常勝軍団、青森山田高校からFC町田ゼルビアの監督に転じ、わずか1年でJ2からJ1に昇格、そして2024年J1での大躍進させた名将、黒田剛監督。著書『勝つ、ではなく、負けない。』の刊行記念トークイベントで明かした「強さの秘密」を、全8回に渡って紹介する。1回目
同じ方向を向いてこそ、チームの一体感が生まれる
高校サッカー部の監督からJリーグチームの監督へ。「無謀」とも揶揄された挑戦が花開き、前年度はJ2の15位に甘んじていたチームを優勝に導いてJ1に昇格させたうえ、今シーズンも快進撃を演出している黒田剛氏。アマチュアにも、プロにも、ビジネスにも通じる“チームを強くする力”をまとめた著書『勝つ、ではなく、負けない。』は、発売からわずか5日で重版になるなど、大きな話題を呼んでいる。
その刊行記念イベントで、黒田氏と対談したのは、J2優勝の原動力となり、2023年現役を引退、現在、FC町田ゼルビアのアンバサダーを務める太田宏介氏。1年間、黒田氏の薫陶を受けてきた太田氏が、参加者から事前に寄せられた黒田氏への質問を軸に、“黒田マジック”の真髄に迫る。
太田 早速ひとつめの質問、組織マネジメントについて。黒田さんが、チームを束ねるうえで大事にしていらっしゃることを教えていただけますか?
黒田 これはどんなことにも通じるのですが、私は常に、「自分だったらどうだろう」「どういう導き方をされるのが解りやすいだろう」と考えることを基本にしています。そのうえで、チームを束ねることという質問について答えさせていただくと、ひとりとして脱落者を出すことなく、みんながチームの一員として、自分の存在をしっかり認めてもらえる組織づくりが大事だと思っています。チームの一体感を出すには、誰かひとりでも、疎外されているとか当てにされていない、必要とされていないと思ってしまう状況が一番よくない。だから、(就任直後の)春のキャンプの時は、監督の考え方やFC町田ゼルビアというチームの存在価値、組織の在り方、チームのルールといったガイダンスだけでなく、縁あってここに集まった人たちの絆を、ひとつに結束したいということを伝えました。みんなが、勝利、そして優勝という掲げた目標に対して、同じ方向を向いて進んでいく。それが、最初にやらなくてはいけないこと。そのためには、選手ひとりひとりに具体的にアプローチし、寄り添うことが重要だと思っています。
世代にあわせてアプローチ方法を変える
太田 黒田さんが監督に就任した当時、僕は選手としてFC町田ゼルビアに所属していました。いわば、中から黒田さんを見ていたわけですが、黒田さんは、選手やスタッフだけでなく、会社の社員全員を含め、コミュニケーションの取り方が絶妙でした。(相手の)世代によって、話し方や接し方で意識していることはあるのでしょうか?
黒田 私は30年間高校の教員をやってきて、Z世代(1996年頃~2010年頃生まれ)ともY世代(1980年頃~1995年頃生まれ)とも深く接してきました。だから、世代によって、特徴や思考も、取り巻く環境も違うことは実感しています。たとえば、Z世代は承認欲求が強く、「他人からもっと認められたい」「評価されたい」という思いが強い一方、プライベートと仕事を混同されるのを嫌う傾向がある気がします。対して、Y世代は、高校時代にはきつい練習をさせられたり、ガマンを強いられることも多かった世代だと思います。プロのチームは、その両方が混在しています。それぞれ求めるものも、要望のしかたも違いますから、声のかけ方、アプローチのしかたも変えることが大切だと思います。
――黒田氏は著書『勝つ、ではなく、負けない。』のなかで、Z世代に対する有効な接し方について「感情、とくに悲劇感をコントロールすることを大切にしてきた」と語っている。たとえば、全国優勝という目標を達成させたいなら、「優勝したら100万円あげる」よりも「優勝できなければ100万円払ってもらう」のように、“失う”という悲劇的な感情を揺さぶるほうが有効だと。それは、多数のZ世代と密接に触れ、特徴を熟知してきた黒田氏だからこそ見いだせたマネジメント法だ。
次回は、「モチベーションのあげかた」について語ってもらう。