森保一監督が2018年に就任して以来、日本代表に招集した選手は200人以上。多くの選手にチャンスを与えるとともに、最後は冷徹な人選を行ってきた。8年間監督を追い続けてきたフットボールジャーナリストが迫る「森保一の人物像」。(4回目/4回)【特集 2026FIFAワールドカップ】

重用していた選手にも厳しい判断
森保一監督が「いい人」なのは間違いない。だが、その柔和な笑顔に騙されてはいけない。
指揮官はときに冷徹な判断を下さなければならない。2026年北中米ワールドカップのメンバー発表の席で、リストに入れられなかった選手たちのことを思い浮かべ目を潤ませていた人物ではあるが、ピッチ上の選別においては一切の妥協を排している。
衝撃的だったのは、2022年カタールワールドカップのメンバー選考で原口元気を外したことだった。それまで原口は数多くの試合で招集され、さまざまなポジションでの適性を見せてきた。それほど貢献度が高かった選手を森保監督は本大会に連れて行かなかった。
2018年のロシア大会ではラウンド16のベルギー戦でゴールを挙げるなど、実績も十分な当時31歳のベテランだったが、森保監督は特別扱いをしなかった。メンバー発表のそのときまで本人に連絡しなかったという。2026年北中米ワールドカップのメンバー発表の際に、選手たちが緊張していたのはそんな森保監督の判断の非情さを知っているからだろう。
他にも2022年大会なら大迫勇也、今回の北中米大会なら守田英正の落選は、周囲に大きな驚きをもって受け止められた。両者とも、日本代表の中心メンバーとして戦うだけの力は十分に見せていたからだ。
ここに、この2人の明確な共通点がある。それは、ワールドカップ前年の重要な活動期間において、負傷などの影響により日本代表の活動にほとんど参加できなかったという点だ。守田も2025年3月の初戦を最後に代表活動から離脱し、以降は一度も招集されていない。
もちろん他の要因もあるのだろうが、どれほど実力があり、過去に貢献してきた主軸であろうとも、最終的なチーム作りの骨格を固める時期にその場にいられなければ、容赦なく対象から外される。組織の構築は、驚くほど非情に進められていくのだ。
ベテランや若手選手にも厳しい試練を
森保監督の長友佑都への信頼は厚い。
「世界のトップクラブでの経験がありますし、日本代表としても日本で一番最高の経験を持ってる選手で、世界基準の戦いを見せられる選手だと思っています」
「どんなときもポジティブな空気を出してくれて、チームをポジティブな雰囲気にさせてくれる。困難な状況のなかでも前向きにやっていこうという雰囲気を出してもらえるのはすごくありがたい」
それほど高い評価をしながらも、日本代表への選出を無条件に約束していたかというとそうではない。2022年カタールワールドカップが終わったあと、長友が初めて招集されたのは2024年3月。そこから長友は招集され続けたが、待っていたのは厳しい試練だった
毎回、長友が座るのはベンチ外だった。客席からチームメイトの戦いを見る日々が続く。やっとピッチに立ったのは2025年7月。ところがその試合は国内組だけで形成される日本代表で挑んだE-1選手権だった。
ワールドカップ4大会連続で先発の座を勝ち取ってきた長友ほどのレジェンドであれば、そのプライドに傷がついてもおかしくない扱いだろう。それほどの状況にベテランを置き、指揮官はその振る舞いを冷徹に観察していたのだ。
今や日本の守護神へと成長した鈴木彩艶も、森保監督によって厳しい試練の渦中に放り込まれた一人だ。2024年1月のアジアカップにおいて、森保監督は鈴木を先発で起用し続けた。
当時の鈴木はまだパフォーマンスに不安定な部分があり、メディアやファンからの批判の矢面に立たされていた。控えには経験豊富な前川黛也らが控えていたため、「GKを変更する選択肢はないのか」と報道陣から問われた森保監督は、表情を変えずにこう答えている。
「彼に試練を与えているんです」
一歩間違えれば、敗戦の責任をすべて背負わされかねない過酷な立場に、若い守護神をあえて置き続けた。結果としてその大会中、鈴木のパフォーマンスが完全に安定することはなかった。
しかし、その後の鈴木はイタリアのパルマに籍を移して頭角を現していく。この成長が森保監督の厳しい起用のおかげだけとは言い切れないにせよ、あの過酷な国際舞台での経験が、彼のポテンシャルを決定的にはじけさせるトリガーとなった可能性は否定できない。
いつまでも守りに入らないメンバー選考
現役時代は守備的MFだった森保監督だが、指揮官としては「守りに入る」選手選考はしなかった。
今回のメンバーで、2022年カタールワールドカップを経験しているのは約半数にとどまる。残りの半分は、この4年間でドラスティックに入れ替わった。
もしも前回のメンバーがあと4、5人いても、周囲からは「最近は所属クラブで調子を落としているようだが、大舞台の実績があるから」と、ある種の納得感を得られただろう。実績組を起用して仮に負けたとしても、「想定以上に衰えが進んでいた」と言い訳をすれば、世間の同情を集めやすかったかもしれない。
森保監督は、そうした保身の選択肢を選ばなかった。驚くべきことに、同年3月に初招集され、わずか12分間しか代表のピッチに立っていない塩貝健人を本大会のメンバーに選出したのだ。また、後藤啓介にしても、それまでの代表経験はわずか3試合に過ぎない。
これが「ワールドカップの雰囲気を経験させるため」「将来有望な選手を育てるため」などというロマンチシズムでないことは明らかだ。現に、前回大会で追加招集されてシンデレラボーイとなった町野修斗などは、今回のリストから外されている。過去のストーリーに引きずられることは一切ない。
森保監督は「いい人」だ。それは間違いのない事実。だが「甘い人」ではないのである。

