いよいよ6月に2026FIFAワールドカップが開幕する。日本代表を率いて2度目の大舞台に挑む森保一監督は、就任以来、一貫して「日本人らしく戦う」という言葉を口にし続けてきた。体格やパワー、身体能力で勝る世界の強豪に対し、我々日本人が持つ独自のアイデンティティをいかにピッチで表現し、勝利へと繋げるか。これは日本サッカー界が長年抱えてきた命題だが、森保監督の言葉には、目に見えない「日本らしさ」への揺るぎない確信が宿っている。1回目。【特集 2026FIFAワールドカップ】

データには映らない「大和魂」の正体
2018年の就任以来、森保一監督にはコメントの中でたびたび使ってきた単語がある。今回のW杯でもそのキーワードを戦いの中で表現しようとしている。
「『日本人らしく』ということを表現したいと思っていましたし、それを武器にしたいとも思っています。日本人の持つメンタリティ、文化、習慣も含めてチーム作りに反映させて、世界に挑みたいという気持ちです」
森保監督が考える「日本人らしさ」とは、決して古風な精神論だけを指すのではない。それは、現代サッカーの戦術を遂行するための、極めて合理的な「武器」としての側面も持っている。「日本人らしさ」はどのようにピッチの上で反映されているのか。
「サッカーの部分で『日本らしく』とは、身体的に言うと俊敏性であったり、技術力の高さだったりが日本人の良さだと思っています。またチームとして連携、連動できる、察する能力をお互いが分かち合い、繋がって組織として戦うというところを考えています」
そこには日本人が古来より大切にしてきた「大和魂」という言葉が、現代的な解釈を伴って登場する。それは彼がコーチとして参加した2018年ロシアW杯、そして2022年カタールW杯の経験から学んだからだ。チームには大会期間中、多くのファンから「大和魂を見せてくれてありがとう」という言葉が届いていた。

「大和魂の定義も本当はどうなのかわからない。でも、そういう言葉が自然に出てくるということは、日本人の心の中に宿っているアイデンティティなんです。そういう部分は普遍的で世界に誇れるもの。それを表現していきたいんです」
「大和魂」は、分析ソフトやGPSのデータには決して現れない。だがそれが勝負の瀬戸際で大きな差を生むこと、「大和魂」を表現できることが日本人の強さの根幹だと森保監督は考えている。
「大和魂は、勇敢に、そして謙虚さを持って戦うというイメージです。ネット上で見ると『勇敢に、潔く』と出てくるのですが、私は『潔く』はちょっと違うと思っています。日本人は、自信を持っているけれど、同時に謙虚に立ち振る舞える。そういう姿勢を、チームとしても選手個々にも持っていたいと考えています」

1968年8月23日静岡県生まれ。長崎日大高校から1987年からマツダでプレー。1992年にハンス・オフト監督によって日本代表に抜擢され、ボランチとして「ドーハの悲劇」を経験した。1998年は京都パープルサンガ(現・京都サンガ)に期限付き移籍。2002年にベガルタ仙台へ移籍し、2003年に現役引退。引退後は指導者の道に進み、2012年にサンフレッチェ広島の監督に就任。3度のJ1リーグ優勝を果たす。2017年よりU-21日本代表監督、2018年からは日本代表監督を兼任。2022年カタールW杯ではドイツ、スペインを破りベスト16に導いた。国際Aマッチ通算35試合出場1得点。日本代表監督として初めて国際Aマッチ100試合以上を指揮し、過去最高の勝率約70パーセントを誇る。
理想の組織像は『ONE PIECE』のチーム
森保監督の組織論を語る上で欠かせないのが、聖徳太子の言葉として知られる「和を以て貴しと為す」だ。しかし、彼が目指す「和」は、個性を殺して周囲に合わせるような「馴れ合い」とは無縁である。監督は、その理想の姿を、誰もが知る大人気漫画のチーム像に重ね合わせる。
「目指すべきところの根幹は、個から成り立つということにフォーカスして、最終的にそれを和に持っていきたいということです。『和して同ぜず』。漫画でいうと『ONE PIECE』みたいなイメージです。自分がルフィというわけではないですが、それぞれが個々の特徴、自分だけの武器を持っていて、一人でも世界を渡り歩いていけるプロたちが揃っている。
一見、みんな馴れ合いの仲良さはないように見えても、目指すべき方向はみな同じ。かつ、本当に必要な時、大切だという時にはお互い助け合える。そういう強い心を持った個性を、チーム力に活かしていけるようにしたいんです」
これまでの日本サッカーは、時に「組織」を優先するあまり、突出した「個」を敬遠する傾向もあった。だが、森保監督は「個」の野心を肯定することから「和」が始まると説く。

「みんな選手たちは『俺が一番だ、俺が王様だ』と思っていい。そういう尖った選手たちが、同時に仲間のために、チームのために、そして日本のために戦えると思ってくれるように、アプローチをしていきたい。最初からチームをまとめるのではなく、強い個が結果として繋がり合う組織です」
「新世界」を目指す戦いのために個性豊かな面々が味方として集結した姿こそが、森保監督が追い求めてきた日本代表の形なのだ。
※2回目に続く

