開業から28年を経た京都の名バー『BAR K6(バー・ケイシックス)』。マスター西田稔氏に、カウンターで心地よく品よく美味なるカクテルを楽しむ秘訣をうかがった。
まずは定番を飲み比べて、自分の好みを見極める
「カクテルの種類をたくさん知っている必要はありませんが、自分の好きなカクテルはどんなものかがわかっていれば、より一層バーを楽しめるでしょうね」と話すのは、京都だけでなく、国内外にファンのいるバーテンダー西田稔氏。
料理と同様に、同じレシピであっても誰が作るかで味わいが変わるからこそ、西田氏が作るカクテルを飲みたいというバー通は多い。バーテンダー歴40年以上というキャリアだけではない、お酒への愛や客を喜ばせたいという心からのホスピタリティが、カクテルにも込められるからだろう。
ならば、自分の好きなカクテルを見極めるにはどうすればいいのか、西田氏に尋ねた。
「例えば、まずは定番のジントニックをどこの店でも飲んでみる。すると、お酒選びや作り方、味わいの違いがだんだんわかるようになる。そのなかで誰が作ったものが自分に合うのかと考えればいいんです」
もしもそこで、「これだ!」というカクテルに出合えたらしめたもの。後は、そのバーテンダーのカクテルをさまざまに味わい、距離も縮めていけばいい。
そもそも、日本と欧米ではバーでのスタンスはまったく違うという。例えば欧米ではひとり客が飲んでいても、客から声をかけない限り、バーテンダーは話しかけない。とはいえ、日本ではバーテンダーとのやりとりも楽しみだし、会話のなかで学ぶこともたくさんある。「孤独な経営者には、信頼のおける医者と弁護士、バーテンダーが必要だ」という言葉もあるそうだ。
自宅に帰る前に立ち寄って好きなカクテルを味わい、ほっとひと息つけるバーがあれば、人は強くなれる。そんな行きつけができたとして、カクテルの知識は自ずと増えていくものだろうか。
「臆さず何でもバーテンダーに聞いていただければと思いますよ。映画やドラマのなかにも情報はたくさんあります。例えば、007でジェームズ・ボンドが、“マティーニをウォッカベースで、シェイクで”とオーダーするでしょう。あれは、一般的なマティーニはステアで仕上げるからジンやベルモットの角はとれるけれど、お酒の度数は強いまま。けれどシェイクなら、氷も溶けて味わいがふくらんでやわらかになる。映画のあの場面では、守る人が側にいるから、ボンドは敢えて優しいシェイクを選んだのではないでしょうか」
シチュエーションや体調などに合わせてオーダーする。それはバーテンダーから見ても的を射た注文の仕方なのだそう。
バーは舞台。お客は役者、バーテンダーは監督
では、西田氏はどんな客をスマートだと思うのだろうか。
「バーもお酒も、選択肢を持っている人はさらに強くなります。ふらりと訪ねて満席だったら、また来るよと言って別の店に行く。店が混み合って、手間のかかるカクテルを頼むのが申し訳ない時は、いったんウイスキーをストレートで注文する。お酒をわかっている方です。他にも、何人かでバーに行って、自分のカクテルが先に出た時、乾杯を待たずに先に飲む人は、お酒をわかったスマートな方だと思いますね」
鮨と同じでカクテルも作りたてが一番美味しい。それをわかってすぐに飲む客は、バーテンダーの気持ちがわかる人だと感謝や尊敬の念を抱くと言う。いったい西田氏は、バーをどのような場所と捉えているのか。
「バーは、ある意味舞台のような場所なんです。つまり、店の開店は舞台の開演です。同じカウンターに座るゲストは、舞台に出演する役者で、バーテンダーは監督のようなもの」
だから、バーテンダーはカウンターに座る客全員が心地よくいられるようにコントロールできないといけなく、客側も自分は大勢いるキャストのひとりだと自覚することが大切だとか。
「もし、誰かひとりでも、暴走してその場の空気を乱してしまったら、その舞台は成り立ちませんからね。泣いてもいいし、怒ってもいいけれど、周りをよく見て大人の振る舞いをすれば、結局自分も気持ちよく飲める。カクテルの味をわかる方も素敵ですが、バーを愛してくださる方に来ていただければ、そんな嬉しいことはありません」
バー・ケイシックス/BAR K6
住所:京都府京都市中京区二条通木屋町東入東生洲町481
TEL:075-255-5009
営業時間:18:00〜翌2:00
定休日:無休
座席数:34席(カウンター22席)
料金:カクテル ¥1,100〜、チャージ ¥330