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2026.05.31

日本代表・森保一監督の「いい人」は本物か①

いよいよスタートする北中米ワールドカップ。日本代表史上、初めて2大会連続で指揮を執る森保一監督は、歴代トップの成績を残してきた。いつもニコニコしている姿しか見せないが、取材を通じて見ると別の側面も持っている。8年間森保監督を追い続けてきたフットボールジャーナリストが迫る「森保一の人物像」。(1回目/全4回【特集 2026FIFAワールドカップ】

日本代表・森保一監督の「いい人」は本物か①
森保一/Hajime Moriyasu
1968年8月23日静岡県生まれ。長崎日大高校から1987年マツダに入団。1992年にハンス・オフト監督によって日本代表に抜擢され、ボランチとして「ドーハの悲劇」を経験した。1998年、京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に期限付き移籍。2002年にベガルタ仙台へ移籍し、2003年に現役引退。国際Aマッチ通算35試合出場1得点。引退後は指導者の道に進み、2012年にサンフレッチェ広島の監督に就任。3度のJ1リーグ優勝を果たす。2017年よりU-21日本代表監督、2018年からは日本代表監督を兼任。2022年カタールW杯ではドイツ、スペインを破りベスト16に導いた。日本代表監督として初めて国際Aマッチ100試合以上を指揮し、過去最高の勝率約70%を誇る。

「尻尾」がない森保一監督の対応

サッカー日本代表・森保一監督が「いい人」なのは間違いない。かつてこれほど監督を取材しやすい環境だったことはなかった。

そんな丁寧な対応をしてくれる監督だからこそ、幸せな時を過ごしてほしいと願っていた。ところがこの8年を振り返ると森保監督はさまざまな困難に直面した。「貧乏くじ」ではないかと思うこともあった。揚げ足を取られることもあった。過酷な運命を辿るように仕組まれているとも思える。

また、笑顔の後ろにもう一つの顔があることも確かだ。事実の裏に隠された意図に気付くと、凄みを感じることも少なくない。決して軽んじてはいけない人物だというのも間違いなかった。

◆ ◆ ◆ ◆

通常、日本代表に新監督が就任すると「ハネムーン期間」がある。監督も報道陣もお互いに探りを入れている間は、何があっても好意的に報じられる。最初から緊張感を持ち込んだのはイビチャ・オシム監督(故人)とヴァイッド・ハリルホジッチ監督ぐらいかもしれない。

オシム監督は初めての日本代表メンバー発表で13人しか明らかにせず、報道陣から質問されると「13人でも試合はできるのだが」といきなり緊張感を走らせた。ハリルホジッチ監督は練習後の選手への取材時間を制限して、初めから対立関係を生んだ。

では、森保監督はどうだったか。初練習のメニューそのものもユニークだったのだが、練習後に報道陣の横を通り過ぎるとき「ああいうアプローチは初めて見ました」と声をかけられると、その場ですぐ立ち止まった。「これが本当にいいのかどうか分かりませんが」と二言三言、コミュニケーションを取ったのだ。

些細なことに見えるかもしれないが、これは異例だった。それまでの監督なら、そのまま手を振って通り過ぎる。

さらに驚かされたのは、その後のファンへの対応だった。森保監督への垂れ幕を持ってきたファンが練習後に掲げたところ、監督は一度乗り込んだバスから降りてきて、ファンの元に歩み寄り言葉を交わしていた。

それでも「今はハネムーン期間だから」と、いずれ来るはずの対立期を前にこちらは身構えていた。ところが、いつまで経っても報道陣の前を足早に通り過ぎたり、そっけない態度を見せたりすることがない。

それどころか、練習場ではファンや報道陣に必ず自ら挨拶をする。そんな振る舞いをすると余計に「何か裏があるのではないか」と勘ぐっているのだが、なかなか尻尾を出さない。というより、尻尾がないのかもしれない、と思わせる。

批判された相手に対してとった態度

コロナ禍においては、監督を囲んで行う取材が不可能になった。すると森保監督は毎週1時間以上、オンラインで日本代表の現状について、質問に答える場を設けた。しかも取材の門戸をフリーランスにまで広げ、よりオープンな会話ができる環境を整えた。

もっとも、それほど丁寧に対応してもらっても、課題だと思ったことは辛辣に指摘するのが報道陣の役割だ。ときに非常に厳しいトーンで森保監督を追求する記事を書く、ベテランの記者がいた。

そしてある日本代表発表記者会見の直前、そのベテラン記者が逝去された。その訃報を聞いた森保監督は会見で涙を浮かべながら語った。

「批判的な言葉もたくさんいただきましたが、サッカーファミリーとして日本サッカーの発展に大きく貢献していただき、本当に感謝の思いでいっぱいです」

あの涙を、もし下心や計算があって浮かべられる人物なら選手に慕われることはないだろう。2022年カタールワールドカップでキャプテンを務めた吉田麻也は「これほど選手のことを考えてくれる監督に出会ったことがない」と評していた。

だからこそ吉田は、2026年北中米ワールドカップの直前に、決して本大会のメンバーに選ばれることはないと分かっていても日本代表に合流し、コンディション不足で動ける選手が足りないピンチを救ったのだ。

休日出勤して他部署を手伝い、その成果や報酬に預からぬままに去って行くような振る舞いは、よほどその部署の長に対する敬意や好意がない限りできないはずだ。

日本代表監督という重責は、しかし、こうした「人の良さ」だけで全うできるほど甘い世界ではない。

2回目に続く

TEXT=森雅史

PHOTOGRAPH=松尾/アフロスポーツ

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