日本一7回、プロ選手80人以上を輩出した、青森山田高校サッカー部の名将・黒田剛がプロへ。たった1年で前年15位だったFC町田ゼルビアをJ2優勝へ、さらに、2024年はJ1で大躍進中。今回、著書『勝つ、ではなく、負けない。』刊行を記念して、チームオーナーの藤田晋との対談をお届けする。
ビジネスは競争、サッカーは「超競争」
藤田 黒田さんを2023年のシーズンからゼルビアの監督に抜擢したのは、差別化戦略です。Jクラブでの監督経験者や外国人監督などいろんな選択肢がありました。ただ、オファー可能な監督は、結果が出ていない人が多く、革新的な変化は起こすことができないのではないか。であるならば、未知の魅力に賭けよう、そのほうがよっぽどいい結果を出す可能性が高い、そう判断したんです。
黒田 選んでいただき、ありがとうございます。
藤田 ビジネスは「競争」ですが、サッカーは「超競争」です。誰かが勝ったら誰かが負ける、人気も売り上げも勝っているところが全部持っていき、負けているところが全部取られる、つまりゼロサムですよ。だから絶対に勝たないといけないのですが、他のクラブと同じことをやっていたら意味がないんです。だから違う分野である高校サッカー界から、プロの経験はありませんが“名将”と呼ばれた黒田さんを招聘しました。
前例がない、といえばそれまでですが、これこそが他と違う差別化戦略です。ゼルビアが昇格争いをしていて、わずかな差で昇格を逃したチームだったら別の考え方もあったかもしれません。2022年シーズンの結果は15位。他のクラブと同じようなことをやっていたら飛躍的な結果は出せない。そんな状況下での決断でした。
優勝と準優勝どちらを目指すかでマネジメントは違う
藤田 2023年の話ですが、「J1昇格」を目指すチームと「J2優勝」を目指すチームで、何が変わると考えていたのですか?
黒田 優勝するチームは隙がないチーム。「勝者のメンタリティ」を持つ組織です。勝つための思考をチーム全員が持ち続ける。そして、それを習慣にする。よい習慣、勝つための習慣というものを組織内にいかに早い段階で浸透させていけるかどうか。そうすることによってチームからよい発想やよい行動というものが生まれてきます。
こういった流れをやはり1日でも早くチームや組織のなかに浸透させて、かつ実践させていく。勝つための思考に選手たちがなってくると、こちらが細かいことを言わなくても自ずと活動や行動を取っていきます。こういった歩み方をしてくれるのが組織にとっても最も重要なことではないでしょうか。
藤田 これ、めちゃくちゃいい話ですよね。サイバーエージェントの社内でもこういった内容で黒田監督に講演してもらったのですが、大好評でした。
黒田 やるからには優勝しかありません。今まで青森山田で指導者をしてきた約30年もそうであったし、頂点を目指さないスタートはあり得ません。J1昇格の2位以内を目標とした時点で、優勝をすることは難しくなります。1位と2位のマネジメントはまったく違うんです。優勝を目指すには、どこよりも抜きんでたチームマネジメントをしていかなければいけないと思っています。
負の要素を徹底的に潰す
藤田 ある取材で「黒田監督はグループ会社の社長になっても結果を出しそうです」と答えたんです。それは、最初にすごくネガティブに考えて徹底的に対策してから、最後に送りだす時だけポジティブなタイプだからです。ちょっといいところまでいくと「完璧だ、飲みに行こう」みたいな詰めが甘いタイプが多い。
比べて黒田監督はネガティブ面を徹底的に潰すための準備を本当にしっかりやっている。僕なんかが思いつく懸念点を先に気づいて潰してしまう。そして、やれるべきことを全部やりきって最後に送りだす時は絶対に勝つぞ、と。さらに感心したのは、最後の最後には神社へ行って神頼みまでされていると聞きました。
黒田 それは私にとって特別な習慣になっています。ギリギリの勝負、究極のところで自分の「勘」を信じたいからなんですよね。監督として日々の采配に正解などありません。だから正解でも不正解でも、最後に「成功」につながっていくことを祈っています。そして試合で勝っても負けても、日頃の感謝の気持ちを伝えるために通っているんです。
藤田 すべてを準備して最後は運でも負けたくないので、神頼みをしている。つまり、そこまでも潰しているんですよ。これで運悪く負けたら、たまらないですよね(笑)。