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2023.07.31

J2町田快進撃の理由! チームの明暗を分ける「良いベテラン」「悪いベテラン」【黒田剛監督インタビュー】

FC町田ゼルビアは、現在単独首位(7/28時点、勝点54・得点43・失点20)をひた走る。1年目で結果を残す黒田剛監督のチームマネジメント論に迫るインタビュー第2弾、3回目。【#1】【#2】

チームを勝利に導く、ベテランとの接し方

――ベテラン選手との接し方について教えてください。

黒田 ベテラン選手はただ歳をとっているのではなく、さまざまな経験を経て、酸いも甘いも知りながらチームに貢献し続けていますから、しっかりリスペクトして接することはとても大切なことです。

まず、若者の前でベテランの価値を認めることはとても重要なことです。チーム全員にベテランがいることの有効性やアドバンテージを伝え、チームのためにどれくらい彼らが大事な存在なのかを示すことによって、ベテランの持つパワーが若者をコントロールするパワーとして大きく作用するようになります。

監督から信頼され、貴重な存在として対応してもらえたら、彼らは後輩に対して雑なコントロールはしませんし、より良い先輩でいるはずです。ですから、ベテランも若手も同じチームメイトであれ、リスペクトの無い関係性というのは良くないし、チーム内秩序を有効に保つために必要な距離感だと思っています。

ただし、長年やってきたからといって、イコール経験値を積んできた人ばかりではありません。成功と失敗を経験しデータとして持っていたり、チームのために誰よりも尽力できる人が真のベテランと言えます。スキルのみや惰性でやり過ごしてきた人、わがままに立ち振る舞ってきた人は有効な経験値を持っていません。また他人に気を使わせたり、横柄な態度が目立つ人もベテラン選手としては存在価値を生みません。ですから、若手に対して正しいアドバイスや指導ができ、信頼され、周囲から担がれるほどの人格を持った人がコーチングスタッフにとってもありがたい存在になります。

――ベテラン選手にも様々なタイプがいると。

黒田 はっきり言ってしまえば、良いベテランと悪いベテランという区別があるんです。いいベテランはチームにとってプラスになるけれど、悪いベテランはチームにとってマイナスにしかなりません。ビジネスの場で例えると、ぶら下がり社員と呼ばれる人のイメージかもしれません。彼らは40代や50代で役職につかず、ただ自分たちが長く居続けていることに根拠のないプライドを持ち、他人の意見に耳を貸さない、発展の妨げになる、いわゆる給料泥棒と言われている人たちです。そして当の本人は全く気づいてないのが更に痛いのです。

若者の経験や意見を軽視し「昔はこうだった、ああだった」と言っていますが、自分のなかに新しい発想があるわけではありません。給料だけそれなりにもらっているだけで、若者が新しいアイデアを出しても否定しがちな人たちです。このようなベテランは会社には必要ありませんし、組織にとって望ましくありません。

チームや組織においては、ベテランと若手が協力し合い、経験と新しい視点を融合させることが重要です。ベテランは若者の意見やアイデアに対しても開放的であり、協力し、指導することが求められます。若者もまた、ベテランの経験や知識を尊重し、敬意を持って接することが大切です。相互の尊重とコミュニケーションを通じてチーム全体の力を最大限に引き出すことが大切なのです。

――悪いベテランとはどう接するべきでしょうか?

黒田 どんな相手であったとしても、まずは尊重することが大事です。実際に周囲からはそこまで力がないと評価されていても、これまでいろいろな経験を経て、周囲が知らなかった時代をこの人は知っている、だからこそ「この人じゃないと出来ない」こと、「この人しか活躍できない仕事や役割」は何だろうと考えてあげるべきです。変にわだかまりのある関係性を構築する必要は全くありません。

相手の経験値を信頼し、やり甲斐を持って立ち振る舞う事ができれば、その人の能力がポジティブに働き始める。良いところを見てあげながら、アドバイスを求めるなど適切に頼ることで、悪いベテランも良いベテランとして生きかえらせることができる。そこがリーダーの真価が問われるところではないでしょうか。

黒田剛/Go Kuroda
1970年生まれ。大阪体育大学体育学部卒業後、一般企業等を経て、1994年に青森山田高校サッカー部コーチ、翌年、監督に就任。以後、全国高校サッカー選手権26回連続出場、3度優勝。2023年よりFC町田ゼルビアの監督に就任。「2023明治安田生命Jリーグ 月間優秀監督賞」2・3月度(J2)受賞。

組織成長の秘訣は、次のステージより「目の前の一歩」

――今、FC町田ゼルビアはJ1昇格・J2優勝を目指してチーム全体で戦っています。次のステージへ上がるために必要なことは?

黒田 具体的なイメージというものは、まだ持っていないです。自分にとってはすべてが初めての経験なので、別の試合と比較することができないのです。手探りななかで昨年のデータを引っ張り出して比較しながら進めている部分もありますが、順位が既に去年と異なるためそのデータを活用するのは非常に難しい状態です。

だからこそ、自分たちは1つのタームを7試合として勝点15ポイントを獲得するという目標(6ターム勝点90ポイント)を開幕前から掲げました。先を見ながら、あるいは見えていない先を考えながら戦うことは、今のチームにとって最も避けなければならないことです。目の前の一歩だけを見据えて進んでいく必要があります。

これからの10節や15節を戦っていくなかで、リーグの残りが4試合や5試合になった時に初めて2位のチームと何ゲームの差があるのか、3位のチームと何ゲーム差なのかを考える。そういった状況に応じた戦略であれば、少しは計算できるでしょう。どうやって勝点を増やしていくかに関しては、これまでの30年の指導経験や高校でのトップリーグなどの経験を活かしてコントロールできると考えています。

チームが横道に逸れたら、一旦フラットに戻す

――負けた時のチーム・組織の軌道修正や再構築について教えてください。

黒田 チームは一気に優勝に向かうわけではなく、途中で横道に逸れたり、それぞれが違う方向を向いていたりすることもあります。そんなときにはチームを一度壊さなければならない状況もあります。一度スタート地点に戻らなければ、目標にたどり着くことは絶対にできません。だからこそ、チームが後戻りしなくてもいいようにチームビルディングの早い段階から、ベース作りや意識付けを徹底してやっていかなければならないのです。

とはいえ、僕は「壊す」という表現は好きではありません。チームが結果に苦しんだとき、後戻りしたり、壊さなくてもいいように細部に拘ってチームビルディングに時間をかけていくのです。これは監督1人でやっていくことではありませんし、コーチングスタッフ皆んなで役割を決めて実施していくことです。目標とする「優勝」から逆算した形で、それぞれが適材適所で力を発揮できるように配置していくこと、働きかけていくことが重要なんです。組織作りとは皆んなで作っていくから楽しいし、一体感が生まれるし、簡単には壊れにくい組織になるのです。責任の詳細もわかりやすく適切な方向性をもって歩んでいけるのです。

チームが意図する結果に恵まれず、チーム内の意思統一が図りにくくなったり、意識が散漫になったり、チームの方向性が「目標ベース」から逸脱したとしても、各々で十分修正できる思考力や実践力を成長させることが狙いでもあります。いついかなる時も自チームの現状に「メス」を入れられる勇気と柔軟性、理解力が重要ですし、常に軌道修正できる意識的準備を怠らせないことも大切な要素です。それがチーム組織の「ベース作り」です。そのベース作りをチームで共有し、しっかり鍛錬しておけば、大きくブレることなくチームを育て上げることができるのではないでしょうか。

結局のところ、「優勝」というピラミッドの頂点からの逆算のなかで、選手たちがそのイメージ(道筋)を明確に描けていけることが最も重要なのです。「心技体」において、様々なプラス要素を隙間なく積み上げていくことで高い頂点が見えてくる。我々指導者の仕事は、その競技を教えていくことだけでなく、何があってもブレない強い組織を作っていくこと、「勝利」のために必要な良い習慣を築いていくこと、そして応援してくれる全ての人たちの想いを感じて全力で動けること、そんな「信念」を追求していくことだと思っています。

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TEXT=上野直彦

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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