=サトータケシ

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