約5年ぶりに再開した、エイベックス会長松浦勝人による連載。現代を生きる数寄者が語る、社会のこと、仕事のこと、遊びのこととは。【その他の記事はこちら】

怖いからこそ“AIを使う側”にまわる
エイベックスの社内では、今、あちこちの部署でAI導入の議論を進めている。いろいろ課題はあるけど、こんなに便利なものを使わない手はない。その便利さをわかっている人は、会社が禁止したって使ってしまうだろうから、そうなると情報漏れなどの致命的な問題が起こりかねない。だったら、先回りして、AIが自由に使える環境を整えてしまった方がいい。
僕自身も、僕個人の情報をAIに入れていろいろ試している。僕が今、何よりも心配しているのは“人生の資金繰り”。遺産を残したって自分では使えないんだから、家族に必要な分だけ別に分けておいて、残りは全部自分で使ってしまいたい。でも、お金を使う生活をしていて、90歳、100歳まで生きてしまって、人生の最期が一文なしで苦労する、なんてことにはなりたくない。
でも、70歳ぐらいで病気になったら、お金なんか使えなくなってしまうんだから気にしなくていいのかも、とも考える。いったい、どうすればいいのか。AIが登場した時に、まず教えてもらいたいと思ったのはここだった。
そこで、過去のクレジットカードの請求明細をすべてAIに入れて尋ねてみた。そしたら、まず、「ブランド品を買いすぎです」と叱られた。そして「ブランド品は毎月300万円以下に抑えてください。このままだと83歳でお金が足りなくなります」と言う。
僕はブランド品を買うこと自体が楽しいだけで、そのほとんどが誰かに贈るためのもの。贈った相手が喜んでくれるのを見て、僕も喜んでいる。自分のお金で何をいくら買おうとAIに文句を言われる筋合いはないけど、このまま行くと、ゆくゆくは苦しくなってしまうらしい。じゃあ、どうすればいいのか。そんな人生の資金繰りをAIに相談している。
AIは何にでもなってくれる。弁護士にもなってくれるし、会計士にもなってくれる。しかも、人間の弁護士には聞きづらい幼稚な疑問も気軽に聞ける。だったら、僕のことをよく知ってもらった方がより的確な答えをしてくれるはずだと思い、自分に関するデータをどんどん読み込ませている。
専門家についてもらって「Claude Code(クロードコード)」の使い方も勉強している。一般的なAIの多くは、検索エンジンの上位版みたいな感じだけど、クロードコードは脳みそに手足がついているようなAIなので、気になることを調査させて、その結果を誰かにメールしておいてと指示すればやってくれる。とても便利。
僕は経営者だから、自分でAIを使わなくても、秘書やアシスタントに覚えさせて指示をするだけでいいのかもしれない。でも、社内でAIの使い方について議論する時に、使ったことがなければ何も言えなくなってしまう。ひと通りでいいから僕が使っていれば、社員がAIについて僕に何か言う時も適当なことは言えなくなる。
僕は「エイベックスを100人のコンパクトな会社にする」と言っている。権利ビジネスを中心にし、その他の機能はすべて外部化してしまう。配信時代、AI時代はそれがエンタメ企業のあるべき形だと思っているけど、今、エイベックスにいる社員は、そんなこと言われたら嫌だよね。だって、「君はいらないよ」と言われてみるみたいなもんだから。
AIも同じで、普及すると社員はいらないんじゃないか、という話になってくる。だから、AI導入を推進していた部長さんが、どんどん部下を少なくしていって、最後には“自分もいらなくなりました”ということが現実に起こってくる。
会社という器が溶けてなくなる
ひょっとしたら、会社という器が溶けてなくなってしまうほどの大きな波がやってくるかもしれない。だから、内心、AIなんか普及してくれない方がいいと思っている人もいるのではないか。でも僕は、怖いからこそ、自分でAIを使う側にまわってしまおうと考えている。
それをわかってもらうために、最近は秘書に頼むことも、AIを使って自分でやってしまう。ロンドンのクラブを視察して、その後イビザ島のイベントに参加して、みたいな出張の日程をAIにつくってもらうと瞬時にできあがってくる。それも、ちゃんと使えるレベルのものがあがる。秘書に頼むと3〜4日かかって、それをまた直して、と完成までに1週間はかかる。
僕が自分で日程を組んでしまうと、秘書はいやーな顔をする。それに追い打ちをかけるように「君たち、もういらないかもよ」と言ってやる。でも秘書も打たれ強くて、「でも、人間はお酒の相手ができますから」と言い返してくる。そんなところまできている。
僕は世の中がどうなっていくかを先読みして、そこから自分やエイベックスはどうすべきかを考えなければならない。AIによって起こる流れを読んで、みんなを引っ張っていかなければならないんだけど、「いや、もうわかんねえな、これ」。それしか、今の僕には言葉が出てこない。それほど、この波は大きい。
松浦勝人/Masato Matsuura
1964年生まれ。エイベックス会長、音楽プロデューサー。24歳でエイベックス創業、ユーロビートブームの発信源となる。浜崎あゆみ、TRFなどのプロデュースを手がけた。
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