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2026.01.31

仕事がうまくいかない状態では、私生活の充実も難しい。目指すべきは「 ワーク・ライフ・ニュー・バランス」

仕事よりもプライベートを充実させる考え方として語られがちな「ワーク・ライフ・バランス」。しかし、意識構造学に基づくマネジメント理論「識学」を体系化し、著書累計173万部を超える安藤広大氏は、仕事とプライベートを同列に扱うこと自体が“誤解”だと指摘する。識学の考え方は、働き方だけでなく、人生の選択や時間の使い方にも活かせるものだ。第4回では、安藤氏が提唱する「ワーク・ライフ・ニュー・バランス」という、働き方を見直す新しい視点をひも解く。#第1回 #第2回 #第3回

「ワークライフバランスは、もう限界だ」識学が提唱する“新しい働き方”

意味が変容してしまった「ワーク・ライフ・バランス」

2025年、高市早苗総理の「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」という言葉が話題を呼び、流行語大賞に選ばれた。一方で、2000年代以降、日本社会で広く浸透してきた考え方が「ワーク・ライフ・バランス」だ。

2007年には、内閣府が「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」を策定し、具体的な行動指針を提示。その結果、日本の労働時間は大きく減少した。OECD加盟国の平均労働時間を見ると、日本はアメリカよりも100時間以上少ない水準となっている(*1)。

しかしその一方で、労働生産性はOECD38ヵ国中28位(*2)と低迷し、G7のなかでは最下位。さらに、仕事にエンゲージメントを感じている社員の割合はわずか6%(*3)と、世界平均の23%を大きく下回っている。

つまり、日本では「働きがいを感じている人」が、100人中6人しかいないという現実を生み出している。

こうした結果が示すように、「ワーク・ライフ・バランス」という言葉そのものが、日本では本来とは異なる意味で受け取られているのではないかと、安藤氏は指摘する。

確かに「ワーク・ライフ・バランス」と聞くと、仕事よりもプライベートを優先し、私生活を充実させることが大切だ、というイメージを抱く人は多いだろう。

「働くことはツラいもので、プライベートを充実させなければ仕事は続けられない。そんなイメージで捉えてはいないでしょうか。これも“時間軸”を正しく捉えていないから起こる、大きな誤解だと思うんです。

仕事がうまくいっていなくても、今プライベートが充実していれば、確かに心は豊かだと言えるかもしれない。でも、それをずっと継続できるのか。単純に考えても、ワークがうまくいかない状態のままでは、ライフの充実もいずれ難しくなる。その当たり前の現実を、私たちは理解するべきだと思います」

“ワーク”と “ライフ”は、同じ土俵で語るものではない

「そもそも“ワーク”と “ライフ”を同等に扱うことが間違い」と安藤氏は指摘する。

「“ワーク”と“ライフ”は、同質のものではありません。“ワーク”は、唯一、日々の糧を稼ぐ手段です。だからこそ、どんな状況でも外すことはできない。ここで十分な糧を得ることができなければ、“ライフ”の充実を図ることは難しくなります。

もちろん、『残業は当たり前』『土日も働いて当然』といった、かつての昭和のサラリーマンのような働き方を肯定しているわけではありません。それは論外です。

ただ、“ワーク”とは、生活するための基礎にあたるもの。“ライフ”を含めた人生全体を豊かにしたいのであれば、“ワーク”によって得られる糧の量を増やしていくことは、避けて通れないのです」

例えば、今は大好きなキャンプによってプライベートが充実しているとしても、新しいキャンプギアが発売されたら欲しくなるかもしれない。子どもが生まれ、家族でキャンプに出かけたいと考えるようになる可能性もある。

物価高騰といった社会環境の変化はもちろん、未来を見据えれば、現状維持のままでいい人はいない。“ライフ”を守り、広げていくためにも、“ワーク”における成長は、誰にとっても不可欠なものなのだ。

仕事とプライベートの関係性を再定義する

だからこそ、ワークとライフの新しい関係性を再定義すべきと、安藤氏が提唱するのが「ワーク・ライフ・ニュー・バランス(WORK LIFE NEW BALANCE)」である。

「ワークとライフのバランスをとるのではなく、ワークという基礎があるからこそ、ライフが充実する。その前提に立って、ふたつの関係性を再定義することが必要だと考えています」

現在は、「がんばって働くこと=悪」「ワーク=苦行」といったイメージが先行しがちだ。しかし安藤氏は、働くことを人生を削る行為とは捉えていない。

「仕事は、人生をすり減らすものではありません。むしろ、人生を育み、充実させるためにある。その考え方こそが、ワークとライフの新しいバランスです」

さらに、仕事で成長をすることによって、モチベーションは自ずと生まれてくるという。

「マネジメントにおいて、部下のモチベーションを上げる施策を考えるのは無駄な業務だとお伝えしてきました。でも、人は『自分はこの会社で成長しなくてはいけない存在なのだ』という意識のもとで仕事に向き合えば、必ずモチベーションは湧いてくるはず。モチベーションは人から引き出してもらうものではなく、自分で生み出すもの。自己の成長の先に生まれるものが、正しいモチベーションなのです」

​ワークとは、仕事を通じて成果を出し、報酬も自分自身も成長させていくこと。その積み重ねこそが、​ライフ ──人生を豊かにしていく鍵になる。
奇しくも、GOETHE​が掲げるテーマは「仕事が楽しければ人生も愉しい」。
働くことの意味そのものを再定義する──それが、識学の提示する「 ワーク・ライフ・ニュー・バランス」なのだ。

安藤広大/Kodai Ando
識学 代表取締役社長。1979年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。大学時代はラグビー部に所属し、勝敗と向き合う厳しい環境で4年間を過ごす。NTTドコモ入社後、営業としてキャリアをスタート。上場企業への転職を経てマネジメントに携わるなかで、「人のやる気」や「人間力」に依存する組織運営に限界を感じ、識学と出合う。誤解や錯覚を排した明確なルールと仕組みによるマネジメント理論に強く共感し、事業部の立て直しでその有効性を実証。2015年に株式会社識学を設立し、創業4年足らず(3年11ヵ月)東証グロースに上場。現在は延べ5,000社以上の組織改革を支援している。組織マネジメントに関する著書は『リーダーの仮面』などベストセラー多数。「がんばっている人が、正しく報われる組織を増やしたい」という思いが、識学の根底にある。

注釈:
(*1)OECD統計(2024年)
(*2)日本生産性本部「労働生産性の国際比較2025」(2025年12月22日)
(*3)ギャラップ社「グローバル職場環境調査」(2024年)

TEXT=牛丸由紀子

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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