PERSON

2026.07.31

酒場の達人・角野卓造、大人の“ひとり酒”流儀。良店の見分け方・入り方

酒場の達人・角野卓造さんが、自身のひとり飲みの流儀を披露する書籍『予約一名、角野卓造でございます。【東京編】』が絶賛発売中だ。今回、角野さんにひとり飲みを始めたきっかけ、お店の選び方や作法を聞いた。

角野卓造氏

20代は毎日のように役者仲間と飲み歩いた

酒場を愛する粋人である。年間70日以上を過ごすという京都でも、心地の良い酒場を求めるのがライフワーク。京都に移住した俳優・近藤芳正さんとともにうまい酒と肴を味わう番組『おやじ京都呑み』(KBS京都)も人気を集めているが、関西で酒場ツウとして知られるのは、これまでに自身が巡った良店を紹介する書籍『予約一名、角野卓造でございます。』の存在も大きい。

京都編はすでに2冊が発売されているが、このたび酒場好きが待ちに待った東京編が刊行。わくわくとした気持ちで本を開くと、そこには老舗から気さくな割烹まで魅力的な店がずらりと並ぶ。それにしても、角野さんはどのようにそうした良店を引き寄せるのだろうか? まずは、宝物のような酒場を見つけるコツを伺うことに。

「コツなんて、そんな大それたものじゃないんですよ。若い頃、仕事で日本各地を訪れるなかで得た勘みたいなものでね。今のようにネットやガイドブックで情報を集めるという時代ではないから、先輩たちから教わることが多かったです。口伝ネットワークというのかな。

それで実際に足を運んでみて、ここはとても落ち着くなぁとかご家族経営のお店は温かい気持ちになれるなぁとか、酒場に通ううちに自分の好きな空気感がわかるようになったという感じです。

20代は毎日のように役者仲間と新宿ゴールデン街で呑んでいました。稽古と呑みは、ほとんどセットでしたから。当時は少しずつみんなでお金を出し合う互助会ルールがあって、お酒の飲み方を勉強させてもらったし、バイト先の酒場でもだいぶ鍛えられましたね」

そう朗らかに笑う角野さん。40歳を過ぎて“集団飲み”から少しずつ、ひとり飲みへとシフトしていったという。

「ひとり飲みのバイブルは酒場の神様こと、太田和彦さんの本です。今も親しくさせていただいておりますが、どこに行くにもハードカバーの本を持って行ってましたね。ちょっと重たいんですけれど(笑)、3冊ぐらいまとめて持ち歩いて全国の酒場を巡りました」

開店5分前には店の近くの電信柱の影で待つ

多くの店をめぐるということは、ときには当たり外れも?

「自分でもいろいろトライしたので、毎度大当たりというわけにはなかなか(笑)。でも、それも含めてひとつの息抜きになっていたんです。その感覚が今も濃く残っているのでしょうね。たくさんのお店に伺わせていただいて、初めてでも店構えでここはいいお店だろうなぁと予想できるようにもなりました。

まず、店先がすっきりとしていることですね。段ボールが乱雑に積んであったりすると、ここは違うかもしれないとセンサーが反応します。建物自体が古くても清潔感があるお店が好きです。僕の理想は家族4人ぐらいで営んでいて、お父さんとお母さん、その息子とお嫁さんみたいなね。そういうお店に共通しているのは店に対する愛情のかけ方が違うんですよね。常連さんでも必要以上に贔屓せず、ちゃんと店主と客の距離感が保たれているお店も素敵だと思います」

予約の電話も必ず自分で入れるという角野さん。できるだけ口開けの時間に、開店よりもほんの少しだけ早く店の近くに着くようにしているという。

「5時開店だったら、5分前には店の近くの電信柱の影で待っています(笑)。入口前をうろうろしていると、お店の方を急かしてしまうことになるから見えないところで待機。暖簾がかかって、やっと戸を開ける。その開店仕立ての空気はまだ冷たくて、凛と張り詰めた感じがとても好きです。うまくすると、次のお客様が来られるまで貸し切り状態になることもあって、ゆっくり品書きを眺めることもできるし、注文した料理もわりとすぐに出てくる。その時間はとても心が安らぎますし、特別に感じます」

他者を想い、阿吽の呼吸を楽しみながら、酒場で過ごすかけがえのないひととき。『予約一名、角野卓造でございます。【東京編】』には、角野さんの思いがつまったとびきりの良店がたっぷりと紹介されている。1ページ、1ページを“味わい”ながら、さぁ今夜はどこの酒場へ出かけようと考える時間が、大人の心をなによりもときめかせてくれる。

角野卓造氏
角野卓造/Takuzo Kadono
1948年東京都生まれ。1970年文学座研究所に入所。1972年『飢餓海峡』で初舞台を踏む。主な出演作にドラマ『渡る世間は鬼ばかり』『HERO』など。グルメエンタテインメント番組『おやじ京都呑み』も好評。

TEXT=小寺慶子

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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