2025シーズン、FC町田ゼルビアは、リーグ戦のほかに天皇杯とACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)に参戦。リーグ戦とトーナメント戦、日本とアジアという異なる目標に対し、黒田剛監督は、チームのモチベーションをどう維持し、コントロールしたのか。3回目。【インタビューをすべて読む】

国立の決勝は開始15分で試合が決まる
――2025シーズン、リーグ戦は6位に終わりましたが、天皇杯では初優勝を果たし、アジア最高峰のクラブトーナメントACLEに初参戦中です。天皇杯のラウンド16が8月から始まり、ACLEは9月からスタートしましたが、すでにリーグ戦は優勝争いが難しくなった時期でした。選手のモチベーションはいかがでしたか?
黒田 天皇杯は8月27日に鹿島に勝ってベスト8まで進んだので、チームとしては「絶対にタイトルを獲る!」という気持ちで一丸となっていました。カップ戦のタイトル獲得は目標のひとつでしたし、クラブとしての悲願でしたからね。
ちょうど怪我人が戻って来たり、新たに起用した選手たちがフィットしてきたりと、チームの状態が好転していた時期で、いい具合に選手たちのモチベーションも高まっていました。ギアが一段上がったという感じです。そう考えると、前半苦しんだ時期がチームや選手にとって糧となり、より強いチームになれた結果、天皇杯を獲れたとも言えます。
もちろん、リーグ戦でも素晴らしい内容の試合もありました。優勝の目がなくなったといっても20チーム中6位です。簡単に得られる結果ではありません。我々はひとつでも順位をあげようと、全力で挑み続けました。それは、プロとして当たり前のことですし、そうでなければ応援してくださるファンやサポーター、スポンサーに申し訳ない。それに、全力で挑むからこそ取り組むべき課題が見つかるわけです。中途半端に力を抜いて得た順位は、次につながりません。
ACLEは、ヴィッセル神戸とサンフレッチェ広島を含む東西12クラブ、全24クラブが参戦し、FC町田ゼルビアは、6試合終えた2025年末時点でEAST2位につけています。正直、「もっとやれた」「勝たなければならなかった」という試合もありますし、ウチの力はまだまだこんなものではないという気持ちもありました。クラブ初のACLE参戦、最低でも8位以内(予選リーグ突破)と考えていましたし、選手たちはそれ以上(4位以内)という欲が出ていると思いますよ。

1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業等を経て、1994年に青森山田高校サッカー部コーチ、翌年、監督に就任。以後、全国高校サッカー選手権大会3度の優勝を含む全国大会7度の優勝。2023年からFC町田ゼルビアの監督に就任し、2023シーズンはJ2優勝、2024シーズンはJ1 3位、2025シーズンは天皇杯優勝を果たす。著書、『勝つ、ではなく、負けない。 〜結果を出せず、悩んでいるリーダーへ〜』(幻冬舎)も好評。
――黒田監督は、天皇杯決勝戦の前に、「開始15分で何かが起こる」とおっしゃっていましたが、その通りでしたね。開始6分で先制し、前半のうちに追加点をあげ、3-1で勝利しました。青森山田高校時代からカップ戦に強い監督というイメージがありましたが、選手にはどのような声がけをされましたか?
黒田 青森山田高校時代、何度も国立競技場で決勝戦を経験させてもらいましたが、満員のスタジアムで勝った時の嬉しさや負けた時の涙は今でも忘れていません。トーナメントは負けたら終わりの一発勝負で、独特の緊張感や重圧があります。やるかやられるかという精神状態の中で、相手に向かっていくという気概、勢いのある状況をいかにつくれるかが重要です。
だから、最初の15分がカギになる。それは、先人、高校サッカーの大先輩たちが言ってきたことでもあり、実体験に基づく感想でもあります。立ち上がりは、審判にも試合の基準を作られる時間帯、スタジアムの雰囲気にあらゆる感情が揺れる時間帯、勢いの違いが出やすい時間帯であり、試合が大きく動きやすくなります。これは、高校サッカーで30年間やって来た私の経験則でもあります。
プロの選手たちに高校サッカーの話をするのは適切ではないかもしれません。でも私には、その話しかできない。「高校サッカーの話で申し訳ないんだけど」と選手たちにそう断った上で、「開始15分で必ず試合は動く。一瞬のプレーで勝負は決まる。だから立ち上がりから一気に相手を飲み込んでいく必要があるんだ」と強く伝えました。
選手たちはその言葉を、重く、そして誠実に受け止めてくれました。結果、開始6分の先制点や追加点に繋がったのでしょう。高校サッカー出身の私の言葉に、日常的に耳を傾け、素直に受け入れてくれる選手たちの素晴らしさを、改めて感じる機会にもなりました。

非難されたロングスローは今や世界的スタンダードに
――高校サッカーといえば、FC町田ゼルビアの監督に就任した際、「高校サッカーの監督がプロの世界で通用するわけがない」などのバッシングがありました。青森山田高校の代名詞のひとつでもあったロングスローを取り入れたことにも批判が集まりましたが、今やJリーグの多くのチームがやっています。それどころか、プレミアリーグなど世界でもスタンダードになっています。
黒田 「あの時のバッシングは何だったんだ」と思わないでもないですが(苦笑)、高校サッカーからプロチームの監督になることにしてもロングスローにしても、長年Jリーグを応援してきた人たちにとっては異質に映ったのでしょうね。
勝負の世界では、見慣れていないものに対して異を唱えたくなるのは、ある意味しかたがないと思っています。私はともかくとして、チーム自体も誹謗中傷されたのでかなり辛い状況ではありましたが、そこは割り切って細部に拘り、目の前の一試合、一試合に臨んでいくしかないかなと。勝負の世界ですから。
そもそもロングスローは、青森山田に限らず、高校サッカーでも大学サッカーでも取り入れられていて、ルール上問題がないポピュラーな戦術。うちの選手たちだって、アンフェアだと思えば絶対にやりたがらなかったと思いますが、ルールに則った有効な策だと理解したからこそ実践してくれたわけです。そう考えると、FC町田ゼルビアが注目されたからこそ目につき、批判の的になってしまったのだと思います。本当に怖い世界ですね。
ロングスローは、ただ遠くにボールを投げているだけではなく、戦術的な効果も大きいんですよ。相手がロングスローによる得点を警戒し、背の高いフォワードまでゴール前に下がってきて守ろうとするので、カウンターをくらうリスクが減りますからね。
しかも、相手のフォワードは、こちらのゴール前から自分たちのゴール前へと長距離を何度も走ることになり、過剰に体力を消耗することにもなります。得点する、自分たちのゴールを守る、相手の体力をそぐなど、さまざまな効果があるとJリーグ全体が理解したのでしょう。今や、あれだけ猛烈に批判や抵抗していたチームも取り入れていますし、それでゴールを奪っているチームも少なくありませんから(笑)。
ーーリーグに新たな旋風を起こした黒田監督にとって、プロ4年目のシーズンがいよいよ始まる。最終回は、新シーズンに向けた抱負、そして、リーダーとしての目標設定の仕方についてインタビューする。

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